記者会見「タンパク質や脂質の細胞表面への輸送メカニズムの解明」研究成果

記者会見「タンパク質や脂質の細胞表面への輸送メカニズムの解明」
1.発表日時:2010年1月8日(金) 14:00 ~ 15:00
2.発表場所:工学部5号館2F 233A号室(第6輪講室)
3.発表者:東京大学放射光連携研究機構 機構長 尾嶋 正治
准教授 深井 周也
4.発表概要:
東京大学放射光連携研究機構生命科学部門(尾嶋正治機構長)の深井周也准教授のグループは、細胞の種類や状態に応じてタンパク質や脂質を適切な位置に運ぶメカニズムの一端を、X線結晶学と分子細胞生物学の手法を用いて明らかにしました。
5.発表内容:
ヒトの体は様々な種類の細胞から成り立っていますが、それぞれの細胞の種類や状況に応じて、合成したタンパク質や脂質を細胞内の適切な位置に運ぶ必要があります。バクテリアとは異なり、真核細胞のなかは脂質膜で囲まれた細胞小器官と呼ばれる区画に区切られているので、区画間の物質輸送は、各区画からくびりとられてできた小胞が移動して、最終的に目的の区画と融合することによって行われます(図1)。細胞表面には、センサーとして働く受容体や物質の流入・排出を行う輸送体、あるいは、シグナルや目印としても働く脂質が運ばれますが、これらは小胞に載せられて細胞膜へと運ばれます。
Exocystと呼ばれる巨大な複合体(分子量75万)は、細胞内シグナルのスイッチ分子として働く低分子量GTPaseや、シグナルや目印として働く脂質であるイノシトールリン脂質2リン酸(PIP2)と相互作用し、小胞と細胞膜の両者を捕まえて融合を制御します(図1)。本研究グループは、exocyst複合体が、小胞膜上のRal GTPase に結合する様子を明らかにしていましたが(EMBO J., 2003)、今回、細胞膜上のRho1 GTPaseやPIP2と結合して細胞膜を認識している様子をX線結晶学と分子細胞生物学の手法を用いて明らかにしました(図2)。細胞膜上で低分子量GTPaseとPIP2という二つの目印を同時に認識して、タンパク質や脂質の輸送を制御する様子を明らかにした世界で最初の成果です。
現在普及している薬剤は、細胞表面に存在する受容体をターゲットとする例が少なくありません。逆に、細胞表面に存在する輸送体が薬剤を排出することで、その効果を失わせている例もあります。また、受容体や輸送体は、糖尿病、細胞のがん化や感染症などの体の異常に密接に関連しています。今回の成果は、これら受容体や輸送体を適切な位置へと導くメカニズムを原子の解像度で明らかにしたものであります。将来的には、明らかになったメカニズムを基礎として受容体や輸送体の配置をコントロールし、様々な病気の治療を行えるようになるかもしれません。
本研究は、東京大学大学院総合文化研究科の佐藤健准教授と東京大学大学院理学系研究科/理化学研究所の中野明彦教授との共同研究で、その成果は、英科学雑誌「Nature Structural & Molecular Biology」にオンラインで1月10日(日本時間1月11日)に発表されます。
Masami Yamashita, Kazuo Kurokawa, Yusuke Sato, Atsushi Yamagata, Hisatoshi Mimura, Azusa Yoshikawa, Ken Sato, Akihiko Nakano and Shuya Fukai: Structural basis for Rho- and phosphoinositide-dependent localization of the exocyst subunit Sec3. Nature Structural & Molecular Biology, doi:10.1038/nsmb.1722 (2010)
6.発表雑誌:Nature Structural & Molecular Biology誌
7.注意事項:公表時間の制限有り(1/11 午前3時(日本時間)解禁)
厳守でお願いいたします。
8.問い合わせ先:
東京大学放射光連携研究機構 准教授 深井 周也
9.添付資料