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記者会見「宇宙の夜明けにある巨大天体ヒミコの姿がハッブル宇宙望遠鏡とアルマ電波望遠鏡の観測で明らかに」研究成果

記者会見
「宇宙の夜明けにある巨大天体ヒミコの姿が
ハッブル宇宙望遠鏡とアルマ電波望遠鏡の観測で明らかに」

平成25年11月22日

東京大学宇宙線研究所

1.会見日時: 2013年11月18日(月)  15:00 ~ 16:00

2.会見場所: 東京大学本郷キャンパス 山上会館 会議室203
東京都文京区本郷7-3-1

3.出席者:  大内 正己(東京大学宇宙線研究所 准教授)

4.発表のポイント
  ◆古代宇宙に存在する謎の巨大天体ヒミコが3つの銀河が衝突する三体合体の現場だったことをハッブル宇宙望遠鏡の観測によって明らかにしました。
  ◆一方で、ALMA電波望遠鏡の観測からは、重元素を起源とする電波シグナルが見つからなかったため、ヒミコが重元素汚染されてない形成中の原始的天体である可能性が出てきました。
  ◆今後は、ヒミコに含まれる重元素が本当に僅かなのか、さらなるALMA電波望遠鏡の詳細観測で明らかにしていく予定です。

5.発表概要: 
巨大天体「ヒミコ(注1)」は、ビックバンから8億年後にあたる古代の宇宙(現在の宇宙年齢の僅か6%しか経過していない時代)に存在する天体です。2009年に東京大学宇宙線研究所 大内正己 准教授(当時はカーネギー天文台・カーネギーフェロー)らによってすばる望遠鏡で発見されて、5万5千光年に広がった熱く輝くガス雲を持つヒミコの並外れた性質が明らかにされました。しかし、そのガス雲のエネルギー源については謎に包まれていました。
今回、大内 准教授らは、ハッブル宇宙望遠鏡とアルマ電波望遠鏡による最新の観測データを使って、「ヒミコ」の正体に迫りました。観測データからは複雑な構造が描き出され、この巨大天体では3つの銀河が衝突する珍しい現象(三体合体)が起きていることが分かりました。これによって引き起こされる激しい星形成活動が巨大なガス雲を作っていと考えられます。一方で、ヒミコからはビッグバンで生成されない元素(ここでは重元素と呼ぶ)が発する電波が検出されませんでした。これは、ヒミコを構成するガスは重元素を殆ど含まず、ビッグバン直後に作られた原始ガス(水素やヘリウムといった軽元素からなるガス)に近く、ヒミコが原始的な古代の天体である可能性が示唆されました。
今回の観測結果は、宇宙が星々の光で満たされ始めた「宇宙の夜明け」と呼ばれる時代において、銀河が作られる最初の過程を明らかにする上で重要な知見です。

6.発表内容: 
2009年、すばる望遠鏡により巨大天体「ヒミコ」が発見され、5万5千光年に広がった熱く輝くガス雲を持つヒミコの並外れた性質が明らかにされました。ヒミコの大きさは、ヒミコと同時代の典型的な銀河と比べて10倍もあり、現在の天の川銀河の半径に匹敵するものです。初期のスピッツァー宇宙望遠鏡の赤外線観測により、ヒミコが非常に重い天体で、その質量は太陽の数百億倍にもおよぶことが分かっています。同じ時代の銀河の質量と比べて桁違いの大きさです。これまで天文学者たちは、ヒミコは天体形成の中で特殊な時期にある天体で、例えば巨大ガス雲から銀河ができる時の姿や、二つの若い銀河が衝突している姿なのかもしれないと予想していました。特に天文学者の頭を悩ませていたのは、輝き続ける巨大ガス雲のエネルギー源が何であるかという謎でした。

ハッブル宇宙望遠鏡とアルマ電波望遠鏡は、それぞれ近赤外線と電波の観測において比類無い感度と解像度をもっています。今回はこれらの極めて優れた望遠鏡を使ってヒミコの謎に挑みました。日米の研究者からなる国際研究チームを率いた大内 正己 東京大学宇宙線研究所 准教授は述べます。「私たちは普通では行えないほどの超高感度な装置でヒミコの観測を行い、その深部の構造に迫りました。この観測により、今まで謎だったヒミコの全体像を明らかにすることに成功しました。しかし、同時に予期せぬ結果も出てきました。ハッブル宇宙望遠鏡のデータから、ヒミコの中に3つの銀河が隠されており、それらがもつ活発な星形成活動がヒミコの巨大ガス雲を輝かせるエネルギー源だと考えられます。ただ、アルマ電波望遠鏡のデータによれば、活発な星形成活動において通常見られるダストや炭素ガスが放つ電波シグナルがヒミコには見られませんでした。つまり、ヒミコは非常に激しい星形成活動を行っているにも関わらず、その際に出される炭素などの重元素の電波が見られなかったのです。これはなぜなのか分かりません。新たな謎です。」

