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小さなRNAが成熟化するしくみ ―二本のRNAの引きはがし―研究成果

小さなRNAが成熟化するしくみ ―二本のRNAの引きはがし―

平成24年1月11日

1.発表者: 泊 幸秀(東京大学 分子細胞生物学研究所 准教授)

2.発表概要:
microRNAやsiRNAなどの小さなRNA 1) は、標的mRNAの発現を調節することにより、発生2)や癌化をはじめとした様々な生命現象を緻密に制御しています。小さなRNAが機能するためには、Argonaute 3) と呼ばれるタンパク質と複合体を形成することが必要です。microRNAやsiRNAは二本鎖のRNAとして作り出されますが、Argonauteに取り込まれたあと、二本の鎖が引きはがされ、片方の鎖だけがArgonauteの中に残ることにより、はじめて標的mRNAを認識できるようになります。私達は今回、Argonauteの機能未知のドメイン4) が、小さなRNAの二本の鎖を引きはがす重要な働きを担っていることを明らかにしました。この発見は、小さなRNAが成熟化し機能的な複合体を形成する過程の理解を大きく進展させるものであり、その理解に基づく医療等への応用が期待されます。

3.発表内容: 
microRNAやsiRNAなどの小さなRNAは、標的mRNAの発現を調節することにより、発生や癌化をはじめとした様々な生命現象を緻密に制御しています。また、その作用を応用することにより、小さなRNAを新しいタイプの医薬品として用いるための研究も世界中で精力的に進められています。

小さなRNAがはたらくためには、いくつかのタンパク質と複合体を作ることが必要です。この複合体の中心となるのはArgonauteと呼ばれるタンパク質です。microRNAやsiRNAは二本鎖のRNAとして作り出されますが、Argonauteに取り込まれたあと、二本の鎖が引きはがされ、片方の鎖だけがArgonauteの中に残ることにより、はじめて標的mRNAを認識できるようになります。つまり小さなRNAはArgonauteによって成熟化されると言えます。

私達は今回、ヒトのArgonauteがどのようにして小さなRNAを取り込みそして成熟化するのかを調べるため、機能未知であった「Nドメイン」に系統的に点変異5) を導入し、小さなRNAとの複合体が作られる様子を調べました。その結果、NドメインはArgonauteが小さなRNAを取り込む段階には必要ないものの、取り込んだ小さなRNAの二本の鎖を引きはがす際に重要な働きを果たしていることが明らかとなりました。おそらくNドメインは、二本鎖RNAの末端に、ちょうど「くさび」を打ち込む様なかたちで作用しているものと考えられます (参考図)。この発見は、小さなRNAが成熟化し機能的な複合体を形成する過程の理解を大きく進展させるものであり、その理解に基づく小さなRNAの医療等への応用が期待されます。

4.発表雑誌:
雑誌名:Nature Structural & Molecular Biology
論文タイトル:The N domain of Argonaute drives duplex unwinding during RISC assembly
著者:Pieter Bas Kwak and Yukihide Tomari (ピーター・バス・クワック、泊 幸秀)
http://www.nature.com/nsmb/journal/vaop/ncurrent/abs/nsmb.2232.html

5.問い合わせ先: 東京大学 分子細胞生物学研究所
准教授 泊 幸秀 (とまり ゆきひで)

6.用語解説:
1) RNA: 日本語ではリボ核酸。通常はDNA(デオキシリボ核酸)がもつ遺伝情報のコピーとしてタンパク質の設計図に使われる。しかし、小さなRNAはタンパク質の設計図にはならない。

2) 発生: 受精卵から成体ができる過程のこと。

3) Argonaute: 小さなRNAと複合体を作るタンパク質。Argonauteには、mRNAを分解したり翻訳を阻害したりする働きがあるため、小さなRNAとArgonauteの複合体によって認識された標的mRNAからのタンパク質の発現は抑制される。

4)ドメイン: タンパク質の中で立体的・機能的にまとまった単位のこと。真核生物がもつタンパク質の多くは、複数のドメインから成り立っている。

5) 点変異: タンパク質を構成するアミノ酸のなかで、特定の一カ所を別のアミノ酸に置換すること。

7.参考図:
20120111_01

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