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記者会見「市民の交通行動は変わるか:CO2情報等の配信による一般市民の交通行動変容調査実験を開始、柏市にて」研究成果

記者会見「市民の交通行動は変わるか:
CO2情報等の配信による一般市民の交通行動変容調査実験を開始、柏市にて」

平成24年12月5日

東京大学生産技術研究所

1.発表日時:
平成24年12月5日(水)13:30~14:30(受付開始 13:00)

2.発表場所:
東京大学生産技術研究所 研究棟E棟5F会議室(Ew501)
〒153-8505 目黒区駒場4-6-1 駒場リサーチキャンパス
http://www.iis.u-tokyo.ac.jp/access/access.html(参照)

3.発表者:
東京大学大学院情報学環 教授/柏ITS推進協議会 会長
池内 克史
東京大学生産技術研究所 教授(委嘱)/東北大学大学院情報科学研究科 教授
桑原 雅夫
東京大学生産技術研究所 教授/柏ITS推進協議会 第五部会長
大口  敬
東京大学生産技術研究所  准教授
上條 俊介
株式会社アイ・トランスポート・ラボ 代表取締役
堀口 良太
アジア航測株式会社 営業統括部
吉村 方男
株式会社オリエンタルコンサルタンツ 関東支店 交通技術部 部長
田中  淳
株式会社国際情報ネット 開発部 次長
長谷川雅人
株式会社長大 社会事業本部 東日本スマートコミュニティ事業部 社会システム部ITSグループ
佐々木 卓
パシフィックコンサルタンツ株式会社マネジメント事業本部交通政策部 交通戦略室 室長
市川 博一
柏市役所 土木部道路交通課/東京大学 生産技術研究所 協力研究員
佐々木政秀

4.発表ポイント:
①成果
道路からのCO2排出状況等を算出・配信する仕組みを構築した。これにより地域住民の交通行動変容を検証する社会実験を千葉県柏市で行う。
②新規性
交通情報を収集・補間・可視化・配信する各技術の実用化において新規性があり、実フィールドで社会的検証を行う点が革新的である。
③意義/将来展望
一般市民を対象とした社会フィードバックシステムであり、移動前の段階から環境に配慮した交通行動を促し、意識改革を起こすことが期待できる。持続運用、他地域への導入も視野に入れている。

5.発表概要:
道路交通からのCO2排出量は全体の20%弱を占めており、その削減が急務である。これに対し、東京大学大学院情報学環の池内克史教授らの研究グループは、総務省の委託* を受け、情報通信技術を活用して「生活交通情報」を地域市民に配信することで、環境に配慮した交通行動を取るよう促す仕組みを構築する研究に取り組んでいる。
本会見では、その一環としてCO2排出状況等を算出・配信するシステムの一部が完成したこと、千葉県柏市を舞台に、市民の交通行動を調査する社会実験を試験的に開始することを発表する。会見の翌日 (12/6) より情報配信を開始し、市民の交通行動が普段と比較してどのように変容するかの検証を開始する。
技術面では、交通状況・CO2に関する情報について「収集」「統合・加工」「配信」の3段階の処理を行っている。既設の監視カメラ等を活用して各地点での道路交通状況を持続的に観測し、それらや統計データを統合・補間することで対象地域全体の交通状況を推計する。これよりCO2の排出量を算出し、仮想現実感技術により可視化したのち、市民の情報端末に配信する。
このような社会フィードバックシステムを実フィールドで検証する取り組みは画期的である。今後は、実験を重ねた上で2013年10月のITS世界会議でデモンストレーションを行い、その後も持続的に運用することを検討している。重厚なインフラを必要とせず、開発途上国を含めた他地域にも展開が見込まれるシステムである。

* 戦略的情報通信研究開発推進制度 (SCOPE) 「市民の交通行動変容を促進する持続可能な生活交通情報フィードバックシステムの研究開発」(2011~2013年度)

6.発表内容:
(1)背景
道路交通からのCO2排出量は全体の20%弱を占めており、その削減が急務である。対策として環境対応車両の普及に期待が寄せられ、また低環境負荷ルートの算出等に関する研究も盛んであるが、車両単独や運転中を対象とした施策のみではその効果は限定的である。低燃費走行の実践、経路や出発時刻の変更、公共交通の利用促進、更にはエコドライブ機器の装着や環境対応車への買い換え等、移動が生じる前の段階から、自動車運転者以外も含めた一般市民が移動の仕方を工夫し、環境意識を高められるような仕組みづくりが必要である。
本研究は、このような観点から、交通状況等の網羅的な情報を、情報通信技術を活用して理解しやすい形に加工した「生活交通情報」として地域市民に日常的に提示し、環境に配慮した交通行動を取るよう促す社会フィードバックシステムを実用化し、評価を行うものである。
本会見では、その一環として、道路交通からのCO2排出状況等を算出・配信するシステムの一部が完成し、「ITS実証実験モデル都市」である千葉県柏市をフィールドとした社会実験を試験的に開始することを発表する。
会見の翌日 (12/6) より情報配信を開始し、市民が普段どのような交通行動をとり、情報配信を行った場合にどのように交通行動が変容するか、またこのような仕組みに対する受容性について検証を開始する。

