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大腸がん細胞が腫瘍をつくる仕組みを解明研究成果

大腸がん細胞が腫瘍をつくる仕組みを解明

平成26年1月23日

東京大学分子細胞生物学研究所



1.発表者: 秋山 徹(東京大学分子細胞生物学研究所 教授)
        川崎善博(東京大学分子細胞生物学研究所 講師)

2.発表のポイント
- 幹細胞の目印であるタンパク質(Lgr5)は大腸がんの細胞が腫瘍をつくるために重要な役割を果たしていることを明らかにしました。
- 大腸がんの細胞がLgr5を多量につくる仕組みを明らかにしました。
- 本成果は、Lgr5およびLgr5を多量につくる仕組みを標的とした薬剤の開発や大腸がんの治療に貢献すると期待されます。

3.発表概要: 
腫瘍を形成しているがん細胞は一様でなく、一部の「がん幹細胞」と呼ばれる細胞のみが強い造腫瘍性をもつと考えられるようになってきました。がん幹細胞は自己を複製すると同時に、造腫瘍性の低下したがん細胞に異分化して増殖すると考えられています。化学療法や放射線治療によって一時的にがんが退縮しても再発するのは、大部分の造腫瘍能の低下したがん細胞が死滅しても一部のがん幹細胞が生き残っているからである可能性が示唆されます。したがって、がん幹細胞が腫瘍をつくる仕組みを明らかにすることは現在のがん研究の最も重要な課題の一つです。

今回、東京大学分子細胞生物学研究所の秋山徹教授、川崎善博講師らは幹細胞の目印(マーカー)である7回膜貫通型タンパク質(注1)Lgr5が、1)ほとんどのヒト大腸がんで多量に発現していること、2)大腸がんの細胞が腫瘍をつくるために極めて重要な役割を果たしていることを見出しました。さらに、大腸がんの細胞では転写因子(注2)の一種GATA6が大量に発現しており、直接Lgr5の転写を活性化していることを明らかにしました。そして、大腸がんにおけるGATA6の大量発現は小さなRNAの一種miR-363の発現が低下していることに起因していました(図1参照)。

これらの結果は、細胞内におけるmiR-363、GATA6、Lgr5の3分子による情報伝達のしくみががんの分子標的薬を創製する上で重要な標的となることを示唆しています。本研究の成果により、今後、このしくみを標的とした薬剤が開発され、大腸がんの治療に貢献することが期待されます。

4.発表内容: 
最近の再生医学や幹細胞研究の飛躍的な進歩によって、腸管では腸管幹細胞が自己複製すると同時に分化して腸管を形成する機構が解き明かされてきています。このような研究で重要な役割を果たしているのは、幹細胞に多く発現し、幹細胞を特定するための目印(幹細胞マーカー)となるいくつかの分子です。7回膜貫通型タンパク質Lgr5も腸管幹細胞マーカーの一種で、様々な研究に使われています。また、Lgr5は単に幹細胞のマーカーであるだけでなく、腸管幹細胞の機能に重要な役割を果たしていることが示されています。

一方でがん研究にも幹細胞という概念が導入され、腫瘍を形成しているがん細胞は一様でなく、一部のがん幹細胞と呼ばれる細胞のみが強い造腫瘍性をもつこと、さらに、がん幹細胞は、自己複製すると同時に、造腫瘍性の低下したがん細胞に異分化して増殖すると考えられています。化学療法や放射線治療によって一時的にがんが退縮しても再発してくるのは、大部分の造腫瘍能の低下したがん細胞が死滅しても一部のがん幹細胞が生き残っている可能性が示唆されます。したがって、がん細胞における幹細胞性の重要性を明らかにすることは現在のがん研究の最も重要な課題の一つです。

今回、東京大学分子細胞生物学研究所の秋山教授、川崎講師らは幹細胞マーカーLgr5が、1)ほとんどのヒト大腸がんで多量に発現していること、2)大腸がんが腫瘍をつくるために極めて重要な役割を果たしていることを見出しました。例えば、特定の遺伝子の発現を抑えることができる短いRNA配列(siRNA)を用いて大腸がん細胞のLgr5の発現を抑制すると、胸腺を欠くため免疫機能が働かないマウス(ヌードマウス)で腫瘍をつくる能力が顕著に低下することが明らかになりました。一般に、腫瘍をつくる能力が低下したがん細胞は、シャーレの中での増殖能が低下したり、細胞死を起こしたりすることがよく知られていますが、Lgr5の発現が低下した大腸がんの細胞はこのような性質を示しませんでした。したがって、Lgr5の幹細胞性にかかわる機能が造腫瘍性に重要である可能性があると示唆されました。

では、なぜLgr5は大腸がん細胞で多量に発現しているのでしょうか?今回研究グループは、大腸がん細胞では転写因子の一種GATA6が大量に発現しており、直接Lgr5の転写を活性化していることを見出しました。また、その後の解析によれば、大腸がんの細胞では小さなRNAの一種miR-363の発現が低下していることがわかり、大腸がんにおけるGATA6とLgr5の大量発現はmiR-363の発現の低下によるものと示唆されました。miR-363はGATA6の発現を抑制する働きがありますが、発現が低下しているためにGATA6の発現が増加しているというしくみです(図1参照)。

これらの結果は、細胞内におけるmiR-363、GATA6、Lgr5の3分子による情報伝達のしくみががんの分子標的薬を創製する上で重要な標的となることを示唆しています。本研究の成果により、今後、このしくみを標的とした薬剤が開発され、大腸がんの治療に貢献することが期待されます。

5.発表雑誌:
雑誌名:「Nature Communications」(オンライン版:1月23日)
論文タイトル:The miR-363-GATA6-Lgr5 pathway is critical for colorectal
著者:(Shinnosuke Tsuji†, Yoshihiro Kawasaki†, Shiori Furukawa, Kenzui Taniue, Tomoatsu Hayashi, Masumi Okuno, Masaya Hiyoshi, Joji Kitayama, Tetsu Akiyama* (†Equal contribution. *Corresponding author)
DOI番号:10.1038/ncomms4150

6.問い合わせ先: 東京大学分子細胞生物学研究所 分子情報研究分野 教授

7.用語解説: 
(注1)7回膜貫通型タンパク質
  細胞膜を7回貫通する特徴的な構造をもつタンパク質で、細胞外の因子を受け取り、細胞内に伝える役割をもつ。

(注2)転写因子
  DNAの特定の塩基配列に結合して、遺伝子の発現を調節するタンパク質の総称。

 

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