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記者会見「自律型海中ロボット「ツナサンド」がオホーツク海にてキチジの詳細な資源量の全自動調査に成功 ―のべ18時間で6,000枚の海底写真を撮影―」研究成果

記者会見
自律型海中ロボット「ツナサンド」がオホーツク海にてキチジの詳細な資源量の全自動調査に成功
―のべ18時間で6,000枚の海底写真を撮影―

平成25年6月19日

東京大学生産技術研究所
      九州工業大学
 水産総合研究センター

1. 発表日時
2013年6月19日(水)10:00~11:30(受付開始:9:30)

2. 発表場所
東京大学生産技術研究所 会議棟An棟3F大会議室
〒153-8505 目黒区駒場4-6-1 駒場リサーチキャンパス
http://www.iis.u-tokyo.ac.jp/access/access.html(参照)

3. 発表者
東京大学生産技術研究所附属海中工学国際研究センター浅田研究室
    浅田  昭(教授)
    永橋 賢司(特任研究員)
    西田 祐也(特任研究員)
九州工業大学社会ロボット具現化センター
    浦  環 (センター長、特任教授)
(独)水産総合研究センター北海道区水産研究所
    濱津 友紀(主任研究員)

4. 発表ポイント
  ①自律型海中ロボット「ツナサンド」をオホーツク海にある北見大和堆にて展開し、減少が危惧される高級魚キチジの資源量を評価するための海底写真を広域に撮影することに成功
  ②新規性
   ・着底トロールなどでしか調査されてこなかったキチジの海底での乱されない生態が初めて明らかになり、正確な資源量を計測する新たな技術が確立された。
   ・体長分布も計測され、精度の高い資源量が推定された。
   ・北見大和堆の中でも、場所によって200尾/haを越える密度で棲息していることが分かった。
  ③意義/将来展望
    自律型海中ロボットにより、広域にわたる海底のキチジの分布、生態が写真として明らかになり、資源量の高精度な推定を可能とした。キチジばかりでなく、深海域の底生生物の資源量推定に新たな道を拓いた。水産資源を有効に利用するための詳細なデータを取得できる手法が開発された。今後は、ズワイガニやキンメダイなどの資源量調査をおこなっていく予定である。

5. 発表概要
  150mから1,000mを越える深度の海底に棲息する高級魚キチジ(キンキ、メンメとも呼ばれる。注1)の分布調査研究においては、キチジを直接捕獲する着底トロールによる調査が一般的であるが、多大な作業時間や経費を要することやキチジの棲息環境を乱すことなど問題が多い。そのため、キチジの実際の棲息状況を視覚的に調査できる新しい手法の開発が求められていた。
東京大学生産技術研究所附属海中工学国際研究センター、九州工業大学社会ロボット具現化センターを中心とするロボット研究開発チームおよび水産総合研究センター北海道区水産研究所は、生産技術研究所が開発した自律型海中ロボット(AUV:Autonomous Underwater Vehicle)「ツナサンド(TUNA-SAND)」(注2)をオホーツク海の北見大和堆にて展開し、海底からの高度約2mから、キチジとその棲息環境を写し出す6000枚を越える海底の写真を撮影することに成功した。さらに、得られた写真の情報に基づいてキチジの体長分布を計測し、場所によってはキチジが200尾/haを越える密度で棲息していることを明らかにし、精度の高いキチジの資源量(注3)を推定することができた。
本研究は自律型海中ロボットを用いることによって可能となった。自律型海中ロボットを用いた調査は、キチジばかりでなく、水産資源を有効に利用するための詳細なデータを取得する手法として新たな道を拓くものである。今後は、ズワイガニやキンメダイなどの資源量調査を行う予定である。なお、本研究は、JSTのCREST「海洋生物多様性および生態系の保全・再生に資する基盤技術の創出」の助成を受けて実施された。

