卵巣がんなどを短時間で高感度に検出できる蛍光試薬の開発 ~手術中に目では見分けにくいがんを蛍光検出する臨床医療への応用に期待~ 研究成果
大学院薬学系研究科の沼澤宏治大学院生、花岡健二郎准教授、浦野泰照教授らは、がん治療の標的分子として注目される葉酸受容体を発現するがん部位を、正常な生体組織への吸着を抑えることで、蛍光試薬の静脈内投与後わずか30分以内ではっきりと蛍光検出できる新たな近赤外蛍光試薬を開発しました。本研究成果は、2020年1月26日付でAngewandte Chemie International Edition誌に掲載されました。
発表概要
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図1. 既存の葉酸受容体を検出する蛍光試薬
既存の蛍光試薬は動物体内への投与後、標的がん部位とそれ以外の部位とでコントラストをつけるために、正常部位から余剰な蛍光試薬が排泄されるまで、数時間から一日程度の長い時間待つ必要がある。
図2. 新たに開発した葉酸受容体を発現している細胞を検出する蛍光プローブ
蛍光試薬の分子設計として、葉酸受容体に結合する葉酸部位と水溶性のペプチドリンカー部位、近赤外蛍光色素部位から構成される。開発した蛍光試薬であるFolateSiR-1と、その構造類似の蛍光色素の骨格を有し、既存の蛍光試薬と同様な特性を持つFolateSiR-2(コントロール化合物)を示す。
図3.KB細胞(ヒト口腔がん細胞)への蛍光試薬の応用
葉酸受容体を細胞膜上に発現しているKB細胞(ヒト口腔がん細胞)へと両蛍光試薬を応用したところ、FolateSiR-1は選択的に細胞膜上の葉酸受容体を蛍光検出することができた一方、FolateSiR-2は葉酸受容体以外の細胞内部位への取り込みが観察された。
※ a)、b)とも、写真右は、過剰に葉酸を加えた結果である。a)では、葉酸受容体に吸着したFolateSiR-1は、葉酸に置換され蛍光が見られなくなっている。b)では、蛍光が検出されていることから、FolateSiR-2が、葉酸に置換されない、葉酸受容体以外の細胞内部分に吸着したと考えられる。
図4.開発した蛍光試薬のマウス胚への応用
開発した蛍光試薬FolateSiR-1およびコントロール化合物FolateSiR-2をマウス胚へと応用し、蛍光イメージングを行った。FolateSiR-1を用いた場合、神経管閉鎖部位からの強い蛍光が観察された一方で、FolateSiR-2を用いた場合は、胚全体から非特異的な細胞内への蛍光試薬の取り込みと思われる強い斑点状の蛍光が観察された。
図5.開発した蛍光試薬の皮下担がんモデルマウスへの応用
KB細胞を用いた皮下担がんモデルマウスにFolateSiR-1を静脈内投与した場合、30分以内に高感度でがん部位を蛍光検出することに成功した。FolateSiR-2を投与した場合は、がん部位以外の体全体からも蛍光が観察され、蛍光試薬の投与後6時間においても、がん部位からの強い蛍光と共に体全体からの蛍光が観察された。
図6.凍結卵巣がん組織のマイクロアレイへの応用
3つの正常組織と37の卵巣がん組織から構成される、凍結卵巣がん組織のマイクロアレイへとFolateSiR-1を応用した。その結果、正常組織からは蛍光が観察されなかった一方、卵巣がん組織からは検体によっては強い蛍光が観察された。また、その観察された蛍光の有無に関しては、葉酸受容体の免疫染色の結果と一致した。
論文情報
Koji Numasawa, Kenjiro Hanaoka, Naoko Saito, Yoshifumi Yamaguchi, Takayuki Ikeno, Honami Echizen, Masahiro Yasunaga, Toru Komatsu, Tasuku Ueno, Masayuki Miura, Tetsuo Nagano, and Yasuteru Urano, "A Fluorescent Probe for Rapid, High-Contrast Visualization of Folate-Receptor-Expressing Tumors in Vivo," Angewandte Chemie International Edition: 2020年1月26日, doi:10.1002/anie.201914826 and 10.1002/ange.201914826.
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