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ナノゲルを用いた抗原デリバリーシステムは、安全性に優れたアジュバント不要経鼻ワクチン開発を可能にする研究成果

ナノゲルを用いた抗原デリバリーシステムは、安全性に優れたアジュバント不要経鼻ワクチン開発を可能にする

1. 発表者:
東京大学医科学研究所炎症免疫学分野 日本学術振興会特別研究員 野地智法
東京大学医科学研究所炎症免疫学分野 助教 幸義和
東京大学医科学研究所炎症免疫学分野 教授 清野宏
東京医科歯科大学生体材料工学研究所有機材料分野 教授 秋吉一成
浜松ホトニクスPETセンター センター長 塚田秀夫
大阪府立大学大学院生命環境科学研究科獣医環境科学分野 教授 小崎俊司 他

2. 発表慨要:
 東京大学医科学研究所、東京医科歯科大学生体材料工学研究所、浜松ホトニクスPETセンター、大阪府立大学大学院生命環境科学研究科からなる研究グループは、疎水性のコレステロールを側鎖として付加させたプルラン(グルコースから成る多糖類)に、カチオン性(注1)の官能基をさらに付加させることで、上気道粘膜免疫システムに安全かつ効果的にワクチン抗原をデリバリー(注2)させることが可能なナノ粒子(ナノゲル)(注3)の開発に成功しました。実際、ワクチン抗原を内包したナノゲルをマウスに経鼻投与することで、粘膜アジュバント非存在下においても、効果的な免疫応答が全身組織のみならず粘膜組織に誘導可能であることが明らかになり、さらにはその安全性も実証されました。今回の研究成果は、注射型ワクチンに変わる次世代ワクチンとして昨今非常に注目されている粘膜ワクチンの研究開発に、大きく貢献するものと期待されます。

3. 発表内容:
 経鼻ワクチンは、抗原特異的免疫応答を全身組織に加え、粘膜組織(特に、上気道)にも誘導可能であることから、インフルエンザなどの呼吸器感染症に対する予防ワクチンとして非常に効果的とされています。一方で、粘膜組織は、通常は上皮層によって強固に覆われており、経鼻ワクチンの効果を最大限に期待するためには、上気道粘膜免疫システムへの効果的なワクチンデリバリー技術の開発が必要不可欠とされてきました。また、マウスを用いた実験系で粘膜アジュバントとして多用されているコレラ毒素は、経鼻投与した際に嗅覚細胞を介して中枢神経系への移行に伴う副作用の危険性を伴うことから、ヒトでの応用は難しく、アジュバントを必要としない経鼻ワクチン開発が、安全性の観点からも期待されてきました。
 今回、当研究グループは、カチオン性のナノ粒子(ナノゲル)にワクチン抗原を内包し、それを経鼻投与することで、感染すると神経麻痺による致死性の高いボツリヌス菌や破傷風菌などのワクチン抗原を、効果的に上気道粘膜免疫システムにデリバリーさせることに成功し、高いレベルの防御免疫応答を、アジュバント非存在下でも誘導できることを実証することに成功しました。また、Positron emission tomography (PET)や組織学的な詳細な解析から、このナノゲルを経鼻ワクチンのデリバリー担体として用いることで、ワクチン抗原を鼻腔内に長時間(10時間以上)滞留させ、迅速かつ継続的に上皮細胞内を通過(トランスサイトーシス)(注4)させることが可能であることが明らかとなりました。さらには、上皮層を通過したワクチン抗原は、鼻粘膜組織に存在する樹状細胞に効果的に取り込まれることも明らかとなり、直ちに防御効果のある抗原特異的抗体を誘導するための免疫応答が開始されることも実証されました。また、本ナノゲルを用いた抗原デリバリー技術による、ワクチン抗原の中枢神経系への移行は全く認められないことも明らかとなり、その安全性も証明されました。

4. 発表雑誌:
Nature Materials
6月20日、ロンドン時間:18時、米国東部時間:13時

5. 注意事項:
日本時間6月21日午前2時(6月20日、ロンドン時間:18時、米国東部時間:13時)以前の公表は禁じられています。

6. 問合せ先:
東京大学医科学研究所炎症免疫学分野
教授 清野 宏
URL: http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/EnMen/index_e.html

7. 用語解説:
(注1)カチオン:正の電荷(陽イオン)
(注2)抗原デリバリー技術:ワクチン抗原を、免疫細胞等に的確に送達させる技術。抗原デリバリー技術を用いることで、少量の抗原投与でも効果的な免疫応答が可能になる。
(注3)ナノ粒子:直径が1-100ナノメーター程度の超微粒子。
(注4)トランスサイトーシス:物質が細胞内に取り込まれ、反対側に抜け出ること。



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