(2)研究開発の概要
本研究は、以下の3技術分野の研究開発および次節の社会実験で構成される。会見時点では①~③の一部がオンラインで稼働し、実験に活用できる状態にある。
① 持続可能な交通モニタリング
・ 路上監視カメラ、車両感知器、ETC、バスロケーション、プローブ車両、様々な交通状況における道路上の全周囲画像等を収集する技術を開発する。
② 時空間融合交通情報基盤
・ ①で得られた観測情報のほか、時刻表やその他の統計情報等、多岐にわたる交通データを共通基盤上で扱うことのできるデータベースを構築する。
・ 部分的にしか得られていないこれらの情報を統合・補間し、また利用者自身の交通行動に関する情報と合わせて、時間的にも場所的にも完全な交通状態およびCO2排出量を推定する技術(ナウキャスト(注2)シミュレーション)を開発する。
① 生活交通情報配信システム
・ ②で生成した情報や、異なる交通行動を取った場合のCO2排出状況等を仮想現実感 (VR) 技術を通じて可視化し、PCやスマートフォン等の情報端末を通じて地域市民に日常的に提示するシステムを開発する。
・ ②で生成した情報を複合現実感 (MR) (注3)技術により実世界に重ね合わせて提示し、交通状況・環境状況を実地で体験することのできる4次元仮想化空間デモシステムを構築する。

(3)社会実験の概要
社会実験は、内閣府により「ITS実証実験モデル都市」に選定された千葉県柏市をフィールドとし、プレ実験(今回)と、本実験(2013年度)の2段階に分けて行う。具体的には以下の2種類の調査を行う。
・ プローブパーソン調査:
柏市民から募集した被験者(プレ実験時20 名、本実験時100 名予定)の合意を得て、情報端末に専用の配信アプリケーションをインストールしてもらい、GPS機能等を利用して移動履歴を収集する。外出前にはアプリケーション上でCO2排出状況等を閲覧のうえ目的地・移動手段を設定してもらう。到着後には移動履歴、CO2排出量が確認できる。本実験においては、仮に公共交通で移動した場合、自動車で異なる経路を選んだ場合、エコドライブを行った場合の評価結果等も確認でき、これらの閲覧履歴も収集する。
・ Webアンケート調査(本実験時のみ):
柏市および周辺地域の住民から募集した回答者(約1000 名予定)を対象として、交通行動変容の可能性を調査する。

CO2の排出量は、被験者の交通行動とそれに対する単位排出量から求められる。排出削減量は、アプリケーションに情報を配信する場合としない場合の交通行動の比較や、Webアンケート調査の結果から推計する。さらに、将来において交通行動の変容が増加する・しない場合等のCO2排出削減量も試算する。

(4)社会的意義と今後の展望
社会的な意義として、以下が挙げられる。
・ これまでの自動車主体のCO2排出量削減施策に対して、市民全体を対象とした施策であり、個々人の努力では限界のある課題に関して社会的な協調・連携を促し、移動と環境負荷に対する意識を高める仕組みである。
・ そのために、知覚や体験だけでは理解できない交通状況・CO2排出状況を、専門家のみならず一般市民でも直感的に理解できるよう、仮想現実・複合現実感技術を活用した開発を行っている。
・ 大量の部分的観測データから全体像を補間・推計し、実フィールドで社会的評価を行う点は、ビッグデータに関する研究開発の大規模な適用事例であり、技術面において先進的である。
・ 重厚なインフラを必要とせず持続可能性を考慮したシステムであり、欧米だけでなくBRICs や開発途上国等に展開が見込まれ、我が国の産業の国際競争力強化に貢献する。

今後の展望は以下の通りである。
・ システムの改善を行い、規模を拡大して社会実験を行う。
・ 情報提供を行うことによる交通行動の変容、CO2排出量削減効果を評価する。また、利用者の受容性、社会的便益、採算性、精度等についても評価する。
・ 2013年10月に東京で開かれるITS世界会議のショーケースとして国内外に向けたデモンストレーションを行う。
・ 研究期間終了後の実運用についての具体的対策、運用体制の構築を行う。

7.問い合わせ先:
(1)全般および可視化に関すること
東京大学生産技術研究所 特任助教 小野晋太郎

(2)社会実験に関すること
パシフィックコンサルタンツ株式会社 マネジメント事業本部 交通政策部
市川博一、田村勇二

8.用語解説:
(注1)交通行動:交通手段、出発時刻、経路、運転行動など、移動の仕方全般
(注2)ナウキャスト:部分的にしか得られていない観測データから、計算モデルにより全体像を補間して推定すること
(注3)複合現実感(MR):現実世界の風景の上にCG(コンピュータグラフィクス)で描いた仮想物体を重ね合わせて合成表示すること

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