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記者会見「小さなRNAが働くしくみ―シャペロン装置の新たな機能」研究成果

記者会見「小さなRNAが働くしくみ―シャペロン装置の新たな機能」

東京大学分子細胞生物学研究所
科学技術振興機構(JST)

記者会見の開催について

1.発表日時:平成22年5月31日(月) 15:00~16:00

2.発表場所:東京大学分子細胞生物学研究所
   生命科学総合研究棟3階302号室(弥生キャンパス内:東京都文京区弥生1-1-1)

3.発表タイトル:「小さなRNAが働くしくみ―シャペロン装置の新たな機能」

4.発表者:東京大学分子細胞生物学研究所 RNA機能研究分野  准教授 泊 幸秀

5.発表概要:

 ヒトを含めた様々な生物に存在する小さなRNA(注1)は、発生(注2)や癌化など、重要な生命現象を緻密に制御しています。小さなRNAは単独で働くわけではなく、様々なタンパク質と複合体を形成しなければなりません。東京大学分子細胞生物学研究所の泊 幸秀 准教授らはこの複合体の形成過程に、「シャペロン」(注3)と呼ばれるタンパク質の構造変化(注4)を引き起こす装置が必須であるということを発見しました。この発見は、シャペロン装置の新たな機能として極めて興味深いものであると同時に、小さなRNAの働くしくみの正確な理解を飛躍的に深めるものであり、その理解に基づく医療等への応用が期待されます。本研究は、JST 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)の「RNAと生体機能」研究領域(研究総括:(財)微生物化学研究会 微生物化学研究センター・生物研究センター長 野本 明男)における研究課題「RNAi複合体形成の生化学的解析」(研究代表者:泊 幸秀)の一環として行われました。

6.発表内容:

 21-25塩基程度の小さなRNAは、自分自身の塩基配列(注5)と対合(注6)できるmRNA(注7)の発現を様々な様式で抑制する働きがあります。これによって、発生のタイミングや形態形成(注8)、細胞増殖など、非常に重要な生物学的機能を緻密に制御しています。例えばヒトの場合、遺伝子全体の1/3以上が小さなRNAによって制御されていると予測されています。

 小さなRNAは単独で働くわけではなく、多くのタンパク質と複合体を作ることによって、初めて機能を発揮することができます。この複合体の中心となるのはArgonauteと呼ばれるタンパク質です。小さなRNAとArgonauteの複合体が作られる過程は非常に複雑であり、その詳細な機構はよく分かっていませんでした。本研究では、ショウジョウバエおよびヒトにおいて、小さなRNAとArgonauteの複合体が結合する過程に、Hsc70/Hsp90を中心とした「シャペロン」と呼ばれる装置が必須である、ということを見いだしました。

 シャペロンはエネルギー源であるATP(注9)を消費して、自身と結合しているタンパク質の構造を変化させる性質をもつことが知られています。小さなRNAとArgonauteの複合体が作られる過程において、シャペロンはArgonauteの構造を変化させ、内部の空間を広げることによって、はじめて小さなRNAが結合できるようになるものと考えられます。同様の現象が植物でも起こっていることが、(独)農業生物資源研究所石川雅之上級研究員らのグループによって、同時に報告されました。

 近年、癌をはじめとする様々な疾患と小さなRNAの関連があることが分かりつつあり、また小さなRNAを用いた医療応用も世界中で研究が進んでいます。さらに、シャペロンは、古くから癌など様々な疾患治療における標的遺伝子として良く研究されてきています。本研究は、シャペロンの新たな機能として非常に興味深いものであると同時に、小さなRNAが働くしくみの正確な理解を飛躍的に深めるものです。今後、この理解に基づいた、疾患の機構解明やその治療に向けた研究がさらに進展することが期待されます。

7.発表雑誌:Molecular Cell オンラインで6月3日に掲載予定

8.注意事項:報道解禁は日本時間6月4日午前1時(米国東部標準時間6月3日正午)となります。 この時間以前には報道しないようご注意下さい。

9.問い合わせ先:

東京大学分子細胞生物学研究所 准教授 泊 幸秀(とまり ゆきひで)

10.用語解説:

1) RNA: 日本語ではリボ核酸。通常はDNA(デオキシリボ核酸)がもつ遺伝情報のコピーとしてタンパク質の設計図に使われる。しかし、小さなRNAはタンパク質の設計図にはならない。

2) 発生: 受精卵から成体ができる過程のこと。

3) シャペロン: (自分自身以外の)タンパク質が正しい立体構造を取れるよう、手助けするタンパク質の総称。

4) タンパク質の構造変化: タンパク質がその機能を発揮するためにはタンパク質の立体構造が非常に重要である。よって、立体構造が変化すると、タンパク質の働きも変化しうる。

5) 塩基配列: 遺伝情報の構成要素である塩基の並び方のこと。塩基は4種類存在し、2種類ずつペアを組む。

6) 対合: 塩基がペアを組むこと。

7) mRNA: 日本語では伝令RNA。タンパク質の設計図となる遺伝情報を持つRNAの総称。

8) 形態形成: 羽や手足、臓器など様々な器官が形作られること。

9) ATP: 日本語ではアデノシン三リン酸。分解される際にエネルギーが放出される。

11.添付資料:

本研究のイメージ図

図



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