パネル調査から見る働き方と社会活動研究成果

パネル調査から見る働き方と社会活動 |
平成27年2月3日
東京大学社会科学研究所
1.発表者:石田浩(東京大学社会科学研究所 教授)
有田伸(東京大学社会科学研究所 教授)
藤原翔(東京大学社会科学研究所 准教授)
朝井友紀子(東京大学社会科学研究所 助教)
2.発表のポイント:
・男性の16.8%、女性の13.5%が土曜・日曜ともに月3日以上働いている。販売従事者、サービス業従事者などで土日とも月3日以上働く比率が高い。
・土日に働いていることは、仕事への満足度には影響しないものの、生活全般の満足度に影響する。特に子どものいる女性の生活満足度を低下させることがわかった。
・東日本大震災後に、ボランティア活動をはじめた人が増加し、これらの4割がその後も活動を継続している。
3.発表概要:
東京大学社会科学研究所の石田浩教授らの研究グループは、2007年から毎年実施している「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」の2014年調査結果をもとに、土日の働き方と生活満足度、ならびにボランティア活動と震災という2つのテーマを分析した。知見は次の通りである。
① 男性の16.8%、女性の13.5%が土曜・日曜ともに月3日以上働いている。職業別にみると、販売従事者、サービス業従事者、農業従事者で土日とも月3日以上働く比率が高い。
② 土日に働いていることは、仕事への満足度には影響しないものの、生活全般の満足度に影響していた。特に子どものいる女性では、土日に働いている人とそうでない人の間に生活満足度の違いがみられた。
③ 東日本大震災後の2012年1月調査では、2010年以前調査と比較して、ボランティア活動をはじめた人が増加した。これらの4割はその後もボランティア活動を継続している。
2000年代後半から現在までの個人の行動や意識の変化を検証している研究は少ない。また、同一人に繰返し尋ね続ける「パネル調査」という手法を採用している点で本調査結果の信頼性は高いといえる。急激な少子化・高齢化や経済変動が人々の生活に与える影響について関心が高まる中で、実証研究に基づく本研究の知見は、議論を深める素材を提供しうるものである。
なお、本調査に関連する研究成果報告会を2月27日(金)13時半~ 本郷キャンパスにおいて開催する【取材を希望される報道関係者の方は、その旨事前にご連絡ください】。
4.発表内容:
東京大学社会科学研究所では、2007年より「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」(Japanese Life Course Panel Survey-JLPS)を毎年実施している。本調査は、急激な少子化・高齢化や経済変動が人びとの生活に与える影響を解明するため、日本に生活する若年・壮年層の働き方、結婚・出産といった家族形成、ライフスタイルや意識・態度などがどのように変化しているのかを探索することを目的としている。本調査は、同一人に繰り返し尋ね続ける「パネル調査」という手法を用いている点に特色があり、同じ個人を追跡することにより、個人の行動や意識の変化を跡付けることができる。
今般、2014年調査(2014年1~3月実施:回答者3680名)に基づき、土日の働き方と生活満足度、ならびにボランティア活動と震災という2つのテーマについて分析した結果を公表する。
① 土日に働いている人はどの程度いるのか
土曜日と日曜日ともに月に3日以上働いているものは、男性で16.8%、女性13.5%に上る。産業と土日の出勤日数との関連をみると、農業、運輸業、小売業、飲食業、不動産業、その他サービス業では土日とも3日以上勤務の割合が大きい。職業と土日の出勤日数の関連をみると、土日とも3日以上勤務の割合が大きくなっているのは、販売従事者、サービス業従事者、農業従事者である。
② 土日に働く人とその満足度
土日出勤と仕事への満足度との関連を見てみると、土日出勤は仕事に対する不満を高めるものではないことがわかった。一方、生活満足度をみてみると、女性で、土日とも3日以上働いていると、「どちらかといえば不満である」「どちらともいえない」と答える割合が高くなり、「満足している」「どちらかといえば満足している」と答える割合が低くなる。さまざまな要因の影響を考慮しても、土日の出勤日数によって女性の生活満足度が異なっており、土日にあまり働いていない女性と比較して、土日に働いている女性の生活満足度は低くなる。