図1にあるハッブル宇宙望遠鏡の画像には、2万光年を越えて一直線に並んだ3つの銀河が写っています。一つひとつの銀河は、ヒミコと同じ時代の典型的な銀河と同じくらいの明るさです。巨大な水素ガス雲がこれら3つの銀河を飲み込んでいます。ここに際立って明るい光源がないことから、ヒミコの活動性の原因が、超大質量ブラックホールではないことが分かりました。

チームメンバーでカリフォルニア工科大学のリチャード・エリス教授は加えます。「ハッブル宇宙望遠鏡の画像から、ヒミコの中では非常に稀な三体合体が起こっていることが分かりました。さらに、3つの銀河は異なる色をしているので、重力レンズ効果によりヒミコが見かけ上大きくなっている可能性は無いでしょう。興味深いのは、これらの銀河のうち一つが、極めて青い色(青紫色)をしており、重元素をほとんど含まない若い星の集まりであると考えられることです。これがアルマ電波望遠鏡の観測結果を説明する手がかりになるかもしれません。」

続けてチームメンバーでハーバード・スミソニアン天体物理学センターのマシュー・アシュビー博士は説明します。「私たちのハッブル宇宙望遠鏡の画像と最新のスピッツアー宇宙望遠鏡の赤外線データとを合わせて解析し、ヒミコでどのくらいの星が作られているかを推測することができました。これにより、ヒミコの中で、一年の間に太陽質量の約100倍におよぶガスが星に変わっていることが明らかになりました。おそらく、この激しい星形成活動がヒミコを覆う巨大で熱いガスを温め続けているのでしょう。」

しかし、驚くべきことにアルマ望遠鏡の観測データには炭素ガスさらには星形成活動により温められたダストなどの重元素が発する電波が全く見られませんでした。ずば抜けた感度をもつアルマ望遠鏡でも電波が見つからないほど暗いのは、非常に不思議なことです。

さらにチームメンバーの東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センター河野孝太郎教授が説明します。「ヒミコからは固体や気体の重元素が発する強い電波が出ていません。星形成活動があれば、超新星爆発が起きるため、ダストと呼ばれる炭素や酸素、ケイ素などからなる固体微粒子が作られます。そして、若い大質量星が出す紫外線で温められたダストによって、電波が放射されるのです。このような電波のシグナルはヒミコには見られませんでした。さらに驚くことに、炭素ガスが発する電波すらも見あたりませんでした。」

これらの事実から、ヒミコを構成するガスは、ビッグバン直後に作られた水素やヘリウムといった軽元素からなる原始ガスに近いのではないかと国際研究チームは推測しています。もしこの推測が本当であれば、画期的な発見で、ヒミコはまさに形成中の原始銀河の可能性があります。

最後にリチャード・エリス教授はこの状況を総括します。「天文学者は通常、天体からの光や電波などのシグナルを捉えた時に興奮します。しかし、今回の場合はこれとは逆なのです。天体の重元素が放つはずのシグナルがヒミコに見られなかった、という結果に私たちはゾクゾクと興奮しているのです!」

本研究は2013年12月1日発行の米国の天体物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル」に掲載されます。この研究は宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)の研究資金を通してアメリカ航空宇宙局(NASA)から資金援助を受けています。STScIはNASAの協定NAS 5-26555の下、天文学研究大学連合により運営されています。本研究に参加した研究者の一部は、文部科学省の世界トップレベル研究拠点事業(WPIプログラム)と日本学術振興会の科学研究費基盤A(23244025)からの援助を受けています。この研究はADS/JAO.ALMA#2011.0.00115.Sのアルマ望遠鏡のデータを使用しています。アルマ望遠鏡はチリ共和国と連携し、NRC(カナダ)、NSCとASIAA(台湾)の協力の下におけるESO(協力国の代表名)、NSF(アメリカ)、NINS(日本)の共同事業です。合同アルマ観測所はESOとAUI/NRAOとNAOJによって運営されています。この研究はスピッツアー宇宙望遠鏡の観測データを用いています。スピッツァー宇宙望遠鏡はNASAとの協定の下、カリフォルニア工科大学のジェット推進研究所(JPL)により運用されています。本研究には、カリフォルニア工科大学JPLを通じてNASAが提供した研究資金が用いられています。

7.発表雑誌: 
雑誌名:「Astrophysical Journal」2013年12月1日
論文タイトル:AN INTENSELY STAR-FORMING GALAXY AT Z~7 WITH LOW DUST AND METAL CONTENT REVEALED BY DEEP ALMA AND HST OBSERVATIONS
著者:Masami Ouchi*, Richard Ellis, Yoshiaki Ono, Kouichiro Nakanishi, Kotaro Kohno, Rieko Momose, Yasutaka Kurono, M. L. N. Ashby, Kazuhiro Shimasaku, S. P. Willner, G. G. Fazio, Yoichi Tamura, and Daisuke Iono

アブストラクトURL:http://adsabs.harvard.edu/abs/2013arXiv1306.3572O

8.問い合わせ先: 
東京大学宇宙線研究所准教授 大内 正己 

9.用語解説: 
(注1)ヒミコ:
2009年に大内 正己 准教授らの研究チームがすばる望遠鏡を用いて発見した古代宇宙にある巨大天体。ヒミコという名は弥生時代後期における倭国の女王卑弥呼に由来しています。

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