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記者会見「癌抑制遺伝子であるBub1キナーゼの標的経路の発見」研究成果

記者会見「癌抑制遺伝子であるBub1キナーゼの標的経路の発見」

平成21年11月13日

報道関係各位

    東京大学分子細胞生物学研究所

記者会見の開催について

1.発表日時:平成21年11月16日(月)15:00~16:00
 
2.発表場所:東京大学分子細胞生物学研究所 生命科学総合研究棟3階
          302号室(弥生キャンパス内:東京都文京区弥生1-1-1)
         http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam01_07_09_j.html
         東京メトロ南北線「東大前」下車5分

3.発表タイトル:「癌抑制遺伝子であるBub1キナーゼの標的経路の発見」

4.発表者:東京大学分子細胞生物学研究所 染色体動態研究分野
        教授 渡邊嘉典 

5.発表概要:
 東京大学分子細胞生物学研究所(所長 秋山徹)の染色体動態研究分野の川島茂裕特任研究員と渡邊嘉典教授らは、染色体の正確な分配を保証することにより細胞のがん化を抑える役割のある、Bub1キナーゼの標的経路を明らかにした。

6.発表内容:
 細胞の染色体(注1)は遺伝情報(ゲノム)を担っており、ヒトの細胞では46本の染色体をもつことが知られている。細胞が増殖分裂する過程で、複製された染色体のコピーは娘細胞へ均等に分配される。ここで染色体の分配に間違いが起きることが、癌細胞が生まれる一つの要因になると考えられている。Bub1キナーゼ(タンパク質リン酸化酵素)は20年近くまえに発見された、染色体の正確な分配に必要なタンパク質である。ヒトの癌細胞の遺伝解析およびマウスを用いた遺伝子改変実験から、Bub1キナーゼに変異が生じると癌が多発することが証明されている。しかし、Bub1キナーゼが細胞内のどのようなタンパク質をリン酸化することによって正確な染色体分配を保証しているのか、その分子機構については謎に包まれていた。

 本研究では、Bub1キナーゼによるリン酸化の標的因子を発見した。最初に、分裂酵母の細胞抽出液を用いて、Bub1キナーゼがヒストン(注2)の一つのサブユニットであるH2Aタンパク質の特異的なアミノ酸をリン酸化することを見出した。このリン酸化部位に直接変異を導入してリン酸化が起きないようにした変異株では、Bub1キナーゼの変異株と同様に、染色体分配に間違いが多発することが分かった。さらに、このヒストンH2Aのリン酸化に依存した細胞内の変化についても、本研究で明らかにした。シュゴシン(守護神)タンパク質は、染色体の中心部分にあるセントロメアに局在することにより、動原体が反対方向からのスピンドル微小管によって捕らえられることを保証するタンパク質である(図参照)。本研究では、シュゴシンのセントロメアへの局在化が、その近傍で起きるヒストンH2Aのリン酸化に完全に依存することを明らかにした。すなわち、Bub1キナーゼの活性が失われると、ヒストンH2Aのリン酸化が消失して、その結果シュゴシンのセントロメアでの機能が失われ、染色体の分配に間違いが生じることが明らかになった。酵母細胞を用いて解明したこれらのBub1キナーゼ経路は、ヒトの細胞でも高度に保存されていることを合わせて証明した。すなわち、ここで見出された経路は、すべての生物が進化の過程で守ってきた染色体の分配を正確に行うための本質的な機構といえる。また、我々の今までの研究成果を合わせると、この経路は、生殖細胞で染色体を半数に減らす減数分裂の過程でも本質的な役割をもつこと考えられる。本研究成果は、染色体分配不全によって引き起こされる細胞のがん化およびダウン症(注3)などの原因解明に大いに役立つことが期待される。

(注1)遺伝情報を担うDNAとタンパク質の構造体。ヒトの細胞では、父親と母親に由来する23組46本の染色体をもつことが知られている。
(注2) 染色体を構成する一群のタンパク質で、DNAが直接巻き付くところのタンパク質複合体。
(注3)ヒトの先天性疾患で、減数分裂の染色体分配のミスにより21番染色体が1本余分に子供に受け継がれたときに起きる。

7. 発表雑誌:
 米国科学雑誌 「Science」 11月19日(電子版)にResearch Articleとして掲載予定

8.注意事項:
 報道解禁は日本時間 11月20 日(金)午前4時(米国東部標準時間11月19日(木)午後2時)となります(予定)。この時間以前には報道しないようご注意下さい。

9.問い合わせ先:
東京大学分子細胞生物学研究所
教授 渡邊 嘉典(わたなべ よしのり)
〒113-0032 文京区弥生1-1-1
HP: http://www.iam.u-tokyo.ac.jp/watanabe-lab/

10.解説図:
図

 染色体の中央部にある動原体のスピンドル微小管への正しい結合は、セントロメア・タンパク質シュゴシンによって制御されている。本研究から、Bub1キナーゼによるヒストンH2Aのリン酸化が、シュゴシンのセントロメア局在を直接誘導していることが明らかになった。

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