ＲＵ１１・「優れた学術基盤」が支える「日本版NIH」構想について記者発表

RU11・「優れた学術基盤」が支える「日本版NIH」構想について

平成25年6月19日

　東京大学

このたび、我が国における最先端の研究・人材育成を担う大学であるRU11（北海道大学、東北大学、筑波大学、東京大学、早稲田大学、慶應義塾大学、東京工業大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学の11大学で構成）の総長・塾長・学長は、「優れた学術基盤」が支える「日本版NIH」構想についてRU11の立場から、以下のとおり声明をまとめましたので、ここに発表いたします。

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　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　学術研究懇談会（RU11）
北海道大学総長　　山口　佳三
東北大学総長　　　里見　進
筑波大学学長　　　永田　恭介
東京大学総長　　　濱田　純一
早稲田大学総長　　鎌田　薫
慶應義塾長　　　　清家　篤
東京工業大学学長　三島　良直
名古屋大学総長　　濵口　道成
京都大学総長　　　松本　紘
大阪大学総長　　　平野　俊夫
九州大学総長　　　有川　節夫

現在までに公表・報道されている「日本版NIH」構想によれば、健康・医療戦略の推進のため、各省に計上されている医療分野の研究開発関連予算を一元化し、実用化のための研究を基礎段階から管理するとされています。この構想が研究者の自由な発想に基づく多様な基礎研究の発展を促すと同時に、重点化が必須な臨床研究までの切れ目ない支援を府省庁横断的に措置できるのであれば、それは画期的なことであります。

一方、この構想が、万が一にも優れた医療分野の革新的技術の実用化の後押しに留まり、基礎研究の底上げを怠るならば、短期的な成果は期待できても、成長戦略の礎となる、継続し連鎖するイノベーションの実現は困難となります。日本の将来の新しい国際競争力のある産業分野創成は、いつに我が国研究者の自由な発想から生まれてくる学術シーズの創成にかかっています。そのためには、全学術分野を包含する「科学研究費助成事業（いわゆる科研費）」や「戦略的創造研究推進事業」に代表される基礎研究の支援の確保・充実が必要不可欠です。基礎研究の充実は、日本の研究基幹11大学で構成する私たちRU11がこれまでにも科学技術政策全般について繰り返し主張してきたところです。

我が国の成長戦略の実現のためには、健康寿命の延伸や産業競争力にもつながる健康・医療戦略の推進が不可欠ですが、その前提として、多様な領域に及ぶ基礎研究によって形成される「優れた学術基盤」の発展が根本にあることを忘れてはなりません。我が国はアジアでは唯一の新薬の創出国ですが、それは長期にわたる多様な基礎研究への投資を含めた「優れた学術基盤」形成の結果に他なりません。この「優れた学術基盤」形成のためには、研究者の自由な発想に基づく多様な研究活動による学術全体のたゆまぬ底上げが必要であり、これらを通じた大学における継続的な人材の育成も欠かせません。そして、iPS細胞の山中教授に代表されるように、こうして育った人材の中からしか、イノベーションの中核を担う存在は生まれません。科研費制度を含めたこの体系を研究分野の分断なくさらに発展させることが、我が国のあらゆる学術・産業の一層の振興につながるものと考えます。

しかしながら、国立大学は法人化後10年間で運営費交付金が大幅に削減され、私立大学の経常費補助金も当初計画に比して大きく低迷しているばかりでなく、国の公募型の大型外部資金で間接経費が廃止されるなど、大学の研究現場では研究に専念しにくい状況が急速に広がり、グローバルな競争に勝ち抜くことが困難な状況に直面しています。このような中でも、日本の学術界は懸命な努力によって、すでに大学病院を中心とした橋渡し研究の推進やARO（Academic Research Organization）機能を持つ臨床研究拠点の整備とそのネットワーク化を進めてまいりました。したがって、「日本版NIH」構想は、臨床への橋渡しや臨床研究の重点支援等を掲げておりますが、本構想の検討に当たってはこうしたこれまでの取り組みとの整合性を図る必要があります。

私たちRU11は、上記の趣旨を踏まえつつ、医療分野における日本の再生を図るために、8月末に設置が予定されている推進本部に、少なくとも医療分野を含む基礎・臨床研究におけるアカデミアの代表者が一定数参画することを求めます。さらに、その進捗状況が日本の科学技術政策の司令塔であり、安倍首相が機能強化を表明しておられる総合科学技術会議に適切に提供され、それを基に十分な議論が行われ、その意見が「日本版NIH」構想に反映されることを求めます。

（参考）RU11ウェブサイト：http://www.ru11.jp/