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中高年者の生活実態に関する全国調査 結果概要研究成果

中高年者の生活実態に関する全国調査 結果概要

平成24年6月20日

東京大学大学院人文社会系研究科

(※本ページに掲載の情報は、プレスリリース当時のものです。最新の情報は「階層格差と公共性プロジェクト」ウェブサイトをご確認ください。)

1. 発表者: 
白波瀬佐和子(東京大学大学院人文社会系研究科社会文化研究専攻(社会学) 教授)

2. 発表のポイント: 
- 日本に居住する50歳から84歳の男女を対象に「中高年者の生活実態に関する全国調査」を実施。その実態を網羅的に提示した。
- 経済状況に加え、社会的ネットワークや社会的活動、そして親子間の支援の授受に注目し、中高年層の階層格差を明らかにした。
- 現役対引退世代間の再分配のみならず、引退層間の再分配について政策的観点から検討する上で重要な意味をもつ。

3. 発表概要: 
東京大学大学院人文社会系研究科の白波瀬佐和子(しらはせ さわこ)教授らは、日本学術振興会より研究助成(課題番号 20223004)を受け、2010年「中高年者の生活実態に関する全国調査」(以降、中高年調査)を実施し、このほどその結果を取りまとめた。

中高年調査の主たる目的は、50歳以上の中高年層に着目して、所得や資産、家族・親族のみならず近隣等とのネットワーク、社会的活動、親子間の支援の授受状況を明らかにすることである。

社会の階層構造に関しては、これまでは労働市場との関係が比較的安定的な現役層から中心に検討され、労働市場から引退した高齢者の位置づけは明確にされてこなかった。さらに、近年の経済グローバル化とともに経済の低迷が長期化・恒常化し、成人期においても労働市場と安定的な関係を持つ者ばかりではなくなった。言い換えれば、社会保障制度の中心的機能の一つである再分配を考えるにあたって、現役世代対引退世代という構図だけでは、立ち行かなくなったといってもよい。

そこで本研究では、50歳以上の中高年層の階層構造を明らかにするために、日本全国に居住する男女を対象に大規模な社会調査を実施した。本調査研究は、少子高齢社会に向けた新しい階層研究の新機軸を提示するという点で、大きな意味がある。

4. 発表内容: 
  東京大学大学院人文社会系研究科の白波瀬佐和子教授らは、2010年、日本学術振興会より研究助成を受けた科学研究費 基盤研究(S)「少子高齢社会の階層格差の解明と公共性の構築に関する総合的実証研究」(課題番号 20223004)の一環として、「中高年者の生活実態に関する全国調査」(以降、中高年調査)を実施した。中高年調査の実施時期は、2010年8月3日から8月30日にかけてである。調査の対象は日本に居住する50歳から84歳の男女とし、層化二段無作為抽出法(注1)を用いて9,800人を選び出した。調査方法は、郵送配布・訪問回収とした。有効回答者数は6,442人であった。今回は、病院入院中の者19名、施設入所中の者20名、その他(居住形態不詳を含む)の者165名を除く、6,238名について報告する。
  中高年調査では、資産(預貯金、株式、生命保険・損害保険、持家以外の不動産、田畑・山林、絵画・骨董品・貴金属、その他)の保有状況と預貯金額と預貯金以外の金融資産額(有価証券や投資信託)について質問している。全く資産を持たず、金融資産を有さない者は男性38.2%、女性53.4%である。特に一人くらしの男性の過半数(57.8%)はいずれの資産も保有していない。女性の間では、一人親世帯(50.8%)と三世代世帯(51.8%)で資産を全く持たない者の割合が比較的高い。

 過去1年間に、18歳以上の子どもとの間で行った定期的、日常的な経済的な支援について質問した結果、85%以上の大多数がやり取りはないと回答していた。本人の親、あるいは配偶者の親についても、8割程度が定期的な経済的支援を行っていない。一人目の子どもとの世話的な支援のやりとりについてみると、対象者から子どもに対して4割が何ら世話を行っておらず、子どもからも過半数が支援を受けていない。もっとも、世話的支援状況については、子どもとの同別居状況によってその内容や程度に大きな違いがある。
  日常的なやり取りのみならず、これまで対象者の親との間で資金や世話のやり取りがあったのかについても検討した。本人親/配偶者親からの受けたものとして、結婚費用、子どもの世話、子どもの出産・入学祝い、子どもの教育資金、住宅資金、お中元やお歳暮などの季節の贈り物、その他、があり、本人親/配偶者親に与えたものとして、お中元やお歳暮などの季節の贈り物、家の建て替え・改修費、入院費用、老人ホームなどへの入所資金、一緒に旅行に行く、その他、について質問した。それぞれの項目について「あり」とした事項を合計して親子間のやり取りの程度をみた。ここで興味深いのは、「親から子へ」と「子から親へ」のやり取りは非対称であるということである。対象者本人の親からの譲渡が最も多く、配偶者親への譲渡は限定的である。世話や資金の親子間の移転は、上世代から下世代への方向に強くみられる。

 次に人々の信頼度をみてみると、政府に対する信頼度の低さが目立った。政府を信頼しないと答えた者は6割以上にも上る。少子高齢社会における公的年金制度については、信頼しないとした者が4割、生活保護制度についても42.3%が信頼しないと答えた。年齢階層別に少し詳しく信頼の程度をみてみると(結果表省略)、50代層において特に、政府(70.3%)、公的年金制度(54.4%)と生活保護制度(50.1%)への高い不信感が目立つ。その一方で、家族に対しては、ほぼ全員が「信頼する」とした。
  年齢階層ごとに頼ることのできる人の程度を、人的資源保有スコアとして試算した。スコアが高いほど頼ることのできる人が多く、もしもの時のリスク対応力が高いとみなす。年齢が高くなるにつれて、人的資源保有スコアは低くなる。家族、親族、友人・知人についても、それぞれ同様に年齢が高くなるにつれてスコアが低下する。また、「何かあった時に頼りにすることのできる人はだれですか」という問いに対して、「近所の人」と回答した方が極めて少数であった点は注目に値する。2012年3月11日の東日本大震災後の教訓においても絆の大切さが強調されているが、実際のデータをみてみると、近所の人に頼むことができるとする者は決して多くなかった。少子高齢化が進み、多様な家族形態が出てくる中、近隣コミュニティをどのように形成していくかは重要な検討課題である。

 2012年2月、このたびの中高年調査協力者から追跡調査の了解を得た方を対象に、継続調査を実施した。そこでは、ネットワーク状況に加えて孤独感についても質問している。今後、データクリーニングが終了後、できるだけ早い時期に結果公表を試みる。
 
5.発表雑誌:
現在、調査データの分析を進めており、今後、学術雑誌を中心に論文として発表していく。

6.問い合わせ先:
東京大学文学部 社会文化研究専攻(社会学) 教授 白波瀬佐和子

7.用語解説: 
(注1)社会の実態をできるだけ正確に反映するような調査を実施するために、望ましい回答が期待できる方を恣意的に選ぶといったことのないように、くじ引きをする要領で調査対象者の方を選ぶ。その際の方法として、日本全国に在住する方全員をくじ引き方式で選びだすのは大変なので、地域レベルでまず抽出し、その地域の中から対象者を選び出すという二段階で抽出する方法を、層化二段無作為抽出法という。

8.添付資料: 
プロジェクトのウェブ(http://www.l.u-tokyo.ac.jp/~kaiso-08/)に、添付資料とした「調査結果概要」を掲載する。

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