PRESS RELEASES

印刷

腸管神経系の正常な発達に必須の遺伝子KIF26Aの発見研究成果

腸管神経系の正常な発達に必須の遺伝子KIF26Aの発見

腸管神経系の正常な発達に必須の遺伝子KIF26Aの発見

1.発表概要:
 東京大学大学院総合文化研究科 廣川信隆特任教授の研究グループは腸管神経系が正常に発生するために欠かせない遺伝子KIF26Aを発見した。KIF26A遺伝子を欠損したマウスでは腸管神経系に異常がおこりヒトの巨大結腸症という病気に似た症状が引き起こされた。

2.発表内容:
 胃から小腸を経て大腸にいたる消化器官には腸管神経系と呼ばれる神経細胞が網目状に張りめぐらされており、食物の消化吸収や腸の蠕動運動(注1)が正常に行われるために必須である。腸管神経系の異常は巨大結腸症(注2)や過敏性腸症候群などのさまざまな病気に関わっていることが知られている。
 今回、廣川特任教授のグループはKIF26A遺伝子が腸管神経系が正常に発達するために必須であることを明らかにした。KIF26Aは廣川特任教授が発見したキネシンスーパーファミリータンパク群(KIF)と呼ばれる一連の細胞内分子モータータンパク質の仲間であるが、ほかのKIFとは異なりモーターとしての機能をもっていないユニークな構造をしており、その機能は不明だった。
 KIF26Aの機能を調べるために遺伝子組換え実験によりKIF26A遺伝子を人為的に破壊したマウスを作製したところ、KIF26Aを欠損したマウスの大腸では腸管神経の細胞数が異常に増加していた。その結果、蠕動運動が正常に行われなくなり腸閉塞が引き起こされた。これは人間の巨大結腸症とよく似た症状である。
 腸管神経の細胞数はGDNF(注3)と呼ばれる成長因子でコントロールされていることが知られている。KIF26Aを欠損したマウスの腸管神経細胞を調べてみると、GDNFに対する感受性があがっていた。逆に、人工的に細胞内のKIF26A遺伝子の働きを強めたところ、GDNFに対する細胞の反応が抑制された。これらのことからKIF26A遺伝子はGDNFのブレーキとして働くことがわかった。
 腸管神経細胞が異常に増殖することによって引き起こされる巨大結腸症はヒトでも報告されているが今日までその原因は全くわかっていない。KIF26A遺伝子を調べることで原因が明らかになる可能性がある。また、GDNFのシグナル伝達系の亢進は甲状腺癌や神経腫の原因になることも知られているので、それらとKIF26A遺伝子の異常の関係も興味深い。

3.発表雑誌:
Cell 11月13日号
論文タイトル: "KIF26A is an unconventional kinesin and regulates GDNF-Ret signaling in enteric neuronal development"
著者: 周如贇(*) 丹羽伸介(*) 本間典子 武井陽介 廣川信隆
     (*同等貢献)

4.注意事項:
日本時間11月13日午前2時(現地時間11月12日正午)までは報道しないようお願い申し上げます。

5.問い合わせ先:東京大学大学院医学系研究科細胞生物学教室

6.用語解説:
注1:蠕動運動(ぜんどううんどう)
口側から肛門側に向かって食物や消化液を押し出す腸の運動こと。腸管神経系の働きによって規律正しく腸平滑筋が収縮することによってコントロールされる。

注2:巨大結腸症
腸の蠕動運動が正常に行われなくなることで一種の腸閉塞が起こり、閉塞部分より上部の腸に便が貯留して腸管が肥大化する病気。先天性、後天性に腸管神経系に異常が起こることで引き起こされる。いくつかのタイプが存在しており、先天的に腸管神経節がなくなることによっておこる巨大結腸症はヒルシュスプルング病と呼ばれており、原因となる遺伝子がいくつか特定されている。その他にも腸管細胞が増えることで引き起こされる巨大結腸症も知られているが、こちらは原因不明である。

注3:GDNF
グリア細胞由来神経細胞成長因子。グリア細胞から分泌され、腸管神経の細胞の増殖を促す。GDNFは腸管神経細胞以外にも様々な細胞の増殖を促すことが知られており、GDNFシグナル伝達系の異常は腸管神経の発達異常だけでなく、甲状腺癌、神経腫など様々な腫瘍の原因になる。

アクセス・キャンパスマップ
閉じる
柏キャンパス
閉じる
本郷キャンパス
閉じる
駒場キャンパス
閉じる