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においの方向を知る神経メカニズムの解明研究成果

においの方向を知る神経メカニズムの解明

1.発表者
東京大学大学院医学系研究科機能生物学専攻 教授 森 憲作

2.発表概要:
 右鼻と左鼻からの匂い入力を比較して匂い源の方向を感知する神経回路が、
哺乳類の大脳の嗅皮質のなかに備わっていることがわかった。

3.発表内容:
 脳には、左右2つの目や耳からの情報を比較して「物の奥行き」や「音源の方向」を検知する神経回路が備わっています。人や動物は、左右2つの鼻の穴を持ち、匂いは鼻のなかでは左右別々の嗅上皮(感覚器)で受け取られますが、どうして左右2つの嗅上皮が必要なのか、これまで不明でした。東京大学大学院医学系研究科外科学専攻・医学運動機能講座耳鼻咽喉科学分野の菊田周助教は、東京大学大学院医学系研究科機能生物学専攻生理学講座細胞分子生理学分野の指導のもとに、ラットの大脳の嗅皮質(注1)の中にある前嗅核吻外側領域のニューロン(注2)が、「右鼻と左鼻に嗅ぎこまれた匂いの濃さを比較して、左右どちらの方向に匂い源があるかを検出する」機能をもっていることを見出しました。たとえば、右側の嗅皮質にあるニューロンは、匂い源が右鼻に近い方向にあるときには非常に強く応答し、左右の鼻から等距離の方向にあるときには弱く応答し、左鼻に近い方向にあるときには活動が止まります。詳しく調べてみると、それぞれのニューロンは嗅皮質の神経回路を用いて、右鼻に嗅ぎこまれた匂いの濃度から左鼻に嗅ぎこまれた匂いの濃度を差し引き、どちらの鼻で匂いがより濃いかを計算して、匂い源の方向を決めていることがわかりました。この匂い源の方向感知を担当する神経回路により、ラットは暗闇のなかでも、食べ物や危険物の匂いがどちらの方向から漂ってくるのかを、一嗅ぎで決定することができます。今回見つかった「においの方向」を感知する神経回路の繋がり方は、聴覚での「音の方向」を感知する神経回路とよく似ていました。耳と鼻は異なった感覚器ですが、脳は同じような情報処理ロジックをつかって、左右2つの感覚器からの音情報や匂い情報を比較し、音源や匂い源の位置情報を得ています。

4.発表雑誌:
米国科学アカデミー紀要 (Proceedings of National Academy of Sciences, USA)
タイトル: Neurons in the Anterior Olfactory Nucleus Pars Externa Detect Right or Left Localization of odor Sources
Shu Kikuta, Kenichiro Sato, Hideki Kashiwadani, Koichi Tsunoda, Tatsuya Yamasoba, and Kensaku Mori

5.注意事項:
  プレス発表の解禁日時は、日本時間2010年6月29日(火)午前4時(米国東部時間2010年6月28日(月)午後3:00)
この論文のジャーナリスト向けプレプリントは、2010年6月23日から、PNAS誌のa secure reporters-only web sited で得ることが可能です。この論文の印刷版は7月6日に発刊される予定です。

6.問い合わせ先:
東京大学大学院医学系研究科 生理学講座細胞分子生理学分野
教授 森 憲作

7.用語解説:
(注1)嗅皮質:大脳皮質の一部で脳底部に左右一対あり、同側の嗅細胞から同側の嗅球を介してにおい情報を受け取る。
(注2)ニューロン:神経細胞のこと

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