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記者会見「東京大学大学院情報理工学系研究科附属ソーシャルICT研究センターが次世代ヘルスケアサービスの運用開始 ―ヘルスケアにおけるビッグデータの個人分散管理によるB2Cサービスの向上―」研究成果

記者会見
「東京大学大学院情報理工学系研究科附属ソーシャルICT研究センターが
次世代ヘルスケアサービスの運用開始
―ヘルスケアにおけるビッグデータの個人分散管理によるB2Cサービスの向上―」

平成26年7月10日

東京大学大学院情報理工学系研究科

 

1.会見日時: 2014年7月10日(木)14:00~15:00


2.会見場所: 東京大学 工学部2号館3階 電気系会議室3


3.出席者:
橋田 浩一(東京大学大学院情報理工学系研究科附属ソーシャルICT研究センター 教授)


4.発表のポイント
◆個人データを個人ごとに分散管理しつつ共有する技術を利用した介護記録アプリケーションを開発し、新しいヘルスケアサービスの運用を開始しました。
◆個人データを事業者が集中管理する従来の方法に比べて、個人ごとの分散管理は、圧倒的に低コストかつはるかに安全で便利です。
◆進行中の医療制度改革において事業者間のデータ共有が必須になるので、個人ごとの分散管理に基づくデータ共有を普及させ、ヘルスケア等のB2Cサービス全体の価値を大幅に高めます。


5.発表概要:
個人消費者を対象としたサービスを提供する企業(B2Cサービス産業)においては、これまでは、個人のデータを消費者本人が管理するのではなく、事業者が多数の個人消費者のデータを集めて管理していました。この方式には、情報漏洩の際のリスクが大きいことや効率的な情報共有が困難であることなどの問題があり、ヘルスケア等のB2Cサービス産業の価値向上を阻害しています。
東京大学大学院情報理工学系研究科の橋田浩一教授は、この問題を解決するため、個人ごとにデータを分散管理する仕組みであるPLR(個人生活録; personal life repository)(注1)を提唱してきました。今回、PLRの仕組みを利用した介護記録アプリケーション(アプリ)を、恵信グループの有料老人ホームであるヴィレッタ甲府(山梨県)の協力を得て開発しました。このアプリはヴィレッタ甲府で試験運用中です。
PLRは、個人のデータを本人が保管し家族や友人や事業者と安全に共有して活用するためのスマートフォン用のアプリです。本人の同意に基づく個人データの活用を容易にすることにより、個人データに関する法律や規程を遵守しつつ個人データの流通を拡大します。上記の介護記録アプリの試験運用においては介護記録のデータをヴィレッタ甲府が管理していますが、今後その管理を被介護者の家族に移管していきます。
PLRは、2025年までの予定で進行中の医療制度改革(注2)などに伴って普及し、B2Cサービスの価値を高めるような個人データの流れを活性化することで、サービス産業全体を活性化するものと期待されます。


6.発表内容:
国立大学法人東京大学大学院情報理工学系研究科附属ソーシャルICT研究センター(センター長:國吉 康夫、以下、SICT)の橋田 浩一教授は、個人ごとにデータを分散管理する仕組みである「PLR(個人生活録; personal life repository)」を利用した介護記録アプリケーション(アプリ)を開発いたしました。


SICTの橋田教授が提唱するPLRは、個人が本人のデータを暗号化してGoogle DriveやDropbox等のパブリッククラウドに格納し、それを家族や友人や事業者と自由に共有して活用できるようにする仕組みです。PLRは、橋田教授の技術指導の下で、アセンブローグ株式会社がすでにAndroidアプリとして実装しており、同社がPLRの仕組みを利用したヘルスケアやエネルギー管理などの事業化を計画中です。