6. 発表内容
1)背景
  150mから1,000mを越える深度の海底に棲息する高級魚キチジは、資源量が減少していることが知られている。群れを形成せず、海底で殆ど動かないキチジの分布調査は、極めて困難なものであり、漁獲量から資源量の推定がおこなわれるのが一般的である。直接キチジを捕獲する着底トロールによる調査は、起伏の多い複雑な地形の海底では困難な作業であり、分布域全体をカバーしたトロール調査は、時間を要する作業で経費もかかり、海底の棲息環境をも乱すので、問題が多い。また、有人潜水艇を使って視覚的におこなうキチジの分布調査研究は過去におこなわれたことはあるが、有人潜水艇の利用が極めて困難で、現在ではおこなわれていない。
ケーブルのついていない自律型海中ロボットが深海底観測に使われ出した今日、有人潜水艇に代わって、自律型海中ロボットが一定の高度から海底面の撮影をおこない、コンピュータでモザイク処理して海底の広域を一枚の映像としてとらえて、キチジの詳細な分布を求め、資源量推定をおこなうことが期待されている。そこで、発表者の三者が協力して、北見大和堆において水産総合研究センター所属の北光丸を支援船とする自律型海中ロボット「ツナサンド」を展開して、写真観測調査をおこなった。

2)ミッション
  オホーツク海紋別沖合いの北見大和堆の、深度の異なる数カ所を選んで、「ツナサンド」を展開し、連続的に海底面を写真撮影する。「ツナサンド」は自律型であるので、全自動で運転できる。得られた写真を地形に合わせてつなぎ合わせ、ひと続きの写真とし、チジの分布、体長を計測し、資源量の推定、棲息環境の調査をおこなう。

3)結果の概要
(1) 水深150mから1050mの5地点に潜航し、延べ18時45分の観測をおこない、約6,000枚の海底写真を高度約2mから撮影し、全自動調査に成功した。
(2) 全長約9cmから約34cmのキチジ37尾が撮影された。
(3) 密度が最も高いところでは、約250尾/haが観測された。しかし、棲息がまったく確認されない潜航があった。
(4) 自律型海中ロボットの展開は、大型ウインチや大型漁具を必要とせず、また、海底の生物に影響を与えずに精度良く調査することができることが示された。

4)今後の展開
 今回の自律型海中ロボットを使ったキチジ調査の成功は、水産資源量を推定する新たな手法をもたらした。キチジのより広域の調査や、他の魚種の調査へと観測を広げることができ、底生水産資源調査の推定精度の向上および調査海域の拡大が期待される。
 
7. 問い合わせ先
  九州工業大学社会ロボット具現化センター
    浦  環(センター長、特任教授)

  東京大学生産技術研究所附属海中工学国際研究センター浅田研究室
    永橋賢司・西田祐也(特任研究員)

8. 用語解説
(注1)キチジ:カサゴ目フサカサゴ科で学名をSebastolobus macrochirという。
(注2)「ツナサンド(TUNA-SAND)」:東京大学生産技術研究所が中心になって開発した小型ホバリング型の自律型海中ロボット。全長1.1m×幅0.7m×高さ0.71m(アンテナ部を除く)、 空中重量約240kg、最大潜航深度1,500m、潜航時間約8時間、毎秒数十cmの速度で移動して海底の写真を撮影する。
(注3)資源量:ここでは1ha(10,000平米)当たりの尾数で表している。

9. 参考文献
1)北川他:三陸沖深海域におけるキチジの分布特性、海洋科学技術センター試験研究報告(1985):曳航式TV、しんかい2000
2)濱津他:トロール調査と潜水艇調査の比較によるキチジ漁獲効率の推定、JAMSTEC深海研究、第22号、(2003)
3)服部他:東北海域におけるキチジの資源量と再生産成功率の経年変化、日水誌、72(3)、374-381、(2006)

10. 記者会見当日配布資料:
・AUV「ツナサンド」の写真
・海底に棲息するキチジの写真
・調査地点

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