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ツレない猫、答えないけど飼い主の声聞き分ける。科学的に証明研究成果

ツレない猫、答えないけど飼い主の声聞き分ける。科学的に証明

平成25年3月27日

東京大学大学院総合文化研究科

1.発表者:
齋藤 慈子(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻 講師)

2.発表のポイント
◆どのような成果を出したのか
人間の呼び声に対するネコの反応は、応答的な反応よりも定位反応(頭や耳を動かすだけで応答はしないが、注意を向けるのみの反応)が主であるが、見知らぬ他人の呼び声と飼い主の呼び声を区別していることを明らかにしました。

◆新規性(何が新しいのか)
家庭訪問による実験で、これまであまり注目されてこなかったネコの人間に対する社会的な認知能力を明らかにしました。

◆社会的意義/将来の展望
今後、家畜動物の社会的な認知能力の研究において、ネコが重要な比較対象となることが期待されます。

3.発表概要:
近年、イヌやウマなどの人間によって家畜化された動物が、人間に対して高度に社会的な認知能力を示すという研究が次々と報告されています。一方、イヌと並ぶ二大伴侶動物であるイエネコの社会的な認知能力は、「イヌは人につき、ネコは家につく」という言葉からもイメージされるように、これまであまり注目されてきませんでした。
東京大学大学院総合文化研究科の齋藤慈子講師らは、一般家庭で飼育されているネコを対象として、ネコが人間の呼び声をどのように認知しているかを調べました。その結果、呼び声に対するネコの反応は、飼い主に呼ばれた場合でも頭や耳を動かす定位反応が多く、鳴いたり尾を動かしたりする応答的な反応は少ないことがわかりました。その一方で、ネコは見知らぬ他人の呼び声と飼い主の呼び声を区別していることも明らかになりました。
本研究の結果は、古くから素朴に信じられてきた「ツレない猫」の姿を科学的に裏付け、その奥にある社会的な認知能力を明らかにするものです。今後、家畜化された動物の人間に対する社会的な認知能力の研究において、ネコが重要な比較対象となることが期待されます。

4.発表内容:
(1)研究の背景・先行研究における問題点
近年、イヌやウマが、人間に対して高度に社会的な認知能力を示すという研究が次々と報告されています。一方、イヌと並ぶ二大伴侶動物であるイエネコ(図1)の社会的な認知能力は、これまであまり注目されてきませんでした。およそ1万年前に、リビアヤマネコが人間とともに生活をするようになったのがイエネコの始まりとされていますが、イヌやウマなどの使役動物とは異なり、ネコは実用上の目的(ネズミ捕りなど)のための積極的な改良はされてこなかったと考えられています。このようにイヌやウマとは異なる家畜化の歴史を持つネコが、人間に対してどのような社会的な認知能力を発揮するのかを調べることは、家畜化と社会的な認知能力の関係性を明らかにする上で重要であると考えられます。

(2)研究内容
実験の方法
一般家庭で飼育されている合計20匹のイエネコを対象に、家庭訪問による実験を実施しました。実験は馴化脱馴化法(注1)で、飼い主がネコの名前を呼ぶ音声と、飼い主と同性でネコと面識のない4人がネコの名前を呼ぶ音声を、あらかじめ録音して実験に使用しました。飼い主のいない部屋でネコが十分に落ち着いた後、部屋の外に設置したスピーカーから、30秒間隔で他人1、他人2、他人3、飼い主、他人4の順で呼び声を再生しました。この際のネコの様子をビデオ撮影し、個々の呼び声に対するネコの反応のビデオクリップを作成して、分析に使用しました。ビデオクリップ中の呼び声には純音をかぶせて、ランダムな順に分析をすることで、分析にバイアスがかからないようにしました。

実験の結果
1. 呼び声に対してどのように反応するか?
ネコの反応を、(1)頭を動かす、(2)耳を動かす、(3)鳴く、(4)尾を動かす、(5)瞳孔が開く、(6)移動する、の6パターンに分類し、呼び声に対してどの反応が見られたかを記録しました。その結果、多くのネコが呼び声に対して頭や耳を動かす定位反応を示しましたが、鳴いたりしっぽを動かしたりする応答的な反応やその他の反応はあまり見られませんでした。飼い主に呼ばれた場合でも、定位反応を示す個体は増えましたが、応答的な反応を示す個体は増えませんでした(図2)。視界の外からの人間の呼び声に対して、ネコは応答的な反応では答えないといえます。

2. 飼い主の声と他人の声を区別できるか?
10人の評定者にすべてのビデオクリップを見てもらい、それぞれの呼び声に対するネコの反応の強さを、反応なし(0点)~強い反応(3点)の4段階で評価してもらいました。ネコごとに各呼び声に対する平均得点を求め、分析に使用しました。その結果、20匹のうち15匹で他人1よりも他人3で反応が弱まり、他人の呼び声に対して馴化したと考えられました。これらの馴化した15匹で、他人3への反応と飼い主への反応を比較したところ、飼い主の呼び声に対して統計的に有意に反応が回復し、脱馴化が認められました(図3a,b)。したがって、ネコは飼い主の声と他人の声を区別していると考えられます。

(3)社会的意義・今後の予定 など
「猫は三年の恩を三日で忘れる」などとも言われるように、一般にネコは「ツレない」動物であると考えられてきました。飼い主の呼び声に対しても応答的な反応では答えないという本研究の結果は、一般に信じられてきた「ツレない猫」の姿を科学的に裏付けるものです。その一方で、このような「ツレない猫」も、飼い主の声と他人の声を区別していることが明らかになりました。これらのことから、社会的な認知能力そのものと、それがどのように発揮されるかは区別して考える必要性があることが示唆されます。今後、家畜化された動物の社会的な認知能力の研究において、ネコが重要な比較対象となることが期待されます。

5.発表雑誌:
雑誌名:Animal Cognition (オンライン版3月26日公開)
論文タイトル:Vocal recognition of owners by domestic cats (Felis catus)
著者:Atsuko Saito and Kazutaka Shinozuka (齋藤慈子・篠塚一貴)
DOI番号:10.1007/s10071-013-0620-4
アブストラクトURL:http://link.springer.com/article/10.1007/s10071-013-0620-4

6.問い合わせ先:
齋藤 慈子(東京大学大学院総合文化研究科 広域科学専攻 講師)

7.用語解説:
(注1)馴化脱馴化法:言葉を話せない乳児や動物が、異なる刺激を区別できるかどうかを調べる方法の一つです。対象となる個体に同一、あるいは同一カテゴリーの刺激を繰り返し提示すると、刺激に対する注視などの反応が次第に減少します(馴化)。次に新奇な刺激を提示すると反応が回復しますが(脱馴化)、もし刺激の区別ができなければ反応は回復しません。

8.参考資料:
こちらをご覧ください。

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