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新しい不妊のメカニズム発見:細胞内タンパク質DEDDによる子宮微細環境の調節が、着床直後の早期妊娠維持に必要である研究成果

新しい不妊のメカニズム発見:細胞内タンパク質DEDDによる子宮微細環境の調節が、着床直後の早期妊娠維持に必要である

タイトル「新しい不妊のメカニズム発見:細胞内タンパク質DEDDによる子宮微細環境の調節が、着床直後の早期妊娠維持に必要である」

1. 発表者:宮崎 徹(東京大学大学院医学系研究科 疾患生命工学センター分子病態医科学部門・教授)

2.発表概要:
 以前から当研究室で機能解析を続けていたDEDD(注1)という細胞内タンパク質が、子宮脱落膜(注2)の成熟に必須であり、その欠損や機能不全は、胎盤形成前の妊娠早期に胎児を致死に至らしめる。DEDDは不妊症の診断・治療の新しいターゲットである可能性がある。

3.発表内容:
 今日、10-15%の妊娠適齢期の夫婦が不妊に悩んでおり、実にそのうち30-40%のケースではっきりとした原因が分からないでいる。私たちは今回、DEDDという細胞内たんぱく質を欠損したメスマウス子宮内において、着床後胎盤が形成されるまでの間に、胎児の成育に重要な脱落膜の成熟が不全となり、その結果、妊娠早期に100%胎児が死亡してしまうことを見出した。一方DEDD欠損マウスのオスは正常な生殖能力を持ち、またメスも排卵や妊娠に必要なホルモン分泌などに異常は無く、受精卵の着床そのものは正常であった。この着床後胎盤形成前の期間は、特にヒトにおいてはブラックボックスであり、その期間における子宮環境の異常が不妊の原因になるのかすら、よく分かっていなかった。今回、DEDDという単一タンパク質の欠損によって、この期間特異的に子宮環境が異常となり、完全な不妊を導くことから、いままで原因不明であった不妊症のケースにDEDDが関与している可能性がある。したがって、今後DEDDは、不妊症の新しい診断や治療のターゲットとして期待できる。我々は今後、ヒト不妊症患者の子宮組織やゲノムの解析を行い、DEDDに不全がないか調べる予定である。

4.発表雑誌:
The Journal of Clinical Investigation 1月発行号

5.注意事項:
公表日時:JCI’s press指定にて、この件の解禁については、日本時間 12月7日午前2時(アメリカ東海岸時間12月6日12時(正午))以降となっておりますので、ご協力方よろしくお願いします。


6.問い合わせ先:
東京大学大学院医学系研究科 疾患生命工学センター  分子病態医科学部門
教授 宮崎徹  

7.用語解説:
注1 DEDD (Death-effector domain containing protein):当初、アポトーシス関連分子として発見された細胞内に存在する分子であるが、私たちのこれまでの研究から、細胞の大きさのコントロールや糖代謝調節など、多彩な機能を持つたんぱく質であることが明らかとなった(文献(1)~(3))。子宮内で受精卵が着床した後急速に成熟分化する脱落膜に強く発現しており、今回の研究から、脱落膜の成熟と胎児の成育維持に必須の分子であることが明らかとなった。
文献:(1) Kurabe et al. Biochem. Biophys. Res. Commun. 391: 1708-1713 (2010).(2) Kurabe et al. J. Biol. Chem. 284: 5050-5055 (2009). (3) Arai et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 104: 2289-2294 (2007).

注2 子宮脱落膜(Decidua):子宮内で受精卵が着床すると、着床部位周辺の子宮間質細胞が急速に分化し脱落膜化(decidualization)する。成熟した脱落膜細胞は、複数の核を持つ(多核化)大型で栄養分を多く蓄積した細胞であり、胎児と直接接触することによって、栄養素を胎児に供給する。胎盤が形成され、血管を通じて母体から栄養を供給されるようになるまでの間、胎児の成育を保持する重要な役割をもつ。しかし、脱落膜が胎児の成育に重要なこの期間(着床後、胎盤形成以前)は、特にヒトにおいては経過観察やサンプル採取などが困難であり、不妊研究の対象になりにくかった。

8.参考:
JCI’s press社ホームページ http://www.jci.org/


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