記者説明会「新しい膵臓がんワクチンの医師主導治験を開始、参加者を募集」記者発表

記者説明会「新しい膵臓がんワクチンの医師主導治験を開始、参加者を募集」 |
2013年12月2日
東京大学医科学研究所
開催日時:2013年12月2日(月) 14:00~(概ね1時間)
開催場所:東京大学医科学研究所附属病院 病院棟8階会議室(別紙地図参照)
出席者:
東京大学医科学研究所附属病院 病院長 今井 浩三
札幌医科大学医学部 准教授 鳥越 俊彦
東京大学医科学研究所附属病院 講師 釣田 義一郎
東京大学医科学研究所附属病院 特任講師 安井 寛 (司会)
開催趣旨:
東京大学医科学研究所附属病院の今井浩三病院長、札幌医科大学医学部病理学第一講座の佐藤昇志教授らの研究グループは、進行・再発膵臓がん患者を対象に、大学発のがんペプチドワクチンSVN-2Bの第2相医師主導治験(注1、注2)を開始しました。今回の治験で用いられるがんペプチドワクチンSVN-2B(ヒトがん抗原タンパク質を小さく断片化したものの一種)は、がん幹細胞にも発現するとされるヒトがん抗原サバイビンを標的としており、単独投与での抗腫瘍効果のみならず、腫瘍免疫を高めるインターフェロンがその抗腫瘍効果を増強することが、動物実験などで示されています。
本治験は、東京大学医科学研究所附属病院外科と札幌医科大学附属病院第一外科にて、進行・再発膵臓がん患者71名を予定しています。当治験では、がんペプチドワクチンSVN-2Bを投与するSVN-2B単独投与群28名、SVN-2Bにインターフェロンβを併用する併用投与群28名、プラセボ投与群15名のいずれかに分けられ、有効性と安全性とを比較して評価することが目的です。
今回の記者説明会は、先月札幌医科大学附属病院より発表された本治験の詳細について紹介し、これまでは困難とされた大学発創薬や国内ではあまり例のない医師主導治験の様子も解説します。医学的にも社会的にも大きな意義をもつ案件であるため、本件の記事掲載をぜひお願いいたしたく、ご案内します。
説明会の内容:
治験の概要
目的: がんペプチドワクチンSVN-2B単独投与およびインターフェロンβ併用投与の治療効果と安全性の確認
対象疾患 :進行・再発膵臓がん
投与方法 :がんペプチドワクチンSVN-2Bおよびインターフェロンβは皮下投与。治験薬が投与できなくなるまで、もしくは腫瘍が治療に反応せず進行するまで、インターフェロンβは1~2週間毎、がんペプチドワクチンSVN-2Bは2~4週間毎に繰り返し投与。
予定症例数 :71例
目的 :治療効果と安全性の評価
試験時期:2013年10月~2016年12月(登録期間:24カ月)
当治験の対象疾患である膵臓がんは、近年、その死亡者数が著しく増加しており、2010年には全国で約28,000人が膵臓がんで亡くなっております。ほとんどの膵臓がんは進行がん(Stage IV)で発見されるため、5年以上生存する患者は10%未満です。このように、膵臓がんは未だ早期発見が困難で、高度進行がんとして発見されることが多く、予後を有意に改善しうる治療法が限られているのが現状のため、新たな治療法の開発が待望されています。
今回の治験で用いられるがんペプチドワクチンSVN-2Bは、がん幹細胞(注3)にも発現するとされるヒトがん抗原サバイビンを標的としており、単独投与での抗腫瘍効果に加えて、インターフェロンβの併用は、抗腫瘍効果を増強することが、動物実験などで示されています。
がんペプチドワクチンSVN-2Bは、日本人に最も多いとされるヒト白血球抗原HLA-A24(注4)と結合親和性が高く、HLA-A24陽性症例に対して、抗原特異的な細胞傷害性T細胞を誘導できます。これまで大腸がん・ 膵臓がん・乳がん・口腔がん・膀胱がんを対象としたペプチドワクチン療法の 自主臨床研究と、進行消化器がんを対象とした医師主導治験(いずれも第1相試験:注5)が札幌医科大学附属病院によって実施され、安全性と臨床効果が確認されてきました。これまでの臨床試験の成果をもとに、有効性が示唆されている膵臓がんを対象として、当院と札幌医科大学附属病院とで、第2相臨床試験(注6)を医師主導治験で行います。
対象者は、進行・再発膵臓がん患者計71例を予定しています。当治験では、患者ががんペプチドワクチンSVN-2Bを投与するSVN-2B単独投与群28名、SVN-2Bにインターフェロンβを併用する併用投与群28名、プラセボ投与群15名のいずれかに分けられ、がんペプチドワクチンSVN-2Bの有効性と安全性を比較して評価することが目的です。
