東京大学IRT研究機構が、台湾・台北で開催される国際学会MEMS2013にて、3つの計測およびセンサ技術を発表研究成果
東京大学IRT研究機構が、台湾・台北で開催される国際学会MEMS2013にて、 |
平成25年1月22日
東京大学IRT研究機構
1.発表者: 国立大学法人 東京大学 IRT研究機構
2.発表のポイント:
◆国立大学法人 東京大学(総長:濱田 純一、以下、東京大学)IRT研究機構(*1)(機構長:下山 勲、以下、IRT)下山 勲 教授らは、2013年1月20日から24日にかけて台湾の台北で開催される国際学会MEMS2013(The 26th IEEE International Conference on Micro Electro Mechanical Systems)で、計測およびセンサに関する技術を発表します。
3. 発表概要:
IRT研究機構の下山 勲 教授らは、2013年1月20日から24日にかけて台湾の台北で開催される国際学会MEMS2013(The 26th IEEE International Conference on Micro Electro Mechanical Systems)で、以下の3つの技術を発表します。
(1) 「昆虫の歩行時に発生する力を計測するMEMSフォースプレート」技術:下山 勲 教授および高橋 英俊 特任研究員らは、μNの微少な力を計測できるμサイズのプレートを自由に配置して、昆虫の複数の脚にかかる力の測定を可能にする技術を実現しました。安定性のある複数脚歩行を実現する昆虫の歩行メカニズムの解明に繋がり、生物学的・工学的にも重要です。
(2) 「高感度絶対圧センサ」技術:下山 勲 教授およびNguyen Minh-Dung(博士課程2年)らは、10 cmの高さ変化の気圧に相当する1 Pa以下の分解能を持つ、MEMS絶対圧センサを開発しました。カーナビゲーションシステムを始め、聴診器や水中マイクなど広い応用が期待されます。
(3) 「グラフェンを用いた超低電圧・低消費電力のガスセンサ」技術:下山 勲 教授および稲葉 亮(博士課程2年)らは、グラフェントランジスタを用いて、従来と同程度の検出感度を持ち、100 nW以下の消費電力、1 V以下の低い電圧で駆動する、低消費電力のガスセンサを実現しました。本研究の成果により、高感度ガスセンサの小型化・省電力化が見込まれています。
4.発表内容
「昆虫の歩行時に発生する力を計測するMEMSフォースプレート」
昆虫は6本の脚を巧みに操り歩行を形成しています。これまで、アリなどの小型昆虫の歩行の研究では、脚が接地か遊脚かの2パターンの判別をビデオ観察で行うことにとどまっており、それぞれの脚がどのようにバランスを取って歩行しているか十分に分かっていませんでした。各脚にかかる力を測定できれば、昆虫の歩行メカニズム解明に繋がるだけでなく、人が入れない場所で安定して歩行できる多足ロボット開発など、工業技術への応用も期待できます。しかし、従来の力センサでは、センサのサイズが昆虫に対して大きいため、複数の脚にかかる力を独立に計測することが困難でした。
下山 勲 教授および高橋 英俊 特任研究員らは、昆虫の歩行時に各脚に発生する力を明らかにするために、MEMSフォースプレートによる計測方法を提案しています。従来のフォースプレートは数百Nオーダの力を発生する人の運動解析等に用いられていました。MEMSを用いることで、マイクロサイズのプレートを昆虫の脚の間隔に合わせてアレイ状に自由に配置することができ、またピエゾ抵抗を利用することでμNのオーダの微小な力の計測を可能にしています。MEMSフォースプレートはSOI(Silicon on Insulator)シリコン基板のデバイス層内に形成されており、プレートを支えるビームの付け根の表面と側面にピエゾ抵抗層を形成しています。プレートの上に昆虫の脚が接地すると、プレートに加わる力によってビームが変形し、ピエゾ抵抗層の抵抗値が変化します。この抵抗値の変化を計測することで、プレートに垂直及び水平に加わる2方向の力を計測することができます。このプレートのアレイによって、各脚に発生する力を同時に計測することができるようになります。
本研究では、図1の写真に示すようなMEMSフォースプレートを試作しました。約1 mm角の大きさのプレートが、1.25 mmの間隔で直列に配置されています。このMEMSフォースプレートは1 μN以下の分解能を持ちます。クロヤマアリがプレート上を歩行する際の力を計測した結果、最大で自重の半分程度である10 ~20 μNの力が発生しており、歩行に合わせた各脚にかかる力の推移が観察できました。
この計測方法を用いることで、昆虫独自の歩行のメカニズムの解明に役立ちます。
参考:
MEMS2013 website: http://www.mems2013.org/
H. Takahashi, K. Matsumoto and I. Shimoyama, “MICRO FORCE PLATE ARRAY FOR MEASUREMENT OF GROUND REACTION FORCE OF INSECT RUNNING”
「高感度絶対圧センサ」
私たちの生活する空間の大気圧は約0.1 MPaです。地表より1 m上昇すると約10 Pa気圧が下がることが知られています。今回、下山 勲 教授およびNguyen Minh-Dung(博士課程2年)らは、10 cmの高さ変化の気圧に相当する1 Pa以下の分解能を持つ、MEMS絶対圧センサを実現しました。
