けっして麻薬を逃さない! ―細胞の仕組みを活用、コカインの簡便・迅速・高精度検出に成功―研究成果

「けっして麻薬を逃さない! |
平成23年5月17日
東京大学 生産技術研究所
財団法人神奈川科学技術アカデミー
【ポイント】
・ たった25秒で100%、極微量のコカインを検出。
・ 細胞表面に存在する小さな穴(膜タンパク質、直径1.5nm=0.0000015mm)とその穴を通過す
るDNAを活用した本検出法の開発は、世界で初めての成果。
・ コカイン以外の微量な物質の検出にも応用可能。
・ 検出操作は簡単、装置は手のひらサイズ。
・ 本成果は、米国化学会誌(Journal of the American Chemical Society)のオンライン版に
16日(現地時間)に掲載予定。
【概要】
神奈川科学技術アカデミーの竹内「バイオマイクロシステム」プロジェクトにおいて、竹内昌治(プロジェクトリーダー、東京大学生産技術研究所 准教授)、川野竜司(神奈川科学技術アカデミー 研究員)らは、生物の細胞表面にある仕組みを活用し、手のひらサイズのプラスチックチップ上で、麻薬の一種であるコカインの簡便・迅速・高精度な検出に成功した。
これまでに、同プロジェクトが開発してきた、細胞膜を模倣した人工脂質2重膜中に任意の膜タンパク質を自在に埋め込む独自技術をもとに、ごく小さな穴(直径1.5nm。毛髪の太さ[約0.15mm]のおよそ10万分の1)が貫通した筒状の膜タンパク質(α-ヘモリシン)を人工脂質2重膜中に埋め込んだ。今回は、このα-ヘモリシンと、その穴を通過でき、かつコカイン分子だけと特異的に結合するDNAアプタマーを組み合わせた。
このDNAアプタマーは、通常は1本鎖状をしており、筒状の膜タンパク質の穴を通過できるが、コカイン分子と結合すると形状が変化し、穴につっかかり捕捉された状態になる(模式図の状態)。
これを利用し、DNAアプタマーがコカイン分子と結合し、α-ヘモリシンの穴に捕捉された際に生じる電流を検知することで、液体に溶けたごくわずかなコカイン(1リットル中に0.0003グラム)を検出することに成功した。試料をプラスチックチップに滴下してから電流検知までの時間は25秒と、ごく短時間であった。
【従来法との比較と今後の展開】
コカインの検出について、従来法では、試薬を用いた簡易検出とガスクロマトグラフィー装置による高精度検出の2つの方法があるが、前者は検出感度が低く、後者は装置自体が特殊で試料採取から結果を得るまでに数日間かかるといった難点があった。
DNAアプタマーと人工脂質2重膜中のα-ヘモリシンを利用したこの検出法は、DNAアプタマーの種類を変えることで、コカインとは異なる物質を特異的に検出することも可能である。この技術によって、将来、水質や大気などの環境調査や食品の衛生検査、事件捜査の現場において、様々な物質を対象にした、簡便・迅速・高精度な「その場検査」への応用が期待される。
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