本治験は、治癒困難とされる進行・再発膵臓がんについてがんペプチドワクチンSVN-2Bの臨床開発における重要な段階となるとともに、これまでは困難とされた大学発創薬が医師主導治験を経て進められる国内ではあまり例のない試みです。医学的にも社会的にも大きな意義をもつ案件であるため、標記説明会への参加と本件の記事掲載をぜひお願いいたしたく、ご案内申し上げます。
医科学研究所附属病院は、今後も順次、さまざまながん腫を対象として、薬事承認を目指した「がんペプチドワクチン療法」(注7)の開発に取り組む予定です。
問い合わせ先:
東京大学医科学研究所附属病院 外科 講師 釣田義一郎(治験責任医師)
東京大学医科学研究所事務部管理課副課長 及川政光
用語解説:
注1) 治験
薬事法に基づき、医薬品および医療機器等の製造販売に関する承認申請のための資料収集を目的として行われ、医薬品医療機器総合機構(PMDA)への治験届提出を要する臨床試験のことです。
注2) 医師主導治験
医師主導治験は、医師自らが治験を企画・立案し、治験計画届を提出して行う治験です。従来の治験は製薬企業の主導で行われてきましたが、平成15年の薬事法改正により、可能となりました。改正以前は、医薬品としては有望であっても、開発費用に見合うだけの市場性やリスク面が整わない場合には、製薬企業などが治験に乗り出せない場合がありました。このため、大学などの研究機関が、医療現場でニーズが高い医薬品や医療機器を研究開発した場合でも、企業にとって採算が取れない製品の開発は進みづらい状況にありました。医師自らが治験を実施することを制度上可能とすることで、企業のみでは臨床開発が進みづらい医薬品や医療機器でも、薬事承認取得を目指すことが可能となりました。
注3)がん幹細胞
幹細胞は、自己複製能と多分化能を併せもち、発生における細胞系譜の幹となる細胞です。がんにおいても幹細胞の性質をもったごく少数のがん細胞を起源として、がんが発生するのではないかという仮説があり、これをがん幹細胞仮説といいます。近年、さまざまながんにおいて、がん幹細胞が発見されたとの報告が相次いでおり、がん幹細胞は、がん患者の予後を決定する経年後再発や治療抵抗性に深く関わるとされています。
注4)ヒト白血球抗原(Human Leukocyte Antigen : HLA)
HLAは、ペプチドを載せることができるお皿のような形をもった分子であり、この分子の形は人によって異なり、A24型、A02型といったような遺伝子型によって規定されます。日本人の6割がA24型のHLA分子を有していることから、国内でのがんワクチンの臨床試験では、HLA A24型に対するがん抗原ペプチドが使用されることが多いです。
注5)第1相試験
がんの臨床試験のうち、第1相試験は、被験薬の安全性を確認し、最大耐用量(患者が耐えられる最大の投与量)を決定する臨床試験です。最大耐用量の決定には、薬剤の量を徐々
に増やしていく「漸増法」などの方法があります。
注6)第2相試験
第1相試験で安全性が確認された投与量を用いて、比較的少数の患者を対象とし、主に被験薬の有効性および安全性を調べるための試験です。
注7)がん免疫と、がんペプチドワクチン療法
がん免疫は、ウイルスや細菌などに対する生体の防御反応として知られています。同時に、正常な細胞とは異なるがん細胞に対しても、免疫は異常な細胞を識別して死滅されることにより体を守る作用があると考えられております。一方、がん細胞には、正常細胞に比べて過剰に発現したり、がん細胞のみに発現する遺伝子や蛋白質があり、「がん抗原」と呼ばれています。免疫細胞は、がん抗原を目印としてがん細胞を識別し、がん細胞を死滅させます。
がんワクチン療法は、さまざまな種類のがん細胞に存在するがん抗原タンパク質を小さく断片化した分子(ペプチド)を合成して、投与することにより、樹状細胞という抗原提示細胞にがん抗原の情報を伝えます。ペプチドは、樹状細胞表面にあるヒト白血球抗原(Human Leukocyte Antigen : HLA)(注4)に提示され、その結果、がん細胞だけを認識して破壊するリンパ球(細胞傷害性T細胞(Cytotoxic T Lymphocyte:CTL))が誘導され、がん治療に利用されます。