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ニューロンを作る幹細胞と作らない幹細胞~何が違いを決める?研究成果

掲載日:2018年12月18日

 分子生物学教室の壷井將史大学院生、岸雄介講師、平林祐介准教授、後藤由季子教授らの研究グループはマウス大脳の神経幹細胞を用い、組織幹細胞が特定の細胞だけを生み出せる機構のひとつを明らかにしました。本研究成果は2018年12月17日付けの米科学誌「Developmental Cell」に掲載されました。


発表概要
 私たちの体を作るさまざまな「幹細胞」は、発生が進むと徐々に分化可能な細胞の種類が少なくなります。たとえば脳を作る「神経幹細胞」は、発生の過程で初めはニューロンに分化できますが、発生後期になるとその能力を失い、グリア細胞のみに分化します。しかしこの「幹細胞の分化能力」がどのように制御されているのかについては未だに多くが謎に包まれています。東京大学大学院工学系研究科大学院学生の壷井將史氏、平林祐介准教授、東京大学大学院薬学系研究科の岸雄介講師、後藤由季子教授らの研究グループは、ポリコーム群タンパク質(PcG)に注目してそのメカニズムの一端を明らかにしました。まず、ニューロン分化期においては、PcGがヒストンユビキチン化という修飾によって「一過的に(可逆的に)」ニューロン関連遺伝子の発現を抑制しており、ニューロン分化誘導シグナルに応答してPcGによる抑制が外れることで、ニューロン関連遺伝子が活性化しニューロンに分化することが示されました。一方グリア分化期では、PcGはヒストンユビキチン化ではなく、PcG自身の凝集化によって「がっちりと(永続的に)」ニューロン関連遺伝子の発現を抑制しているために、ニューロン分化誘導シグナルに応答してPcGによる抑制が外れないため、神経幹細胞はニューロンに分化しないことが示されました。この成果は、再生医療の実現において、幹細胞の分化能を適切に制御することで、目的の細胞に分化させる方法を確立するために重要な知見になることが期待されます。

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図. 発生早期の神経幹細胞において、PcG はニューロン分化関連遺伝子群をヒストンH2A ユビキチン化修飾により「一過的に」抑制する(可逆的抑制)。この抑制状態では、ニューロン分化関連遺伝子群は分化刺激に応じて活性化しニューロンが産生される。
 発生時間が進行し発生後期になると、PcG はニューロン分化関連遺伝子群をヒストンH2Aユビキチン化に依存しないメカニズムにより「がっちりと」抑制する(不可逆的抑制)。そのため、ニューロン分化関連遺伝子群は活性化せずニューロンは産生されなくなる。
 

論文情報

Masafumi Tsuboi, Yusuke Kishi, Wakana Kyozuka, Haruhiko Koseki, Yusuke Hirabayashi, and Yukiko Gotoh , "Ubiquitination-independent repression of PRC1 targets during neuronal fate restriction in the developing mouse neocortex," Developmental Cell: 2018年12月17日, doi:10.1016/j.devcel.2018.11.018.

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