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免疫細胞を誘導するセグメント細菌の全ゲノム構造を解明 ―腸内細菌の免疫誘導メカニズムの解明に期待―研究成果

「免疫細胞を誘導するセグメント細菌の全ゲノム構造を解明
―腸内細菌の免疫誘導メカニズムの解明に期待―」

平成23年9月15日

東京大学大学院新領域創成科学研究科


発表概要:
東京大学大学院新領域創成科学研究科(上田卓也研究科長)附属オーミクス情報センターの服部正平教授を中心とする共同研究グループ#は、免疫細胞であるTh17細胞の誘導活性をもつ腸内細菌の一種であるセグメント細菌SFB(Segmented filamentous bacteria)の全ゲノム構造を解明しました。

腸上皮に強力に接着するセグメント細菌SFB※1は、Th17細胞※2の誘導や腸上皮細胞間リンパ球の増加を促進させるなど、宿主の免疫系に作用し、自己免疫疾患※3や感染防御に重要な役割を果たしている腸内細菌として近年注目されています。しかし、SFBは試験管内で純粋に培養できない難培養性細菌のため、その正体は長く不明のままでした。今回、研究グループは、無菌マウスとラット※4を用いてマウスとラットのSFBの高純度培養とその全ゲノム(全遺伝子情報)の解読に成功しました。

本研究から、SFBはこれまでの腸内細菌の中でもっとも小さいゲノムを持つこと、生存に必須であるアミノ酸や核酸生合成の遺伝子の多くを欠損していること、生存に必要な物質を宿主から獲得する遺伝子を多数有すること、芽胞※5を形成すること、自然免疫※6に関与するべん毛※7を持つこと、感染症に直結する病原遺伝子を持っていないことなどがわかりました。

その存在が知られて160年になるSFBの全貌がここに明らかになったことにより、Th17細胞をはじめとした免疫誘導や、さらには、Th17細胞が深く関わる感染症防御や慢性関節リウマチやクローン病、潰瘍性大腸炎などの自己免疫疾患の発症におけるSFBの作用メカニズムを遺伝子レベルで調べることが可能になり、SFB(腸内細菌)を利用した感染症防御や自己免疫疾患の治療法の開発への応用が期待されます。
本研究成果は、科学雑誌『Cell Host & Microbe』(9月15日号)に掲載されます。

<用語解説>
※1 セグメント細菌(SFB)
  SFBのもっとも古い記述は、1849年のJ. Leidyによる昆虫などの節足動物の腸管に存在する細菌の報告(Proc. Acad. Nat. Sci. Philadelphia 4, 225-233)にまでさかのぼることができます。その特徴は、名前の由来にもなった複数の細菌細胞が連結した長い糸状の独特の形態をとることと宿主の腸の上皮細胞にきわめて強く接着していることです(図1→添付資料参照)。

※2 Th17細胞
  Th17細胞とは、免疫システムにおけるヘルパーT細胞の一種です。特に病原細菌やカビ類に対する感染防御に極めて重要な役割を果たしていることが知られています。一方でその過剰応答が、慢性関節リウマチやクローン病、潰瘍性大腸炎などの自己免疫疾患に深く寄与していて、近年、これら疾患の発症メカニズムの解明と治療の観点からも非常に注目されている細胞です。通常、Th17細胞は腸管だけに存在していますが、2009年に梅崎・本田博士らによって、SFBが腸管のTh17細胞を特異的に誘導することが発見されました(Cell,139:485-98)。

※3 自己免疫疾患
  病原体等の異物を認識し排除するための役割を持つ免疫系が、自分自身の正常な細胞や組織に対してまで過剰に反応した結果起こる疾患の総称です。

※4 無菌マウスとラット
  内部を無菌状態に保つことのできる特殊な飼育装置(アイソレーター)内で飼育した、腸内細菌や皮膚などの常在菌を含め、細菌や微生物をまったく持たないマウスとラットのことをいいます。

※5 芽胞
  細菌が飢餓や温度などの生息環境が悪い状態に置かれたとき、細菌細胞内部に芽胞が形成されます。芽胞は増殖することはできませんが、環境への極めて高い耐久性を持っており、通常の細菌が死滅する状況に陥っても生き残ることが可能です。芽胞はその細菌の増殖に適した環境に置かれると、再び発芽して、通常の増殖・代謝能を有する細菌に戻ることができます。

※6 自然免疫
  微生物などの病原体が生体内に侵入することによって宿主側が発動する宿主防御のひとつをいいます。抗原特異的で免疫記憶を保持する適応免疫に対して、自然免疫は病原体に対して非特異的で免疫記憶を伴わない防御応答です。

※7 べん毛
  べん毛の機能は細菌の運動性(移動能力)と宿主細胞への付着です。腸内に常在する腸内細菌の大部分はべん毛を持っていません。一方で、周囲の環境から侵入してくる病原菌の多くはべん毛を持っており、これらは宿主免疫センサーに認識され、防御機構が始動されます。

4.発表雑誌:
雑誌名: Cell Host & Microbe
論文タイトル: Complete Genome Sequences of Rat and Mouse Segmented Filamentous Bacteria, a Potent Inducer of Th17 Cell Differentiation
著者:Tulika Prakash, Kenshiro Oshima, Hidetoshi Morita, Shinji Fukuda, Akemi Imaoka, Naveen Kumar, Vineet K. Sharma, Seok-Won Kim, Mahoko Takahashi, Naruya Saitou, Todd D. Taylor, Hiroshi Ohno, Yoshinori Umesaki, and Masahira Hattori

5.問い合わせ先:
大学院新領域創成科学研究科附属オーミクス情報センター
教授 服部 正平(はっとり まさひら)

# 共同研究グループ
東京大学大学院新領域創成科学研究科(服部正平、大島健志朗、金錫元)
ヤクルト本社中央研究所(梅崎良則、今岡明美)
理化学研究所 基幹研究所(Tulika Srivastava、Todd D. Taylor他)
麻布大学獣医学部(森田英利)
理化学研究所 免疫・アレルギー科学総合研究センター/横浜市立大学大学院生命ナノシステム科学研究科(大野博司、福田真嗣)
国立遺伝学研究所(斎藤成也、高橋真保子)

添付資料についてはこちらをご覧ください。

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