本研究では、図2に示すように、ピエゾ抵抗型片持ち梁(カンチレバー)を小型の空気室の上に配置し、空気室を密閉状態にするために、カンチレバーと周りの壁との隙間(ギャップ)を液体で埋めました。ピエゾ抵抗型カンチレバーはSOI(Silicon on Insulator)基板のデバイス層内に形成されており、カンチレバーの表面にピエゾ抵抗層が形成されています。圧力によってカンチレバーが変形してピエゾ抵抗層の抵抗値が変化します。この抵抗値の変化を計測することで、加えられた圧力を計測することができます。従来のシリコンダイヤフラム型の圧力センサにくらべて、圧力を受けるカンチレバー素子が柔らかいので、感度の高い圧力センサを実現できます。
カンチレバーの大きさは125 μm × 100 μmで、厚さは 300 nmとなっています。さらに、カンチレバーの周りは1 μmと非常に狭いギャップが形成されていて、液体は表面張力の作用によって下の空気室に漏れません。
このセンサで高感度に絶対圧を測れるので、カーナビに応用し、加速度計では測れない地表からの高度情報を得ることができます。また人体の音(筋音・心臓音・循環器音等)を計測する聴診器などに広く応用ができるほか、液体で封止しているため水中マイク(ハイドロフォン)などの応用も期待できます。
参考:
MEMS2013 website: http://www.mems2013.org/
N. Minh-Dung, P. Hoang-Phuong, K. Matsumoto and I. Shimoyama, “A SENSITIVE LIQUID-CANTILEVER DIAPHRAGM FOR PRESSURE SENSOR”
「グラフェンを用いた超低電圧・低消費電力のガスセンサ」
下山 勲 教授および稲葉 亮(博士課程2年)らは、グラフェントランジスタを用いて、100 nW以下の消費電力、1 V以下の低い電圧で駆動するガスセンサを実現しました(図3)。このセンサはグラフェンをチャネルに持つ電界効果トランジスタと、それを覆うイオン液体で構成されます。イオン液体中のグラフェンに電圧をかけると、グラフェン近傍のイオン液体に、厚さ約1 nmの極めて薄い絶縁層が形成されます。一般的なトランジスタで用いられている固体絶縁膜に比べて、厚さが100分の1であるため、この絶縁層をトランジスタのゲート絶縁体として利用することでトランジスタの駆動電圧を下げることができました。また、イオン液体は周囲のガスを吸収しますが、イオン液体の種類によって吸収するガスの量や種類が変わるという特徴があります。この特徴を利用することで、様々なガスに対応可能なガスセンサが実現できます。
従来のガスセンサは酸化物半導体を高温下で用いるものが主流であり、消費電力は100~1000 mWでした。本研究のセンサでは、センサ素子としてグラフェンを使用しています。グラフェンは、炭素原子が原子1個分の厚さ(約0.3 nm)で蜂の巣のように並んだ構造のシートです。グラフェンを構成するすべての炭素原子がイオン液体に接しているため、室温下でも周囲のガス種・濃度の変化に敏感に反応して、その電気特性が変化します。このグラフェンとイオン液体の性質を利用して、従来と同程度の検出感度を維持した上での低消費電力化が実現できました。
本研究では、図4の写真に示すようなセンサを試作しました。グラフェンチャネルの大きさは50 μm×20 μmであり、約0.1 μLのイオン液体がチャネルおよびソース・ドレイン・ゲート電極上に滴下されています。このセンサを空気中およびアンモニアガス中に配置したところ、30 ppmのアンモニアガスに対して7.69 μAから7.12 μAの電流変化が計測されました。また、別の種類のイオン液体を使用したセンサは、0.4 %の二酸化炭素ガスに対して2.80 μAから2.73 μAの電流変化を示すことがわかりました。これらはすべて0.8 Vのゲート電圧条件下で計測しています。これにより、従来グラフェントランジスタ型ガスセンサの駆動に10-100 V程度の電圧が必要だったのに対して、イオン液体によって1 V以下で駆動できることを確認しました。さらに、グラフェントランジスタにおける消費電力は100 nW以下でした。本研究の成果により、高感度ガスセンサの小型化・省電力化が見込まれています。
なお、本研究は独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「グリーンセンサ・ネットワークシステム技術開発プロジェクト」の一環として行われました。
参考:
MEMS2013 website: http://www.mems2013.org/
A. Inaba, K. Yoo, Y. Takei, K. Matsumoto and I. Shimoyama, “A GRAPHENE FET GAS SENSOR GATED BY IONIC LIQUID”
4.お問い合わせ先:
東京大学IRT研究機構 機構長
東京大学大学院情報理工学系研究科 教授 下山 勲
東京大学IRT研究機構 下山研究室 特任研究員 高橋 英俊
5.用語解説:
(*1) IRT研究機構:少子高齢化社会をロボット技術で支えることを目的とし、2008年4月1日に東大総長室直轄として誕生した研究組織。
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