PRESS RELEASES

印刷

カスパーゼ阻害タンパク質の時空間的な代謝による細胞運命の制御研究成果

カスパーゼ阻害タンパク質の時空間的な代謝による細胞運命の制御

カスパーゼ阻害タンパク質の時空間的な代謝による細胞運命の制御

発表者:
古藤 日子(東京大学大学院薬学系研究科 博士課程3年)
倉永英里奈(東京大学大学院薬学系研究科 講師)
三浦 正幸(東京大学大学院薬学系研究科 教授)

発表雑誌:
米国細胞生物学雑誌「The Journal of Cell Biology」 2009.10.19号
(電子版では10月12日に掲載)

注意事項:
 公表は、日本時間10月12日午後10時(米国東部時間10月12日午前9時)以降にお願いします。

概要:
  東京大学大学院薬学系研究科 三浦正幸教授の研究グループは、システインプロテアーゼであるカスパーゼが細胞死の実行のみならず、細胞骨格の制御等の非細胞死機能を発揮するための調節機構として、カスパーゼ抑制因子であるIAPタンパク質の分解、及び安定化が経時的に厳密に制御されることが重要であることを明らかにした。この研究は、ショウジョウバエ外感覚器形成の全過程を、新たに作製した蛍光プローブを用いた生体イメージングにより明らかにしたもので、細胞死シグナル動態と機能を、生体において単一細胞レベルで解明した初めての報告である。

発表内容:
  システインプロテアーゼであるカスパーゼ(caspase)は線虫からほ乳類まで高く保存されており、細胞死の実行に寄与している。また、近年カスパーゼは細胞死の実行のみならず、細胞増殖や細胞移動、細胞骨格の制御など様々な生命現象にも関与することが報告されており、その役割は多岐にわたり重要であると考えられる。しかしながら、カスパーゼの細胞死における役割と、その他の非細胞死機能が生体内においてどのようにして調節され、両立するのかについては未だ明らかにされていなかった。その理由として、発生過程においては細胞死を含め、様々なイベントが時間的・空間的に厳密に制御されているため、発生途中の個体を解剖して行う分子・生化学的解析や、別々の個体を発生時間に沿ってそれぞれ固定して擬似的な経時的観察を行う従来の免疫組織化学法では解明が困難とされてきたことが挙げられる。本研究では、ショウジョウバエをモデル生物として、細胞死シグナルが「どこで」「どのタイミングで」進行し、またそのアウトプットとして「どのような生命現象に結びつくのか」を生きた個体の中において、一連の過程として生体イメージング観察することにより、カスパーゼの多機能がどのように制御されるのかを明らかにすることに成功した。
  カスパーゼ阻害因子であるDIAP1(Drosophila Inhibitor of apoptosis protein 1) はユビキチンリガーゼ(E3)としての活性を持ちカスパーゼに結合、分解することでカスパーゼの活性化を阻害する。しかしながら、一旦、細胞死刺激が入るとDIAP1自身の分解が促進され、DIAP1分解がカスパーゼの活性化の引き金となり、細胞死が誘導されると考えられている。そこで、本研究ではDIAP1タンパク質の分解に着目し、そのタンパク質動態を生体イメージング解析することにより、カスパーゼの活性化調節機構、及び生理機能を時空間的に解明することを試みた。
  我々はDIAP1のタンパク質動態を検出する蛍光プローブを作成し(図1)、ショウジョウバエ中胸背毛の発生における細胞死シグナルのイメージング解析を行った。中胸背毛は1個の前駆細胞から非対称分裂により生ずる4種の細胞群から形成される(図2A、B)。今回、中胸背毛を形成する細胞系譜の運命決定、非対称分裂、最終分化過程において、DIAP1のタンパク質レベルは細胞種、及びその分化段階依存的に安定化、または分解促進されることが明らかとなった (図2C)。さらに野生型で観察されたDIAP1タンパク質の動態を遺伝学的に変化させることを試みた。その結果、DIAP1分解を抑制した個体においては感覚剛毛の形態に異常が観察され、diap1の発現をノックダウンした個体においては感覚剛毛を形成する細胞において異所的な細胞死の誘導がおこることが観察された(図3)。以上の結果は、中胸背毛を形成する細胞系譜の、特に感覚剛毛を形成する細胞において、DIAP1が細胞死の抑制のみならず、細胞骨格の制御にも関与しており(図4)、DIAP1タンパク質レベルの経時的変化がカスパーゼの細胞死、非細胞死機能のスイッチングに寄与することを強く示唆している。
  生体イメージングによって明らかとなったもう一つの驚きは、細胞死抑制に必須と考えられてきたDIAP1が感覚器形成過程において消失することであり、この結果は、カスパーゼ活性化制御が多段階的に行われることを示唆している。本研究によって、外感覚器という細胞社会形成過程での細胞死シグナル動態が明らかとなった。カスパーゼ活性は全か無かの調節を受けているのではなく、一連の時間軸に沿って巧妙に調節されることで、カスパーゼの細胞死と非細胞死両方の機能を巧みに発揮させていることが明らかになった。 
  本研究は、平成21年10月19日発刊の米国細胞生物学雑誌「The Journal of Cell Biology」で掲載され、雑誌のハイライトとして紹介される。

発表雑誌:
米国細胞生物学雑誌「The Journal of Cell Biology」 2009.10.19号
論文タイトル: Temporal regulation of Drosophila IAP1 determines caspase functions in sensory organ development
著者: Koto A, Kuranaga E, Miura M.

問い合わせ先:
東京大学大学院薬学系研究科遺伝学教室
教授 三浦 正幸
講師 倉永英里奈 

添付資料

アクセス・キャンパスマップ
閉じる
柏キャンパス
閉じる
本郷キャンパス
閉じる
駒場キャンパス
閉じる