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量子メモリー読み書きのための光波長変換ラインナップ完成 ―実用量子計算や中継通信に道―研究成果

記者会見
「量子メモリー読み書きのための光波長変換ラインナップ完成
―実用量子計算や中継通信に道―」

平成23年11月16日

1.会見日時:平成23年11月15日(火)13:00 ~ 14:00 

2.会見場所:学士会館3F 302号室(東京都千代田区神田錦町3-28)

3.出席者: 井元信之(大阪大学 大学院基礎工学研究科物質創成専攻 教授)
        生田力三(大阪大学 大学院基礎工学研究科物質創成専攻 特任助教)
        山本 俊(大阪大学 大学院基礎工学研究科物質創成専攻 准教授)
        小芦雅斗(東京大学 大学院工学系研究科光量子科学研究センター 教授)

4.発表概要: 
量子メモリーに情報を読み書きする光の波長と量子通信で用いられる光の波長は異なる。この問題を解決するため、量子情報を保持したまま波長変換を行う研究が世界的に進められてきたが、その最後の課題として「可視光から通信波長への量子的広帯域波長変換」がなかなか実現せず残っていた。今回我々はこれを実験的に実現することに初めて成功した。これにより量子計算や長距離量子暗号に必要な波長変換のラインナップは全て完成した。

5.発表内容: 
現行のコンピューターでは解けない問題が解ける「量子コンピューター」(注1)や、絶対盗聴されずに遠くの人と通信できる「長距離量子暗号」(注2)の実現を目指す研究が、近年盛んである。これらを実現するには、電気信号で「普通の情報」(現行の情報処理で使われている、0と1の二つの状態で運ばれる情報)を読み書きする普通のメモリーでなく、「量子情報」(0と1の重ね合わせ状態も使う情報)を読み書きする「量子メモリー」が必要なことがわかっている。しかし量子メモリーへの読み書きには可視光(目に見える光)が使われる一方、光通信には赤外光(目に見えない光)が使われ、両者は両立しないという大きな問題があった。

この問題を解決するため、可視光から赤外光へ、あるいはその逆の変換を行う波長変換の研究が世界的に推進されてきた。これまで赤外光から可視光への量子波長変換や、可視光から赤外光への「量子でない」波長変換や、可視光から赤外光への処理速度の遅い変換は実現されてきたが、「可視光から赤外光への量子波長変換で処理速度の速いもの」が最後の砦として実現せず残っていた。

本研究成果はこの「可視光から通信波長への速い量子波長変換」を初めて実験的に実現したものである。これにより量子コンピューターや長距離量子暗号を実現するために必要な量子波長変換のラインナップが完成したと言える。

本研究は今後、実際の量子計算や長距離量子通信に不可欠な量子中継の手段として用いられていくと考えられ、実用的量子情報処理へ道を拓く一歩となる。

6.発表雑誌:
雑誌名:Nature Communications(オンライン版:11月16日)
論文タイトル:Wide-band quantum interface for visible-to-telecommunication wavelength conversion
著者:R. Ikuta, Y. Kusaka, T. Kitano, H. Kato, T. Yamamoto, M. Koashi, and N. Imoto
DOI番号:Nature Communications 10.1038/ncomms1544

7.問い合わせ先:
大阪大学大学院基礎工学研究科 物質創成専攻・教授 井元信之
東京大学大学院工学系研究科 光量子科学研究センター・教授 小芦雅斗

8.用語解説: 
(注1)量子コンピューター:量子力学的信号を利用して複雑な計算を並列処理するのが量子コンピューターです。ある種の問題を解く際に、原理的に従来のコンピューターをはるかにしのぐ性能が得られます。特に公開鍵暗号を破る力があるとされています。
(注2)量子暗号:「量子力学的信号は傷つけずに覗くことができない」という原理を用いて、送られた乱数表についた傷はすべて盗聴行為によるものと仮定し、乱数表を縮めて傷を直したものを秘密鍵暗号の鍵とする暗号方式。量子暗号は量子計算ができても破られません。

9.会見資料:http://www.qi.mp.es.osaka-u.ac.jp/index-j.html (大阪大学ウェブサイトへ)

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