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宇宙線ミュオンを用いた原子炉の調査研究成果

宇宙線ミュオンを用いた原子炉の調査

平成26年1月23日

大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
国立大学法人 筑波大学
国立大学法人 東京大学
公立大学法人 首都大学東京



本研究成果のポイント
○日本原子力発電(株)の東海第二発電所の原子炉(現在発電休止中)の建屋の外部
にミュオン計測器を設置し、原子炉建屋内部の格納容器、圧力容器、使用済み燃料
プール内に保管されている核燃料の場所と大きさの特定に成功した。
○本技術は、福島第一原子力発電所の原子炉の調査に活用できると期待される

【概 要】
大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構(機構長 鈴木厚人)、国立大学法人筑波大学(学長 永田恭介)、国立大学法人東京大学(総長 濱田純一)、公立大学法人首都大学東京(学長 原島文雄)に所属する研究者らの調査グループは、日本原子力発電(株)の東海第二発電所の原子炉において、原子炉建屋の外部にミュオン検出装置を設置し、原子炉建屋内の格納容器、圧力容器、使用済み燃料プール内に保存されている核燃料の存在を特定し、その概略の形状を特定することに成功しました。
この研究成果は、平成26年1月23日に開催される「先端加速器科学技術推進協議会(AAA)第35回技術部会」で発表する予定です。(http://aaa-sentan.org/osirase/oshirase_140123.html)

【背 景】
福島第一原子力発電所の原子炉は2011年3月の東日本大震災により被害を受け、その復旧あるいは事後処理が緊急の課題です。そのためには、破損した原子炉の内部調査が不可欠ですが、放射線量が高い環境下で内部に立ち入る調査は困難を伴い、原子炉建屋の外部から建屋内の状況を調査する技術の開発が急務です。
地球の外部から大量に降り注いでいる宇宙線ミュオンは、高い物質透過能力があることが知られており、X線写真で人体などの内部状態を外部から調べるように、ミュオンを使って大型構造物の内部を調査するという先駆的な研究が試みられてきました。本調査グループでは、この技術を利用し、ミュオンを使って原子炉建屋の外部から原子炉の内部を調査する可能性を検討してきました。

今回、その具体的な可能性を調べるために、日本原子力発電(株)の協力により、東海第二発電所の原子炉を使った実証試験を行いました(図1)。

東二外観_11J7900.jpg
図1 日本原子力発電(株)東海第二発電所
(写真提供:日本原子力発電(株))

【研究内容と成果】 
ミュオンの計測は、標準的な計測装置であるプラスティック・シンチレーションカウンター・ホドスコープ※1を用いて行いました。原子炉を三方向から観測して、内部の構造を3次元的に再構成し、核燃料の存在とその位置を特定するため、簡易コンテナーに組み込んだこの計測装置(図2)を、原子炉建屋の外部60mの地点2か所(計測装置-1-1および1-2)及び30mの地点1か所(計測装置-2)に設置しました(図3)。

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図2 簡易コンテナーに組み込んだ計測装置

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図3 原子炉建屋とミュオン計測装置配置図

計測は2012年2月から2013年12月まで行われました。核燃料は、①核燃料を保管するコンクリートでできた構造物や格納容器や水などと較べて高い原子番号と比重を持ち、その実効比重も3ぐらいと比較的大きく、ミュオンの減衰(物体によって吸収あるいは散乱される減少)量が大きくなること、②ブロック状に固まって存在することなどから、ミュオンの減衰が特定の場所で観測されるといった利点を考慮してデータ解析を行いました。
その結果、それぞれの観測地点で、原子炉建屋内部について、図4に示すようなイメージが得られることがわかりました。
さらに、3つの地点で観測したデータを用い、位置と大きさの特定された使用済み燃料プールの場所と、核燃料、および原子炉格納容器の外形形状を18度ごとの異なった視点で再構成した結果、図5に示す通り、核燃料と考えられる重い物質、使用済み燃料プール及び格納容器に対応するイメージを得ることに成功しました。

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図4 計測装置-1-1地点で観測された原子炉建屋内部のイメージ図。黒い部分の色が濃いほどミュオンの減衰(物体によって吸収あるいは散乱される減少)が大きいことを示す。青緑の部分はミュオンの減衰が特に大きい場所を示す。

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図5 3つの地点での観測結果を再構成した核燃料と想定される重い物質、使用済み燃料プール、及び格納容器。位置と大きさの特定された使用済み燃料プール(水色)の場所と、核燃料(濃い緑色)、および原子炉格納容器の外形形状(ねずみ色)を18度ごとの異なった視点で再構成した。

【本研究の意義、今後への期待】
本研究では、発電用原子炉を対象にした宇宙線ミュオンを使って、原子炉の圧力容器、格納容器、使用済み燃料プール内に保存されている核燃料の存在を明瞭に可視化することに世界で初めて成功しました。今回の経験を踏まえて適切な設計・計画を行うことにより、福島第一原子力発電所などのように近づくことの難しい構造物の調査に非常に有効な手段を提供できるものと期待されます。

【お問い合せ先】
<研究内容に関すること>
大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
先端加速器推進部
研究員 髙﨑 史彦(たかさき ふみひこ)

国立大学法人 筑波大学
数理物質系
教授 金 信弘(きむ しんほん)

国立大学法人 東京大学
素粒子物理国際研究センター
准教授 山下 了(やました さとる)

公立大学法人 首都大学東京大学院
理工学研究科物理学専攻 高エネルギー実験研究室
准教授 角野 秀一(かくの ひでかず)

<報道担当>
大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
広報室 報道グループリーダー 岡田 小枝子(おかだ さえこ)

国立大学法人 筑波大学
広報室

【用語解説】
※1 プラスティック・シンチレーションカウンター・ホドスコープ
  幾何学的に同一形状(多くは今回の検出器のように棒状)の検出器を並べて平面を構成するプラスチック製飛跡検出器。

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