進化の過程で失われた再生関連遺伝子に秘められた力 再生能力が高い動物に特有の遺伝子による加齢表現型の抑制 研究成果

東京大学大学院薬学系研究科の長井広樹博士研究員、三浦正幸教授、中嶋悠一朗准教授らによる研究グループは、東北大学と共同で、再生能力の高い動物に特有の遺伝子Highly regenerative species-specific JmjC domain-encoding genes (以下HRJDs)をショウジョウバエ成体の腸管幹細胞に異所発現することで、加齢に伴う表現型の抑制と寿命の延伸が可能であることを明らかにしました。プラナリアやヒドラといった全身レベルの再生が可能な動物では、HRJDsのような再生関連遺伝子の存在によって、幹細胞機能が長期的に維持される可能性が考えられます。一方、再生能力の低い哺乳類や昆虫などは、こうした遺伝子を進化の過程で失ってしまっているわけですが、これら遺伝子を再獲得することで再生や加齢のプロセスが変化するかは不明でした。本研究では、HRJDsをモデル動物であるショウジョウバエに異所発現し、その影響を検証しました。HRJDsの発現によって、損傷後の組織再生は低下していたものの、加齢に伴う腸管バリア機能の破綻が抑制され、寿命の延伸が確認されました。また、HRJDsを発現する加齢個体の腸管幹細胞において、JAK-STATシグナルが活性化することで、分裂能が亢進し、かつ、分化能が正常に維持され、腸管恒常性の維持に寄与していることが示唆されました。再生能力が高い動物に特有の遺伝子機能を解析することで、幹細胞機能の若返りや健康寿命の延伸に向けた新たな仕組みの理解につながる可能性が期待されます。
論文情報
Hiroki Nagai, Yuya Adachi, Tenki Nakasugi, Ema Takigawa, Junichiro Ui, Takashi Makino, Masayuki Miura, and Yu-ichiro Nakajima*, "Highly regenerative species-specific genes improve age-associated features in the adult Drosophila midgut," BMC Biology: 2024年8月2日, doi:10.1186/s12915-024-01956-4.
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