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記者会見「細胞の中にある沢山の遺伝子から必要な遺伝子を選び出し、活性化する仕組みの解明」研究成果

記者会見「細胞の中にある沢山の遺伝子から必要な遺伝子を選び出し、活性化する仕組みの解明」

平成22年3月17日

報道関係各位

東京大学分子細胞生物学研究所

記者会見の開催について

 

1.発表日時: 平成22年3月18日(木)午後1時-午後3時

2.発表場所: 東京大学分子細胞生物学研究所 生命科学総合研究棟3階
302号会議室(弥生キャンパス内:東京都文京区弥生1-1-1)
http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam01_07_09_j.html
東京メトロ南北線「東大前」下車5分

3.発表タイトル:「細胞の中にある沢山の遺伝子から必要な遺伝子を選び出し、
活性化する仕組みの解明」

4.発表者: 東京大学 分子細胞生物学研究所 発生分化構造研究分野 准教授 堀越 正美

独立行政法人 産業技術総合研究所
バイオメディシナル情報研究センター タンパク質構造情報解析チーム
主任研究員 千田 俊哉

5.発表概要:
 人間を始めとする様々な生き物の細胞の中には、沢山の遺伝子が詰まっています。必要のない時期に必要のない遺伝子が活性化されると、細胞や生き物の身体に様々な不調や病気を引き起こすため、遺伝子は、必要のない時期は折り畳まれて隠された状態になっています。今回我々は、折り畳まれて隠された状態にある遺伝子の中から、必要な時期に必要な遺伝子を見つけ出して、折り畳まれた遺伝子をほどいて活性化する仕組みを明らかにしました。このような仕組みは、近年急速な進展を遂げている遺伝子治療やiPS細胞の分野でも活用されており、様々な応用科学への発展が期待されます。

6.発表内容:
 生物の体を構成する細胞は、生体構成に必要な情報の源として遺伝子1)を持っています。1つの細胞中には、その生物の構成に必要な遺伝子が全て(人間では約22,000個)詰まっており、必要な時期・状況で必要な遺伝子が活性化することで、細胞の状態を環境に合わせて変化させています。
 一方、不適切な状況で不必要な遺伝子が活性化されると、細胞や生体に様々な異常が生じます。それを防ぐため、人間を始めとする真核生物2)では、必要のない時期は、遺伝子の本体であるDNAがヒストン3)というタンパク質と結合して、折り畳まれて隠された状態になっています。このDNAとヒストンの複合体のことをヌクレオソーム4)と言います。そのため、必要な時期に必要な遺伝子を活性化するには、ヌクレオソームを必要な部分だけほどいて、DNAの折り畳みをほどく必要があります。
  「どの時期に、どの部分の遺伝子を活性化するか」に関しては、ヒストンに起こる化学修飾5)が目印になることが分かっていました。特にヒストンのアセチル化修飾6)と遺伝子の活性化の関連性は1964年に発見され、多くの研究者が関心を持って研究の対象としてきたものの、その詳しい仕組みは全く不明でした。本研究では、その仕組みを明らかにするため、アセチル化修飾を認識するタンパク質と、ヌクレオソームをほどくタンパク質が結合した時の形を、X線結晶構造解析7)と呼ばれる手法によって、世界で初めて決定することに成功しました。その結果、「アセチル化修飾を目印にヌクレオソームをほどき、遺伝子が活性化される」仕組みのモデル(hi-MOST model)を提示することができました。
 このモデルによって、「ヌクレオソーム状態の遺伝子が、どのように環境の変化を感知して活性化されるか」の詳しい仕組みが初めて説明できます。このモデルで登場するタンパク質は、どんな遺伝子にも共通に働くとされるものばかりであるため、今回提示したモデルは、真核生物において広く用いられる遺伝子活性化の仕組みであると考えられます。
 また、遺伝子の制御は、あらゆる生命現象の根本を担うため、本研究で明らかにした仕組みは、細胞が癌になる時や、種々の細胞に分化する時など、様々な生命現象で働いていると考えられます。そのため本研究成果は、遺伝子治療の発展やiPS細胞の作製など多様な研究分野への応用展開が期待されます。
 なお、この研究は、国立大学法人 東京大学、独立行政法人 産業技術総合研究所(AIST)、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、社団法人 バイオ産業情報化コンソーシアム(JBIC)、独立行政法人 科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 (ERATO)の協力により行われました。

7.発表雑誌:
  米国科学アカデミー紀要(The Proceedings of the National Academy of Sciences of the
United States of America)3月22日-3月26日(米国東部標準時間)の間に電子版
(Early Edition (EE))にて発表(予定)。

8.注意事項:
  報道解禁日は日本時間3月23日午前5時(米国東部標準時間:3月22日午後3時)となります(予定)。この時間以前には報道しないようご注意ください。

9.問い合わせ先及び研究機関:

<研究に関すること>
東京大学分子細胞生物学研究所 発生分化構造研究分野 准教授 堀越正美

独立行政法人 産業技術総合研究所 バイオメディシナル情報研究センター 主任研究員 千田俊哉

<報道担当>
東京大学分子細胞生物学研究所 事務部総務チーム
〒113-0032 東京都文京区弥生1-1-1

10.用語解説:
1) 遺伝子:染色体上に分布する遺伝情報の単位で、タンパク質のアミノ酸配列を決める暗号が含まれている、DNA塩基配列。
2) 真核生物:核膜に包まれた明瞭な「核」を持つ真核細胞からなる生物。DNAは、様々なタンパク質との複合体である染色体として核内に収納されている。
3) ヒストン:DNAと結合してヌクレオソームを形成し、染色体の主成分となる塩基性タンパク質。
4) ヌクレオソーム:染色体の基本構成単位で、ヒストンにDNAが巻き付いた構造。
5) 化学修飾:ある物質に化学反応により新しい原子団が結合すること。様々な化学修飾がそのタンパク質の働きを制御する。
6) アセチル化修飾:化学修飾の内、アセチル基を物質に結合すること。ヒストンのアセチル化は転写活性化を引き起こすことが知られている。
7) X線結晶構造解析:X線が結晶格子で回折する現象を利用して、結晶内部で原子がどのように配列しているかを決定する手法。様々な物質の構造決定に用いられる。

11.添付資料
   参考はこちら

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