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人からイヌにうつるあくびには飼い主とイヌの絆が重要であることを証明研究成果

人からイヌにうつるあくびには飼い主とイヌの絆が重要であることを証明

平成25年8月8日

東京大学大学院総合文化研究科

1.発表者: 
テレサ ロメロ(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻 特任研究員)
今野 晃嗣(京都大学野生動物研究センター・日本学術振興会特別研究員PD)
長谷川 壽一(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻 教授)

2.発表のポイント: 
  ◆見知らぬ人のあくびよりも飼い主のあくびの方がイヌに伝染しやすいことを明らかにしました。
  ◆イヌの心拍を計測することにより、イヌにおける伝染性のあくびが不安やストレスではなく飼い主とイヌの絆や共感によって大きく影響されることを初めて明らかにしました。
  ◆人間社会で活躍する作業犬には共感能力が求められるため、イヌの伝染性のあくびにみられる犬種差や個体差を明らかにすることによって作業犬としての適性を判断できるようになることが期待されます。

3.発表概要:
  私たち人間は、見知らぬ人のあくびよりも親しい人のあくびの方がうつりやすいことが知られています。しかし、イヌでも同じような現象がみられるか、十分な検証がなされていませんでした。
  日本学術振興会外国人特別研究員(現:東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻特任研究員)のテレサ ロメロ研究員、同研究科博士課程・日本学術振興会特別研究員(現:京都大学野生動物研究センター・日本学術振興会特別研究員PD)の今野晃嗣研究員らの研究グループは、人がイヌに向かってあくびの動作を演じて見せるという実験を行った結果、見知らぬ人のあくびよりも飼い主のあくびの方がイヌに伝染しやすいことを明らかにしました。さらに、実験中のイヌの心拍を計測することにより、飼い主のあくびを見た場合と見知らぬ人のあくびを見た場合とでイヌの不安やストレス反応に差がないことを明らかにしました。
  この成果は、イヌとヒトの間でもあくびがうつることを証明しただけでなく、その現象が生じるためにはイヌと飼い主の感情的な結びつきが重要であることを示唆しています。今後、人からイヌへのあくびの伝染しやすさについて犬種差や個体差を明らかにすることで、人間社会で活躍する作業犬としての適性を判断できるようになることが期待されます。

4.発表内容: 
  私たち人間は、見知らぬ人のあくびよりも親しい人のあくびを見たときの方が、より伝染しやすいことが知られています。伝染性のあくびとは、他者のあくびを見たり聞いたりした後に、その観察者にもあくびが生じることをいいます。伝染性のあくびは他者の感情を理解し解釈する能力に関与すると考えられていることから、とくにヒトや動物の共感性(注)を研究する科学者たちの興味を集めてきました。これまでに、ヒト、チンパンジー、ボノボ、ヒヒを含む霊長類では、他者のあくびが伝染することがわかってきました。

  近年、あくびの伝染に関する研究がイヌを対象にして進められています。それは、現代のイヌは人間と暮らしを共にしており、ヒトとの異種間の共感能力を調べるためのモデルとして最適な種とみなされているからです。しかし、従来の実験結果は一致せず、イヌにおいて伝染性のあくびが生じるのか生じないのか、その能力は共感性に関与するのかそれとも単なるストレス反応にすぎないのかという点については、十分な結論を導き出すまでに至りませんでした。

  テレサ ロメロ研究員らの研究グループは、一般家庭で暮らすイヌ25匹とその飼い主を対象に実験を行い、伝染性のあくびがイヌにおいてもみられること、さらに、その行動が単なる不安やストレス反応ではなく(イヌは不安を感じたときにあくびをする傾向がある)、共感に関連した行動であることを明らかにしました。実験では、心拍計を装着したイヌに対し、飼い主と見知らぬ人がそれぞれあくびの動作を演じて見せ、イヌにどのような生理学的変化がみられるかという点についても調べました。その結果、人があくびの動作を見せることによって、イヌのあくびが誘発されることが改めて確認されました。さらに、見知らぬ人のあくびを見たときに比べて、飼い主のあくびを見たときに、より多くの伝染性のあくびが生じることが明らかになりました。これらの結果は、イヌとヒトの感情的な結びつきが伝染性のあくびの生起に重要な役割を果たしていることを示唆します。さらに、心拍計から得られたデータでは、飼い主のあくびを見ている場合と見知らぬ人のあくびを見ている場合とでは、イヌの心拍変動の数値に差がないことがわかりました。この結果はイヌの不安やストレスレベルがあくびの動作を見せている人が飼い主か見知らぬ人かによって変化しないことを示しており、伝染性のあくびがイヌの覚醒状態の差によって生じるというよりも、イヌとヒトの共感レベルの差によって大きく影響されることを示唆します。本研究では、実験中のイヌの心拍を計測し、飼い主からイヌにうつるあくびがイヌの不安やストレスから生じた可能性を排除した点が、従来の研究にはない新しい成果といえます。

  本研究で示唆されるように伝染性のあくびがイヌの共感能力に関与しているとすれば、他者の感情を適切に処理する能力が求められる作業犬としての適性を判断する際に、人からイヌにうつるあくびが役に立つ可能性があります。研究グループは今後、イヌの共感能力に犬種差や個体差があるのかどうかという問題に取り組んでいく予定です。

  著者のテレサ ロメロ研究員は「私たちの発見は、伝染性のあくびが情動的な要素によって調節されるという考えを支持し、共感の原型がイヌにも存在し得ることを示している」と述べています。

5.発表雑誌: 
雑誌名:PLOS ONE(オンライン版:8月8日)
論文タイトル:Familiarity bias and physiological responses in contagious yawning by dogs support link to empathy
著者:Teresa Romero, Akitsugu Konno, & Toshikazu Hasegawa
DOI番号:10.1371/journal.pone.0071365
アブストラクトURL:http://dx.plos.org/10.1371/journal.pone.0071365

6.問い合わせ先:
1)テレサ ロメロ
東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻 特任研究員

2)今野 晃嗣(日本語対応可)
京都大学野生動物研究センター

7.用語解説:
(注)共感性:
Empathy。共感。自己と他者との協力や協調、相互理解を成立させるために必要となる心的機能のこと。動物の共感性には、相手の感情を共有したり、相手の感情に応じた行動をとったり、相手の感情や立場を認知的に解釈したりするなど、さまざまなレベルがある。

8.添付資料
20130808_01
写真:あくびをするイヌ

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