このような個人ごとのデータの分散管理は、多数の個人のデータを事業者が集中管理する従来の仕組みと比べて、個人にとっても事業者にとっても、はるかに安価かつ圧倒的に安全で便利です。たとえば1,000万人分のデータを集中管理していたためにそれが一挙に漏洩したというような事件が頻発していますが、分散管理だと一挙に漏洩する(暗号が解かれる)のは1人分のデータに過ぎないため、約1,000万倍安全です。また、これまでは病院がデータを管理していたため、A病院での医療記録をB病院に開示して安全で効率的な治療を受けることは困難でしたが、患者個人がデータを管理していればそれは可能となります。このような個人データの分散管理により、さまざまなB2Cサービスが活性化すると期待されます。


2025年までの予定で進行中の医療制度改革により、病院や診療所や介護施設等のヘルスケア事業者は、明確な役割分担の下で患者や被介護者のデータを共有して相互連携することが必須になります。したがって、PLRのような個人データの分散管理がこの改革を通じて全国に普及するものと期待されます。


橋田教授がPLRの仕組みを利用して開発した介護記録用のAndroidアプリKWeN(Keishin Wellness Network)は現在社会福祉法人恵信福祉会(理事長:古屋 千秋)に属する有料老人ホームであるヴィレッタ甲府でタブレット端末により試験運用され、文書作成等に係る職員の負担の軽減や、職員の間での入居者の情報の効率的な共有に役立っています。また、KWeNにより入居者のデータをその家族がPLRで管理すれば、入居者の日々の生活の様子や健康度の中長期的な変化が家族にも把握できます。さらに、医療データ等も本人や家族がPLRで管理することにより、多くのヘルスケア事業者が、医療記録や介護記録を個人のPLR経由で非常に簡単・安全・安価に共有して連携できます。


橋田教授は、2014年夏以降に、ヴィレッタ甲府以外の介護施設にもKWeNを順次展開しながら、入居者の家族に対して人居者の情報を開示する新しいサービスを提供する予定です。


個人データの分散管理を普及させるきっかけは、」電力小売りの自由化など、医療制度改革以外にもあります。橋田教授は、その普及に伴うイノベーションの環境を整備するため、「集めないビッグデータ」コンソーシアムを2014年度の前半に設立する予定です。


7.問い合わせ先:
東京大学大学院情報理工学系研究科
附属ソーシャルICT研究センター
教授 橋田 浩一


8.用語解説:
(注1)PLR: 橋田教授が提唱する分散PDSの一種。PDS(personal data store)とは、個人が本人のデータを蓄積・管理し他者と安全に共有するための仕組みである。PDSのうち特定の事業者が多数の個人のデータを集中管理する(当該事業者が各個人の同意を経ずにデータを活用できる)ものが集中PDSで、個人データを個人ごとに分散管理する(個人データの利用に際して本人の同意が必須である)ものが分散PDSである。PLRは、利用者個人のデータを暗号化してGoogle DriveやDropboxなどのクラウドストレージに格納するが、Google社やDropbox社には復号のための鍵を開示しないので、個人のデータを利用するには本人の同意が必須である。PLRはその本人同意を簡単にする仕組みでもある。
(注2)医療制度改革: いわゆる団塊の世代がすべて後期高齢者になる2025年を目標として段階的に進められている医療サービス提供体制の改革。これにより、異種の医療機関や介護・看護事業者の間の連携を強化して体系的・継続的なヘルスケアを提供することが必須になるが、それには関係者の間でのデータの共有が必要である。在宅医療においても、多くの患者について24時間365日の対応が求められるが、医師が1人しかいないほとんどの診療ではその対応が不可能なため、複数の診療所がグループを組んで患者のデータを共有しつつ連携せねばならない。集中管理に基づく医療データ共有の仕組みは従来から存在するが、個人分散管理に基づくデータ共有の方がはるかに安くて安全で便利であり、集中管理型データ共有によってたとえば病院が診療所を囲い込んだりするようなことが不可能である。したがって、この医療制度改革に伴ってPLRによるヘルスケアデータの個人分散管理が普及するだろう。


10.参考ウェブサイト: http://wirelesswire.jp/k_hasida/

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