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「かにパルサー」からの超高エネルギーガンマ線放射記者発表

「かにパルサー」からの超高エネルギーガンマ線放射

平成24年4月3日

東京大学宇宙線研究所

1. 発表者: 
手嶋 政廣(東京大学宇宙線研究所・教授)
齋藤 浩二(東京大学宇宙線研究所・特任研究員)
折戸 玲子(徳島大学 大学院ソシオ・アーツ・アンド・サイエンス研究部・助教)
櫛田 淳子(東海大学理学部物理学科・講師)
齋藤 隆之(マックスプランク物理学研究所・研究員)
高見 一(マックスプランク物理学研究所・研究員)

2.発表のポイント:
MAGIC (Major Atmospheric Gamma Imaging Cherenkov)望遠鏡により、「かにパルサー」の回転に伴う超高エネルギーガンマ線パルスの放射を発見。パルサーからの放射としては、今までに例のない高いエネルギーであり、従来の理論予測の50-100倍を超えるエネルギーのガンマ線放射である。

3.発表概要: 
MAGIC 国際共同研究グループは、MAGIC望遠鏡(マジック望遠鏡、カナリア諸島ラパルマ島)を用いて、「かにパルサー」からこれまでに例のない高いエネルギー領域である25 GeV(*1) から400 GeV(可視光の100億倍から2000億倍のエネルギー)にいたる超高エネルギーガンマ線パルスの放射を観測しました。この観測により、かにパルサーのような非常に速い速度で回転する中性子星からの放射は、これまでの理論予測をはるかに超える高いエネルギーにまで達していることがわかりました。このことから、従来のパルサー理論では説明できない謎の放射プロセスが存在することになります。この結果は3月30日にAstronomy & Astrophysics誌にて発表されました。

4.発表内容:
「かにパルサー」は1秒間に30回の速さで回転する、強い磁場(1億テスラ、地球磁場の1兆倍以上)を持つ中性子星です。このパルサーは地球から6000光年離れた、牡牛座の「かに星雲」の中心にあり、この星雲にエネルギーを供給しています。「かにパルサー」、「かに星雲」ともに西暦1054年に起きた超新星爆発のあとに残された残骸です。「かにパルサー」のような中性子星は非常に高密度な星で、その直径が20 kmであり、太陽の7万分1の大きさであるにもかかわらず、太陽と同程度の質量を持ちます。現在まで我々の銀河(天の川銀河)内で約2000ものパルサーが電波望遠鏡等により見つかっており、これらパルサー天体の回転周期(地球の場合1日)は極めて規則的で、その周期は1ミリ秒から10秒程度です。回転中、パルサーは主に電子、陽電子からなる荷電粒子を放出します。これらの粒子は中性子星と同じ速度で回転する磁力線に沿って移動し、光子ビームを放射します。まるで遠くから灯台を見るときのように、ビームが我々の視線方向を向いたときのみ天体は明るく見えます。

MAGIC国際研究グループは2008年に「かにパルサー」からの25 GeV のガンマ線放射の発見を雑誌 Scienceに発表しました。この発見により中性子星の表面から遠く(60km以上)離れた位置で放射が起きているとの驚くべき結論が導き出されました。これは、高エネルギーのガンマ線は天体の磁場により非常に効率よく遮断されることから、もし中性子星近くで放射が起きている場合、そのような高エネルギー領域での放射は検出されないはずだからです。

今回、MAGIC望遠鏡による観測で、さらに驚くべき結果が明らかになりました。2年間にわたる、計73時間の観測により、予想をはるかに超える400 GeVという高いエネルギーに達する超高エネルギーガンマ線パルス放射を発見しました。また、パルスの幅がおよそ1000分の1秒と極めて短いこともわかりました。この発見は、今までのパルサーからの放射の理解に対して、おおきな疑問を投げかけるものです。

この疑問に答えるため、相互作用により生成された二次粒子がパルサーの磁場による遮蔽を乗り越えるとするモデル、また別の可能性として、カニ星雲にエネルギーを供給しているパルサー風(*2)の中においてもパルサー放射が起こっているとするモデル(Natureに出版された関連論文1)が提案されています。しかし、どちらのモデルも今回観測された極めて高いエネルギーで、かつ時間幅の狭いパルス放射について、十分な説明を与えていません。今後、さらなる観測によって、より高精度の観測データが得られ、パルサー放射機構の謎が解かれることが期待されます。

5.発表雑誌: 
雑誌名:Astronomy and Astrophysics 3月30日発行
論文タイトル:Phase-resolved energy spectra of the Crab pulsar in the range of 50-400 GeV measured with the MAGIC Telescopes
著者:MAGIC Collaboration, J. Aleksic, J.Kushida, R.Orito, K.Saito, T.Saito, H.Takami, M.Teshima, et al.
関連論文
1) F. A. Aharonian, S. V. Bogovalov & D. Khangulyan, Abrupt acceleration of a 'cold' ultrarelativistic wind from the Crab pulsar, Nature Vol. 482, 507 (2012)
2) MAGIC Collaboration, "Observations of the Crab pulsar between 25 GeV and 100 GeV with the MAGIC I telescope", Astrophysical Journal Vol. 742, 43 (2011)
3) MAGIC Collaboration, "Observation of Pulsed γ-Rays Above 25 GeV From the Crab Pulsar with MAGIC", Science Vol. 322, pg.1221-1224 (2008)
6.注意事項:
特になし

7.問い合わせ先: 
東京大学宇宙線研究所 教授 手嶋政廣

8.用語解説: 
(*1) GeV(ギガエレクトロンボルト)は1000,000,000電子ボルトのことでおよそ可視光の10億倍のエネルギーに相当する。
(*2) パルサー風とはパルサーから放出されるほぼ光速に近い電子と陽電子の流れ。

9.添付資料:
20120403_01
MAGICは世界最大の17 m鏡面を持つ、2台のガンマ線望遠鏡システムです。MAGIC望遠鏡は日本、ドイツ、イタリア、スペイン、スイス、ポーランド、フィンランド、ブルガリア、クロアチアの約160人の研究者を含む国際共同研究により建設、運用がなされています。カナリア諸島・ラパルマのロケ・ムチャチョス の頂上にあるヨーロッパ北天文台に位置しています。MAGIC望遠鏡は宇宙からのガンマ線が地球の大気に突入し、二次粒子の電子なだれを引き起こしたときに発生する、チェレンコフ光とよばれる青い光のフラッシュを観測します。


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MAGIC望遠鏡はかにパルサーからの25 GeVから400 GeVにいたるエネルギーの超高エネルギーガンマ線を検出した。図はMAGICによるかにパルサーのパルス放射。


20120403_03
MAGIC望遠鏡は「かにパルサー」からの25 GeVから400 GeVにいたるエネルギーの超高エネルギーガンマ線を検出した。上部合成写真は可視光とX線によるかに星雲のイメージと、パルサー磁気圏を表すイラスト。下はMAGICによる0.0337秒周期パルスのライトカーブ。

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