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共同記者会見「医薬品候補化合物とタンパク質の相互作用解析の高分解能化に成功」研究成果

共同記者会見「医薬品候補化合物とタンパク質の相互作用解析の高分解能化に成功」

平成24年3月26日

東京大学生産技術研究所

1.発表日時:
平成24年3月26日(月)10:00~11:00(受付開始 9:30~)

2.発表場所:
東京大学生産技術研究所 An棟3F大会議室(An301、302)
〒153-8505 目黒区駒場4-6-1 駒場リサーチキャンパス
http://www.iis.u-tokyo.ac.jp/access/access.html(参照)

3.発表者:
東京大学生産技術研究所 教授 加藤 千幸
立教大学理学部       教授 望月 祐志
みずほ情報総研株式会社  サイエンスソリューション部 チーフコンサルタント 福澤 薫

4.発表ポイント:
①フラグメント分子軌道法プログラムABINIT-MP/BioStationの新規開発機能を用い、タンパク質と医薬品候補化合物(リガンド)の電子状態計算を超並列・高速計算によって実現し、リガンドの特定部位と強く相互作用するアミノ酸残基を同定することを可能としました。
②従来法では、リガンドをひとまとめにした解析しか行えませんでしたが、本開発によって、リガンドを機能部位ごとに分割し、標的タンパク質との相互作用を定量的かつ空間的にも高分解能で評価できるようになりました。
③リガンドやタンパク質を機能部位の官能基単位の解像度で解析できるため、立体構造ベースの論理的創薬に役立ちます。今後、京速コンピュータ「京」の利用も期待できます。

5.発表概要:
東京大学生産技術研究所では、我が国の喫緊の課題である災害からの復興、産業競争力強化、安全・安心社会の構築等に対して必須の方策である科学技術イノベーションの創出を強力に牽引するための基盤となるシミュレーションソフトウェアの研究開発を行っています(文部科学省次世代IT基盤構築のための研究開発「イノベーション基盤シミュレーションソフトウェアの研究開発」プロジェクト、研究代表:加藤千幸教授)。これらのソフトウェア群は、機械・材料系分野、バイオテクノロジー分野、ナノテクノロジー分野を中心する広い意味での「ものづくり」の革新に貢献することを目標とするもので、本年秋に神戸において共用開始を予定されている京速コンピュータ「京」の能力を活用できる有力なアプリケーションとしてもクローズアップされています。

本プロジェクトの主要な分野の一つバイオテクノロジー分野において、フラグメント分子軌道(FMO)法注1)計算システムABINIT-MP/BioStationの開発を担当する立教大学理学部の望月祐志教授とみずほ情報総研株式会社の福澤薫チーフコンサルタントらの研究グループは、論理的創薬法に適した医薬品候補化合物(リガンド)とタンパク質の相互作用解析の高解像度化を可能とする新規手法を開発し、海洋研究開発機構のスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を用いて超高速計算することに成功しました。この手法により、リガンドをタンパク質との相互作用部位毎に分割し、タンパク質のアミノ酸残基側も主鎖と側鎖を分離して扱えるようになるため、これまでのリガンド対アミノ酸より詳細な相互作用の描像が得られ、リガンドの最適化が効率的に行えるようになります。これは、近年注目を集めているStructure Based Drug Design (SBDD)に広く適用でき、薬剤耐性問題や新型ウイルス対策にも有用と考えられます。なお、本研究開発は、国立医薬品食品衛生研究所の中野達也室長、神戸大学大学院システム情報科学の田中成典教授らと共同で、また、日本電気株式会社と連携して行われました。

6.発表内容:
研究の背景および技術的内容:
FMO法(注1)は、タンパク質などの巨大生体分子の電子状態を実用的に計算する手法で、これまでに様々な方法論や機能が強化され、多彩な応用研究が進んできました。特に創薬分野では、FMO計算から得られるフラグメント間の相互作用エネルギー(IFIE)に基づいたリガンドとタンパク質の相互作用解析が新薬の開発設計に役立てられてきています。しかし、これまでの2体ないし3体のフラグメント展開に基づいた手法では、リガンドやアミノ酸の詳細分割を行った場合に、化学的な議論に必要な精度が担保できませんでした。今回、4体まで展開を拡張した上で分散力を取り込める2次摂動論計算(注2)に対応したO4-MP2法(注3)を実装して、数値的な精度を確保しました。応分の計算量の増加を処理するため、地球シミュレータ(注4)のベクトル演算と超並列計算資源を活かしたチューニングを行い、超高速の実行性能を確保しました。

