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粒子法による東日本大震災の津波そ上の大規模シミュレーョン ―スーパーコンピュータを用いた3次元解析―研究成果

粒子法による東日本大震災の津波そ上の大規模シミュレーョン
―スーパーコンピュータを用いた3次元解析―

平成24年10月5日

東京大学大学院工学系研究科

1.発表者:
  室谷浩平(東京大学大学院 工学系研究科 システム創成学専攻 特任研究員)
  越塚誠一(東京大学大学院 工学系研究科 システム創成学専攻 教授)

2.発表のポイント:
  ◆どのような成果を出したのか
    東日本大震災で被災した石巻市の津波のそ上の大規模3次元シミュレーションを実施した。
  ◆新規性(何が新しいのか)
   ・粒子法と呼ばれる独自に開発したシミュレーション技術を用いた。
   ・その粒子法をスーパーコンピュータ上で高性能を発揮できるような計算技術を開発した。
   ・上記によって、実地形における津波のそ上の大規模3次元シミュレーションが可能になった。
  ◆社会的意義/将来の展望
    津波のそ上の大規模3次元シミュレーションは、津波被害の予測、被害の低減、避難方法の検討のために重要な情報を提供できる。

3.発表概要:
  東京大学大学院 工学系研究科 システム創成学専攻の室谷浩平特任研究員と越塚誠一教授は、粒子法(用語解説1)というシミュレーション技術を用いて、東日本大震災で発生した津波のそ上の大規模3次元シミュレーションを、東京大学情報基盤センターに設置されたスーパーコンピュータを用いて実施しました。
  東日本大震災で発生した津波は、防波堤を超えて沿岸の陸上をそ上することで被害が拡大しました。津波のそ上をシミュレーションできるようにすることは、津波被害を予測する上で必要不可欠であるだけでなく、津波の被害を低減する方法や避難の方法を検討するためにも重要です。しかし、津波のそ上をシミュレーションするには、 (1) 複雑な地形を詳細に扱うこと、および、(2) 津波がそ上する広い地域を扱わなければならないため非常に大規模なシミュレーションになること、という課題がありました。
  そこでまず、第一の課題に関しては、東京大学で独自に開発した粒子法と呼ばれるシミュレーション技術を用いて、複雑な地形を詳細に扱えるようにしました。第二の課題については、粒子法の大規模並列計算技術を新たに開発し、東京大学情報基盤センターのスーパーコンピュータFX10を用いました。
  図1はシミュレーションに用いた石巻市の一部の地形です。図2に計算結果を示します。津波が陸の奥までそ上し、高台のふもとまで達していることがわかります。また、河口に津波が集中し、上流まで津波がさかのぼっていく様子も再現されています。
以上の手法で実現した津波のそ上の大規模3次元シミュレーションは、津波被害の予測、被害の低減、避難方法の検討のために重要な情報を提供できます。


4.発表内容:
  東京大学大学院 工学系研究科 システム創成学専攻の室谷浩平特任研究員と越塚誠一教授は、粒子法(用語解説1)というシミュレーション技術を用いて、東日本大震災で発生した津波のそ上の大規模3次元シミュレーションを、東京大学情報基盤センターに設置されたスーパーコンピュータを用いて実施しました。
  東日本大震災で発生した津波は、防波堤を超えて沿岸の陸上をそ上することで被害が拡大しました。津波のそ上をシミュレーションできるようにすることは、津波被害を予測する上で必要不可欠であるだけでなく、津波の被害を低減する方法や避難の方法を検討するためにも重要です。また、高い計算精度を得るためには3次元シミュレーションが必須です。さらに、将来的には東日本大震災で多く見られた浮遊物の影響を考慮することも可能になります。
  しかし、津波のそ上をシミュレーションするには、津波がそ上する実際の地形をモデル化する必要があり、(1) 複雑な地形を詳細に扱うこと、および、(2) 津波がそ上する広い地域を扱わなければならないため非常に大規模なシミュレーションになること、という課題がありました。
  そこでまず、第一の課題に関しては、東京大学で独自に開発した粒子法と呼ばれるシミュレーション技術を用いて、複雑な地形を詳細に扱えるようにしました。粒子法は、従来のシミュレーション手法(用語解説2)とは異なり空間に格子を生成する必要がなく、地形に沿って粒子を配置するだけでよく、複雑形状を扱うことが容易です。
  第二の課題については、スーパーコンピュータ上で高速演算性能が発揮できるように粒子法の大規模並列計算技術を新たに開発し、東京大学情報基盤センターのスーパーコンピュータであるFX10を用いました。FX10は、日本最大のスーパーコンピュータ「京」を基に商用化されていますが、「京」よりも規模が小さくなっています。
  図1はシミュレーションに用いた石巻市の一部の地形です。東西4.0km、南北3.5kmを扱います。津波は南端の水位を境界条件として与えました。用いた粒子の直径は2mで、総粒子数は最大時には2100万に達します。シミュレーションをおこなった実時間は25分(1500秒)で、FX10の48ノード(768コア)を使用した計算時間は27時間でした。
  図2に計算結果(1000秒, 1100秒, 1200秒)を示します。津波が陸の奥までそ上し、高台のふもとまで達していることがわかります。また、河口に津波が集中し、上流まで津波がさかのぼっていく様子も再現されています。
  今後は、家屋やビルを含めた地形の影響、および破壊された家屋や港に停泊している船舶が浮遊物として津波とともにそ上する影響についてもシミュレーションに取り入れていきたいと考えています。また、津波によってそ上する水流は、地形によって集中あるいは分散するため、さらに広範囲な地形を同時に扱えるようシミュレーションの規模を大きくしていく予定です。
  なお、津波の入力の境界条件には、東北大学(今井健太郎助教、越村俊一教授)および国際航業株式会社の協力をいただきました。また、陸上の地形データには石巻市の協力をいただきました。
  本研究成果は、独立行政法人 科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST) 研究領域「ポストペタスケール高性能計算に資するシステムソフトウェア技術の創出」(研究総括:米澤 明憲 ((独)理化学研究所 計算科学研究機構 副機構長))における研究課題「ポストペタスケールシミュレーションのための階層分割型数値解法ライブラリ開発」(研究代表者:塩谷 隆二 (東洋大学 総合情報学部 教授))によって得られました。
 

5.発表雑誌:
  本研究成果は、日本機械学会第25回計算力学講演会(神戸, 2012年10月6~9日)において発表する予定です。

6.問い合わせ先:
東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻
  特任研究員 室谷 浩平
  教授 越塚 誠一


8.用語解説:
1)粒子法
水などの連続体を粒子群で近似し、その運動方程式をこれと等価な粒子運動に変換して現象をシミュレーションする方法。東京大学の越塚誠一教授の開発したMPS(Moving Particle Semi-implicit)法がその代表である。

2)従来のシミュレーション手法
流体力学や構造力学の従来のシミュレーション手法には、差分法、有限体積法、有限要素法がある。こうした方法では、計算格子で空間をおおう必要がある。そのため、複雑な形状を扱いたい場合や、形状が変化する場合は、計算格子を生成することが難しくなるという問題点がある。たとえば津波シミュレーションでは、複雑な地形を扱う場合や、津波と地形の相互作用によって水の運動が複雑になる場合は、従来の手法ではシミュレーションが難しい。粒子法はこうした問題点を解決する方法として注目されている。

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