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地球上部マントル内の拡散クリープ下でオリビン結晶は配列する研究成果

地球上部マントル内の拡散クリープ下でオリビン結晶は配列する

平成25年10月17日

東京大学地震研究所

1.発表者: 
平賀岳彦(東京大学地震研究所 准教授)

2.発表のポイント: 
◆地震の発生に伴って生じる地震波の伝搬速度はその方位によって異なる(地震波速度異方性)ことが知られており、今回その原因が、地球マントル内で流動する岩石の拡散クリープ(注1)によるものであることを示した。
◆この結果は「地震波速度異方性は転位クリープ(注2)により生じる」という数十年来の定説を覆す発見である。
◆今回発見されたメカニズムは、上部マントルよりさらに深い領域で観察される地震波速度異方性などの現象を説明できる可能性がある。

3.発表概要:
  地震の発生に伴う地震波は、地球内部の伝搬速度が方位によって異なること(地震波速度異方性)が知られている。波の伝わり速度が1結晶(鉱物1粒子)の中でも方向によって異なることから、多くの結晶粒からなる地球内部では、その結晶粒の向きがある方向に揃い、地震波速度異方性を生むと考えられている。
従来、この異方性は、岩石を構成する鉱物粒子内の転位という欠陥が長い時間をかけて動く現象(転位クリープ、注2)がさまざまな場所で発生し、結晶粒がランダムな方向に向くのではなく、地球内部でのゆっくりとした流れの向きに配列する結果生じると考えられてきた。上部マントル内の高い流動性を持つアセノスフィアで転位クリープが起きるためには、その主要鉱物であるオリビンの粒径が10mmより大きいことや(圧力を除いた)負荷される力が10MPa(メガパスカル)より高いことが必要と推定されている。しかし、マントル由来のオリビンを実際に観察するとその平均粒径は1mmであり、負荷される力も~0.数MPa程度と非常に小さいと推定され、矛盾があった。
東京大学地震研究所平賀研究室のグループは、上部マントルを模擬した岩石を合成し、この合成岩石をさまざまな温度や歪速度下で変形させて、微細構造を調べた。その結果、粒子が相対的にずれること(粒界すべり)が頻繁に起こる拡散クリープ下で岩石が変形すると、オリビン粒子の結晶軸が特定の方向に配列する(結晶選択配向)ことを発見した。これは、地震波速度異方性は拡散クリープにより生じることを示し、従来の「地震波速度異方性は転位クリープにより生じる」という定説を覆すもので、数十年来の常識が見直される発見である。また、オリビンの結晶軸の配向パターンや強度は温度条件やメルト(マグマの液体部分)の存在によって変化することも示した。これはオリビン粒子形が特定の結晶面の発現により支配され、その発現が条件によって変化すること、および粒界すべりがその結晶面で生じることで説明される。またオリビン粒子の配向パターンなどから予測された地震波速度異方性分布は、これまで強い異方性が観測されている上部マントル深さ130-210kmの領域と一致した。
岩石に見られるオリビン粒子以外の鉱物の結晶軸選択配向や上部マントルよりさらに深い領域における地震波速度異方性が、今回発見されたメカニズムにより説明できる可能性があり、今後更なる研究を行う。
4.発表内容: 
① 研究の背景・先行研究における問題点
これまで、地球内部に見出される地震波速度異方性は、転位クリープ下の岩石流動によって強い弾性異方性を持つ鉱物の結晶軸が配向することで説明されてきた。転位クリープでは、結晶内のある特定のすべり面(結晶面)を使って、ある特定の結晶軸方向にすべることで鉱物粒子が変形するので、変形の進行と共に結晶軸の配向が生じる。その結果、地球内部の地震波速度異方性を作ることができる。転位クリープでは歪速度は応力の3-5乗に比例することから、マントルはその流動において非ニュートン流体として振舞うとされてきた。転位クリープをアセノスフェアで生じさせるには、上部マントルの主要鉱物であるオリビンの粒径が10 mmより大きいこともしくは差応力が10 MPa(メガパスカル)より高いことが必要と推定されている。しかし、アセノスフェア内で予想される差応力は0.1MPa程度と非常に小さく、マントル起源の岩石で観察される平均粒径も1mm程度である。鉱物物理の知見に基づくと、アセノスフェア内で転位クリープを起こすことは困難であったが、地震波速度異方性の存在の前に、その矛盾は無視されてきた。

