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有機化合物の磁気キラル二色性を初めて観測! ―生命のホモキラリティー起源の候補の一つを有機化合物で初めて実証―研究成果

「有機化合物の磁気キラル二色性を初めて観測!
―生命のホモキラリティー起源の候補の一つを有機化合物で初めて実証―」

平成23年8月10日

東京大学生産技術研究所


1. 発表者:
東京大学生産技術研究所 准教授 石井 和之
      同     大学院生 北川 裕一
東京大学先端科学技術研究センター 教授  瀬川 浩司

2.発表概要:
生物を構成するアミノ酸は、片方の鏡像異性体(注1)のL体のみである。これを生命のホモキラリティー(注2)と呼び、生命の起源に関わる未解決の難問である。

磁気キラル二色性(注3)は、磁場中の光化学反応により片方の鏡像異性体の過剰を生み出すことができるため、生命のホモキラリティー起源の候補として注目されている。しかし、金属を含む化合物において観測されているのみであり、生命を構成する有機化合物における観測例はなかった。

生産技術研究所 物質・環境系部門の石井和之准教授、北川裕一大学院生、先端科学技術研究センターの瀬川浩司教授は、有機化合物における磁気キラル二色性の観測に初めて成功した(下図)。これは、大きな?電子軌道角運動量(注4)を有するポルフィリン色素分子(注5)同士が捻れた配置となるように分子設計された光学活性ポルフィリン凝集体を合成したことによる。この発見は、生命のホモキラリティーを説明する新しい可能性を示しているだけではなく、光不斉合成法(注6)、磁気光学デバイスとしての発展も期待できる。

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<用語解説>
(注1)鏡像異性体:分子構造が、その鏡像と重ね合わすことができない性質を分子のキラリティーと呼び、そのような分子をキラル分子と呼ぶ(下図)。キラル分子は、ちょうど右手と左手のように互いに鏡像である1対の立体異性体を持ち、これらは互いに鏡像異性体であるという。アミノ酸や糖では、D体、L体の鏡像異性体が存在する。
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(注2)生命のホモキラリティー:生物におけるアミノ酸はL体のみ、糖はD体のみであることを生命のホモキラリティーと呼び、その起源は未解明である。現在、①惑星運動、②円偏光を用いた光化学反応、③磁気キラル二色性を用いた光化学反応の3つが、生命のホモキラリティー起源の候補となっている。

(注3)磁気キラル二色性:磁気キラル二色性は、光学活性分子の光吸収が磁場の方向によって変化する現象である。この効果は、鏡像異性体間で反転し、選択的に、片方の鏡像異性体の光化学反応を起こすことができるため、生命のホモキラリティー起源の候補の一つとなっている。磁気キラル二色性は、強い円偏光二色性(注7)と磁気円偏光二色性(注8)効果を有する分子において生じ、これまでは、金属を含む化合物においてのみ観測されてきた。

(注4)π電子軌道角運動量:軌道角運動量の大きさは磁気量子数MLに関連付けられる。金属のd軌道(ML=0、±1、±2)、f軌道(ML=0、±1、±2、±3)と同様に、芳香族有機化合物の分子軌道、π電子軌道も大きなMLを有する(例:ベンゼン、下図)。

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(注5)ポルフィリン色素分子:ポルフィリンは生体関連分子である。例えば、ヘモグロビンのヘム、光合成を行うクロロフィルはポルフィリンの類縁体である。

(注6)光不斉合成法:光化学反応で、片方の鏡像異性体を選択的に合成する方法。

(注7)円偏光二色性:左円偏光と右円偏光の光吸収差である。分子のキラリティーに由来し、色素分子が捻れた配置をとることで、強い円偏光二色性が観測される。

(注8)磁気円偏光二色性:磁場中における左円偏光と右円偏光の光吸収差であり、軌道角運動量由来のゼーマン分裂に基づく磁気光学効果である。ポルフィリンでは、大きなπ電子軌道角運動量に由来して強い磁気円偏光二色性が観測される。

3.発表雑誌:
ドイツ化学会誌 Angewandte Chemie International Edition
[VIP(Very Important Paper)に選定、表紙に採用]
オンライン版 平成23年7月27日(DOI: 10.1002/anie.201101809)
http://onlinelibrary.wiley.com/journal/10.1002/(ISSN)1521-3773/earlyview

4.問い合わせ先:
東京大学生産技術研究所 物質・環境系部門 准教授 石井 和之

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