③ なぜ土日の出勤日数が多い女性の生活満足度は低いのか
土日の出勤日数が多いと、どのような女性の生活満足度が低くなるのかを分析した結果、子どもがいる女性において、土日とも月に3日以上働いている場合に生活満足度が低くなることが示された。土日に働く人たちをサポートする施設が十分でない、あるいはそのような施設を利用できないために、男性よりも子どもの面倒をみなくてはならない傾向にある女性の生活満足度が低くなっている可能性がある。土日に働かなければならない人たちを支援する仕組みを考えることも、ワーク・ライフ・バランスを実現する上で必要であることが示された。また、結婚していなくても交際相手がいる女性の場合には、土日とも月に3日以上働いていると生活満足度が低くなる可能性が示唆された。
④ ボランティア活動と震災
東日本大震災後の2012年1月は、2010年以前と比較して、「この1年にボランティア活動をした」と回答する人が増えた。ボランティアの頻度をみてみると、週に1回以上や月に1回程度のボランティア活動をする人は増えていないが、年に1回か数回程度のボランティア活動は2010年1月に11.1%であったのに対し、2012年1月には16.5%に増えていることがわかった。
⑤ ボランティア活動をする人は増えたのか?その後も継続するのか?
震災後にボランティアをはじめた人がどの程度増えたのかを検証した結果、2010年から2012年にかけて、「ボランティアをはじめた」人が11.5%と、それ以外の年(おおむね7%)に比べて多いことがわかった。また、2012年にボランティアをはじめた人の4割は2014年も継続していることがわかった。一方、震災後にボランティアをはじめた人々の6割は2014年には活動していなかった。ボランティア活動の継続を容易とする体制の整備が必要であることが示唆された。
図などを含むより詳しい情報は以下のサイトで公開する。
http://ssjda.iss.u-tokyo.ac.jp/panel/pr/
5.発表雑誌等: 本プレスリリースの発表内容に関連した研究成果報告会を次ページの通り開催します。
詳細は、http://ssjda.iss.u-tokyo.ac.jp/panel/sympo/ をご覧ください。
日時:2015年2月27日(金) 13:30~17:20
場所:東京大学情報学環 福武ホール 福武ラーニングシアター
□第一部 研究報告□ 13時30分~14時40分
「格差の連鎖と蓄積についてI」
コーディネーター 藤原翔(東京大学社会科学研究所・准教授)
「JLPSと格差の連鎖・蓄積研究」
石田浩(東京大学社会科学研究所・教授)
「若年未婚者の貧困―要因・持続性と不利の連鎖」
林雄亮(武蔵大学社会学部社会学科・准教授)
「成人期前期男性における所得水準と変化が
主観的健康の水準と変化に及ぼす影響について」
戸ヶ里泰典(放送大学教養学部・准教授)
「社研パネルに見る学校から職業への移行」
大島真夫(東京理科大学理工学部教養・講師)
□第二部 研究報告□ 14時50分~15時40分
「格差の連鎖と蓄積についてII」
コーディネーター 吉田崇(静岡大学人文社会科学部・准教授)
「若年女性の正規就業継続」
卯月由佳(国立教育政策研究所・主任研究官)
「時間外労働に対する割増賃金率引き上げの効果」
朝井友紀子(東京大学社会科学研究所・助教)
「家族形成と住宅」
村上あかね(桃山学院大学社会学部・准教授)
□第三部 シンポジウム□ 15時50分~17時20分
「パネル調査で何がわかるのか」
コーディネーター 佐藤博樹(中央大学大学院戦略経営研究科・教授)
「「若者の自立」の困難と多様性」
佐藤香(東京大学社会科学研究所・教授)
「「婚活」の帰結」
三輪哲(東北大学大学院教育学研究科・准教授)
「好感度のパネル分析」
田辺俊介(早稲田大学文学学術院・准教授)
「固定効果モデルにできること・できないこと」
有田伸(東京大学社会科学研究所・教授)
「パネルデータで個人の変化を追跡する」
中澤渉(大阪大学大学院人間科学研究科・准教授)
6.問い合わせ先:
朝井友紀子(東京大学社会科学研究所 助教)