具体的な計算内容:
エイズウイルスの増殖に関わるHIV-1プロテアーゼと阻害剤ロピナビルの複合体のFMO4-MP2計算は、地球シミュレータの128ノード(注5)を用いると1.4時間でジョブが完了できます。また、クラスター型の計算機を用いることもでき、インフルエンザウイルスのノイラミニダーゼ(NA)と阻害剤タミフルとの複合体の計算も行っています。
インフルエンザのNAタンパク質とタミフルの相互作用においては、従来法ではタミフル全体をひとまとめとした解析を行ってきました。それではドラッグデザインに必要な、官能基単位の情報が得られなかったのですが、本手法を適用してタミフルを4つの機能部位に分割することによって、機能部位ごとの相互作用を詳細に解析することができます(下図)。効果的な可視化プログラムBioStation Viewerを用いると、リガンドを構成している1つ1つの官能基が、標的タンパク質のどの部分とどのような相互作用をしているのかが一目でわかります。

20120326_01

社会的意義・今後の予定:
本手法は、官能基単位で化合物の最適化を行うStructure Based Drug Design (SBDD)への適用が期待されます。また、ウイルスのアミノ酸残基が変異することによっておこる薬剤耐性や新型ウイルスの対策にも役立つと考えられます。現在、京速コンピュータ「京」への対応作業も進めており、「京」の利用による電子状態計算に基づいたスパコン創薬が期待できます。

7.発表雑誌:
日本化学会第92回年会(慶応大学日吉キャンパス) 2012年3月27日
http://www.chemistry.or.jp/nenkai/92haru/program_jp.html
3A4-40“フラグメント分子軌道法によるインフルエンザウイルスノイラミニダーゼと抗ウイルス薬との相互作用解析”
3A4-41“ Fragment Based Drug Design (FBDD)を指向した新規フラグメント分割法に基づくFMO計算”

8.問い合わせ先:
<研究内容に関するお問い合わせ>
望月 祐志(モチヅキ ユウジ) 立教大学 理学部 化学科 教授
担当:全体の取りまとめ(計算法、ABINIT-MPプログラム)、MP2エンジンの開発

福澤 薫(フクザワ カオリ)
みずほ情報総研株式会社 サイエンスソリューション部 チーフコンサルタント
担当:全体の取りまとめ(創薬応用計算、BioStation Viewerプログラム)
東京大学生産技術研究所 協力研究員(兼務)

田中 成典(タナカ シゲノリ) 神戸大学 大学院システム情報学研究科 教授
担当:FMO法の応用解析(超並列計算)

中野 達也(ナカノ タツヤ)
国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部 第四室 室長
担当:FMO法の開発

<研究内容以外のお問い合わせ>
東京大学生産技術研究所 総務課 総務・広報チーム

学校法人立教学院 企画部広報課

みずほ情報総研株式会社 広報室

神戸大学 広報室

9.用語解説:
注1)フラグメント分子軌道(FMO: Fragment Molecular Orbital)法
1999年に北浦和夫 氏(現 神戸大学 特命教授)によって提案された生体分子系に対する効率的な計算手法。巨大系を比較的小さなフラグメント(アミノ酸残基など)に分割し、各フラグメントのモノマーとダイマーの分子軌道計算を並列処理することにより、全系の電子状態をこれまでの手法よりはるかに短時間に高精度で解析することができる近似計算法。計算からは、フラグメント間の相互作用エネルギー(IFIEないしPIEと呼ばれる)が得られるため、創薬分野での応用計算が盛んに行われている。

注2)2次摂動論計算
アルキル基やベンゼン環などの疎水性グループ間に働く引力的な相互作用。共役結合部位間のπ/π型に加え、近年では水素結合に類したCH/π型も認識されている。創薬分野では、リガンドとアミノ酸残基の間の相互作用が特に重要である。計算によって分散力を取り込むには、2次のメラー・プレセット摂動論(MP2: Second-order Moeller-Plesset Perturbation theory)がよく用いられる。ABINIT-MPでは中間ファイルを一切使わない高効率の並列化MP2エンジンを内蔵している。

注3)FMO4-MP2法
フラグメントの展開を4体(テトラマー)まで拡張することにより、リガンドの複数分割とアミノ酸残基の主鎖・側鎖分割を伴う高解像度の解析を可能とするアプローチ。今回の実装ではMP2レベルでの計算が可能。

注4)地球シミュレータ
平成14年3月に運用を開始したベクトル型並列計算システム。平成21年3月に更新し、日本電気株式会社製のSX-9/Eを導入。超高速ネットワークで結合された160ノードから構成される。1ノードは8個の中央演算装置(CPU)と128GBの主記憶装置(メモリ)から成るスーパーコンピュータである。地球シミュレータは、地球温暖化をはじめとする気候変動予測、海洋物理、地震・地殻変動予測といった海洋学を含む地球科学全般にわたって様々な研究に用いられている。さらに、我が国の科学技術水準の向上と産業応用において先進的な成果が期待されるナノテクノロジー、バイオテクノロジー・創薬、ものづくりなどの多様な分野におけるシミュレーションにも広く供されている。

注5)ノード
共有メモリと複数の演算ユニット(CPUないしコア)を備えた計算機システムの基本要素であり、高速ネットワークで相互に接続されて、並列処理を行う。地球シミュレータの場合、ベクトル型CPUが8台で1ノードを構成している。

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