② 研究内容(具体的な手法など詳細)
我々は、ナノサイズの原料粉(宇部マテリアルズからの提供)から100 nmの粒径を持つ鉱物粉を合成し、それを焼結することで、平均粒径1μm程度の輝石やメルト相を一部含む高緻密フォルステライト多結晶体(フォルステライト:Feが入っていないオリビン)を合成した。この上部マントルを模擬した合成岩石を、高温炉が付設した変形試験機において様々な温度・歪速度下でクリープさせ、応力-歪速度の関係、フォルステライトの微細構造を調べた。その結果、すべての条件で、まず、歪速度と応力は線形関係にあること(つまり、歪速度は応力の1乗に比例すること)が分かった。つまり、転位クリープではなく、低応力下で出現する拡散クリープを起こしている(ニュートン流体として振舞う)。また、低温下では、すべり方向に対してフォルステライトのa軸(結晶軸)が集中、すべり面がc面(結晶面)であること、高温下ではすべり方向に対して強くa軸(結晶軸)が集中、すべり面がb面であることが分かった(図1)。一部が融けると(メルト存在下)、すべり方向に弱くc軸が集中し、すべり面がb面であると推定された。このように、拡散クリープ下でも、変形に伴ってオリビンの結晶軸の配向が生じること、温度条件やメルトの存在によって結晶軸の配向のパターンと配向の強さが変化することが判明した。結晶配向は、フォルステライト粒界における特定の結晶面の出現(オリビンの粒子形)と強く相関していることが分かった。変形下では、粒界において著しく粒子が相対的にすべっており(粒界すべり)、結晶面に平行な粒界で優先的にすべることによって粒子回転が生じ、その結果、結晶軸配向は生じると示唆された。配向パターンとその強さおよびその出現条件から予測した地震波速度異方性の深度分布(強い異方性は130-210kmに出現)を、太平洋下でのアセノスフェアで観測された地震波異方性の分布と比較したところ、非常に良い一致を示した(図2)。本研究結果は、数十年来の地震波異方性の成因として信じられてきた転位クリープとは異なるメカニズムを提案し、それがより矛盾のないメカニズムであることを示した。

③ 社会的意義・今後の予定 など
天然の岩石に見られるオリビン以外の鉱物の結晶選択配向や上部マントルよりさらに深い領域における地震波速度異方性が、今回発見されたメカニズムにより説明できる可能性も出てきた。今後、その検証が行われる予定である。

5.発表雑誌:
雑誌名:Nature 2013年10月17日号
論文タイトル:Olivine crystals align during diffusion creep of Earth’s upper mantle
著者:宮崎智詞、末善健太、平賀岳彦*
アブストラクトURL:http://www.nature.com/nature/journal/v502/n7471/abs/nature12570.html

6.問い合わせ先:
東京大学地震研究所 准教授 平賀岳彦

7.用語解説: 
注1 拡散クリープ
原子拡散によって生じる変形。論文タイトルで使われている拡散クリープは、厳密な意味では拡散律速型粒界すべりクリープである。粒界すべりクリープとは、粒界で粒子同士が互いにすべり、結果的に粒子のスイッチングが生じて変形することである。その速度を決定しているのが原子拡散のとき、拡散律速型粒界すべりクリープ呼ぶ。重要なのは、鉱物粒径が小さくなるほど変形が早くなり(=柔らかくなり)、また、加えた力と変形速度は比例関係にある。地球科学では、変形速度が加えた力のべき乗に比例する転位クリープと区別するために、拡散律速型粒界すべりクリープと拡散クリープを、拡散クリープと一括して呼ばれることが多い。

注2 転位クリープ
結晶内の転位と呼ばれる線欠陥(欠陥とは、結晶中の粒子の規則的な配列が崩れている部分のこと)が動くことで生じる変形。重要なのは、鉱物粒径が変化しても変形速度は同じ荷重下では変わらない(=固さが変わらない)。また、変形速度は加えた力のべき乗に比例する。転位がある特定の結晶面上を動くことで粒子回転が生まれ、その結果、転位クリープ後には、結晶の向きが揃うのも(結晶選択配向)特徴である。

注3 オリビン
別名をかんらん石と言い、鉱物の一種。オリビンの中には、宝石として用いられるものもあり、例えば、一般に馴染みのあるものに8月の誕生石として知られている緑色のペリドットがある。上部マントルの主要構成鉱物。

添付資料1
添付資料2

地震研究所ウェブサイトの研究紹介

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