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全脳血管ネットワーク可視化に成功 ~機能的MRI信号解読への一助~ 研究成果

掲載日:2020年2月27日

 大学院薬学系研究科の宮脇健行大学院生(研究当時)、池谷裕二教授らの研究グループは、マウス全脳血管ネットワークの構造と機能を可視化する手法を開発しました。本研究成果は、2020年2月27日のNature Communications誌に掲載されました。

発表概要

 脳血管は多様な細胞から構成される3次元ネットワークです。脳血管ネットワークの構造と機能を明らかにすることは、脳の栄養供給様式の理解に資することが期待されます。本研究グループは、この目的を実現するため、独自の蛍光モノマーを用いた血管鋳造法と、それに最適化された、組織透明化手法を開発しました。本手法SeeNetは、ほぼ全ての脳血管を明瞭に可視化しつつ、周囲の組織中に存在するタンパク質の抗原性や、緑色蛍光タンパク質(GFP)等がもつ蛍光を保存していました。更に、本手法の応用例として、動脈と静脈を区別した全脳血管のイメージングにより、これまで未知だった、皮質と海馬の細動脈/細静脈を繋ぐ微小血管を報告しました。
 本手法は、発現分子が紐づけられた脳血管の3次元トレーシングや、血管の構造・機能と周囲の細胞との関係を調べるのに有用なツールとなることが期待されます。上記のような研究によってもたらされる知見は、血管から得られる信号を神経活動に相関する指標として用いる、機能的MRIのデータ解釈への応用も予想されるため、基礎的な研究だけでなく、臨床的な研究にも役立つ可能性が考えられます。
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図1. 蛍光モノマーの温度依存的な重合反応を用いた血管鋳造法

(a).作製した蛍光モノマー、RITC-Dex-GMAの概要。血管から漏れ出さない程度の分子量を持つデキストラン(Dex)に、蛍光部位(RITC)と、架橋可能部位(GMA)が結合している。
(b).血管鋳造のスキーム。モノマーを全血管に行き渡らせた後、温度を上昇させることで重合反応を開始する。
(c).鋳造された脳血管。スケールバー:1 mm.

図2. 胆汁酸塩を用いた組織透明化とその応用例

(a).従来から用いられている、SDSによる透明化。アクリルアミド固定した脳を、SDSによって一週間脱脂した後、高屈折率溶液(ScaleCUBIC-2)に漬浸し、空気中、または高屈折率溶液中で写真撮影をした。標本の顕著な膨張が起こっていること、白質まで完全に透明になっていないことがわかる。格子は2 mm間隔。
(b).今回開発した、SDCによる透明化。SDSによる透明化に比較すると、膨潤が抑制されており、脳の深部構造(白質)まで透明になっている。
(c).血管鋳造後、SDSを用いて透明化した標本の皮質を撮影した画像。矢じりの箇所で血管の断裂が起こっている。スケールバー:100 μm.
(d).同じく、SDCを用いて透明化したサンプルの皮質。断裂はほとんど起こっていない。
(e).SeeNet(左、RITC-Dex-GMA)を適用したサンプルについて、細動脈(中央、αSMA-FITC)を免疫染色し、ライトシート顕微鏡によって全脳イメージングした画像。2チャネルのマージ画像を右に示す。スケールバー:1 mm.
(f).(e). 左半球後部のRITC-Dex-GMAシグナル。本視野で観察された、皮質と海馬の血管をつなぐ微小血管を枠内に示している。スケールバー:1 mm.
(g).(f).中に示された各領域の細動脈シグナルと、発見された血管経路の輪郭。この例では、細動脈と細動脈を結ぶ経路(g1)、細静脈と細動脈を結ぶ経路(g2)、細静脈と細静脈を結ぶ経路(g3)が観察された。スケールバー:100 μm.

論文情報

Miyawaki, T., Morikawa, S., Susaki, E. A., Nakashima, A., Takeuchi, H.,Yamaguchi, S., Ueda, H. R., Ikegaya, Y. (宮脇 健行、森川 勝太、洲崎 悦生、中嶋 藍、竹内 春樹、山口 瞬、上田 泰己、池谷 裕二), "Visualization and molecular characterization of vascular network with capillary resolution," Nature Communications: 2020年2月27日, doi:10.1038/s41467-020-14786-z.
論文へのリンク (掲載誌別ウィンドウで開く)

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