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包括的なコアヒストンの解析により、染色体分配に必要なヌクレオソーム上の3種類の機能領域を同定研究成果

「包括的なコアヒストンの解析により、
染色体分配に必要なヌクレオソーム上の3種類の機能領域を同定」

平成23年7月19日

東京大学分子細胞生物学研究所


1. 発表者:
東京大学 分子細胞生物学研究所 発生分化構造研究分野 准教授 堀越 正美
東北大学 大学院薬学研究科 遺伝子薬学分野 准教授 関 政幸(共同研究者)

2.発表概要:
ヒトをはじめとするすべての生き物の細胞には、遺伝子が収納されています。細胞が分裂して2個の娘細胞になる時、遺伝子の量は2倍になり、それぞれの遺伝子がコンパクトに染色体として折り畳まれ、均等に娘細胞に分配(染色体分配)されることで、子々孫々の細胞へと遺伝情報が受け継がれていきます。

今回、私たちは染色体分配を研究する人たちにとって、「灯台もと暗し」とも言える知見を得、論文発表しました。遺伝子をコンパクトに折り畳む時の “主要なタンパク質” であるヒストンそのものが、遺伝子の均等な染色体分配において重要な役割を果たすことを明らかにしました。この知見は、染色体分配の仕組みを知る上で新しい視点を提供することにもなりました。本研究は、細胞が遺伝情報を次の世代に伝える、染色体分配という生命現象にとって重要な発見になったと考えています。

3.発表内容:
細胞は、生きていくのに必要な情報源として遺伝子(注1) を持っています。ヒトをはじめとする真核生物(注2) では、遺伝子は一定の数(種によって本数が異なる)の染色体(注3)に収納されています。細胞が分裂して2個の娘細胞になる際には、染色体をそれぞれの娘細胞に均等に分配すること(染色体分配)が遺伝子を子孫の細胞に受け渡すのに必要不可欠です。染色体分配に関係することが原因で起こる遺伝病にダウン症候群(注4)やエドワード症候群(注5) などがあり、またそれ以外にもガンを引き起こす要因になる例も広く知られています。

染色体分配の仕組みを明らかにする研究のほとんどは、染色体を分配する装置の研究に集中していました。しかし今回は、この流れとはまったく反対の視点から染色体分配の研究に挑戦しました。すなわち、分配される側の染色体の基本単位であるヌクレオソーム(注6)に着目したのです。ヌクレオソームは遺伝子の本体である DNA がヒストン(注7) というタンパク質と結合して形成されています。ヒストン分子の表面のアミノ酸1個を別のアミノ酸に「変えた」細胞を 423種類用意し、染色体分配がうまく働かなくなる「ヒストン表面」を持った細胞はどれかを調べました。その結果、ヒストン表面に、染色体分配に必要な場所を3カ所特定することに初めて成功しました。そのうちの 2カ所が「 シュゴシン(守護神)(注8)」と命名されている染色体分配に必要なタンパク質とともに働くことがわかりました。更にこのシュゴシンがヌクレオソームから離れると分解されるという知見を得たことから、「シュゴシンの守護(シュゴシンを守る)」という役割がヒストンにあることが分かりました。ヒストンにDNAを守る(守護する)役割があることは、40年前から周知の事実でありました。そのことを考え合わせますと、ヒストンがDNAのみならず「シュゴシン」をも守る「普遍的な守護神」として染色体に働くことを示した今回の知見は、理にかなった発見とも解釈することができます。

ヒストンは遺伝子の本体 DNAと結合することから、染色体分配だけでなく、あらゆる生命現象[基礎科学領域(DNA複製、転写、DNA修復、細胞分化、個体発生など)、応用科学領域(iPS細胞の誘導、再生医療など)]に積極的に関与していると考えられています。ヒストンの網羅的な分子表面解析から生命現象をひも解くという挑戦が、染色体分配の研究に新たな発見をもたらしました。その有効性が明らかになりましたことから、この視点に立脚したさらなる研究において、より様々な生命現象の解明が大きく進展すると期待されます。

なお、この研究は、国立大学法人 東京大学と東北大学との共同研究により行われました。

4.発表雑誌:
The EMBO Journal
論文タイトル:Global analysis of core histones reveals nucleosomal surfaces required for chromosome bi-orientation
著者:Satoshi Kawashima, Yu Nakabayashi, Kazuko Matsubara, Norihiko Sano, Takemi Enomoto, Kozo Tanaka, Masayuki Seki and Masami Horikoshi

5.用語解説:
1) 遺伝子:染色体上に分布する遺伝情報の単位で、タンパク質のアミノ酸配列を決める暗号が含まれている、DNA 塩基配列情報のことです。
2) 真核生物:核膜に包まれた明瞭な「核」を持つ真核細胞からなる生物です。DNAは、様々なタンパク質との複合体である染色体として核内に収納されています。
3) 染色体 (Chromosome):塩基性の色素でよく染色されることから名付けられました。 ギリシャ語の「色のついた (chroma)」と「体 (-some)」に由来します。実体は、DNAとタンパク質からなる複合体です。染色体の基本構成成分はヌクレオソームとヌクレオソームに作用する因子です。
4) ダウン症候群:細胞に21番染色体が 3本(健常人は 2本)あることが原因で引き起こされる遺伝病です。知的障害、先天性心疾患、低身長、肥満、筋力の弱さなどの臨床症状を呈します。
5) エドワード症候群:細胞に18番染色体が 3本(健常人は 2本)あることが原因で引き起こされる遺伝病です。死産がほとんどですが、稀に生まれてきても1歳に満たないうちに寿命を迎えます。
6) ヌクレオソーム:染色体の基本構成単位で、ヒストンにDNA が1と3/4回転巻き付いた構造をとります。
7) ヒストン:DNA と結合してヌクレオソームを形成し、染色体の主成分となる塩基性タンパク質。基本的には4種類のコアヒストン(H2A,H2B,H3,H4) とリンカーヒストン(H1)が存在します。また、H1, H2A, H3 には様々なファミリーがありヒストンバリアントと言われています。
8) シュゴシン: 2本の姉妹染色体分体を繋ぎ止めているコヒーシンとよばれるタンパク質があります。2本の姉妹染色体分体が1本ずつ娘細胞に分配される直前まで、姉妹染色体分体のセントロメア領域に結合しているコヒーシンのタンパク質分解が抑えられています。このタンパク質の分解を防いでいるのが “シュゴシン(守護神)”と命名されたタンパク質であります。

6.添付資料:
20110719_01
図1. 染色体分配の異常を蛍光顕微鏡により観察した。
(上) 通常の細胞では微小管 (赤) とセントロメア (緑) が正常に結合し、二つの緑の
ドットが観察されます。
(下) ヒストンの点変異体では微小管とセントロメアの異常な結合が起こり、ドットが
一つしか観察されない細胞が増加します。


20110719_02
図2. 正常な染色体分配に必要とされる3つのヌクレオソーム領域を同定することができ
ました。またヌクレオソームは領域-Iと領域-IIを介して、シュゴシン(Sgo1)が 
分解されるのを守護する役割を持つことが新たに示されました。

7.問い合わせ先:
<研究に関すること>
准教授 堀越 正美(ほりこし まさみ)
東京大学分子細胞生物学研究所 発生分化構造研究分野

准教授 関 政幸(せき まさゆき)
東北大学大学院薬学研究科 遺伝子薬学分野

<報道担当>
東京大学分子細胞生物学研究所 事務部総務チーム

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