抗がん剤タキソール全合成の新戦略 緻密な分子設計によって複雑天然化合物を組み上げる 研究成果
タキソール(パクリタキセル)はタイヘイヨウイチイの樹皮より単離された天然物であり、タキサンジテルペンに分類されます。タキサンジテルペンは、6/8/6員環(ABC環)が複雑に縮環した炭素骨格上に歪みのかかった橋頭位オレフィンや多数の酸素官能基および不斉中心を備えた化学構造を共有しています。タキサンジテルペンの中でも最も複雑な構造を有するタキソールは、顕著な抗腫瘍活性を示し、乳がん、卵巣がんや肺がんなどの治療薬として、広く臨床利用されています。有機合成化学的に挑戦的かつ、創薬科学的に重要なタキソールは数多くの有機合成化学者の興味を惹き、50年以上にわたって合成研究が行われてきました。これまでに本研究グループを含む14例の全合成が報告されてきましたが、それぞれの合成例がその時代の有機合成における最新の合成戦略と戦術の変遷を表してきました。
今回、東京大学大学院薬学系研究科の渡辺崇央 大学院生(研究当時)、大賀恭平 大学院生、的場博亮 大学院生(研究当時)、長友優典 講師(研究当時)、井上将行 教授の研究グループは、収束的合成戦略に基づくフラグメントの分子間ラジカル反応とPd金属触媒を用いた8員環形成反応を活用してタキソールの複雑な分子骨格を高効率的に構築し、タキソールの全合成を最長直線工程28工程で達成しました。
ラジカル反応を基盤とした本全合成によって、天然物合成化学における緻密なフラグメント設計原理と新戦略を提示しました。また、多数の酸素官能基で修飾された複雑な構造の中間体にも適用可能な本合成戦略は、他の多くの複雑天然物の全合成へと応用展開可能であり、複雑天然物を基盤とした創薬研究を加速することが期待されます。
今回、東京大学大学院薬学系研究科の渡辺崇央 大学院生(研究当時)、大賀恭平 大学院生、的場博亮 大学院生(研究当時)、長友優典 講師(研究当時)、井上将行 教授の研究グループは、収束的合成戦略に基づくフラグメントの分子間ラジカル反応とPd金属触媒を用いた8員環形成反応を活用してタキソールの複雑な分子骨格を高効率的に構築し、タキソールの全合成を最長直線工程28工程で達成しました。
ラジカル反応を基盤とした本全合成によって、天然物合成化学における緻密なフラグメント設計原理と新戦略を提示しました。また、多数の酸素官能基で修飾された複雑な構造の中間体にも適用可能な本合成戦略は、他の多くの複雑天然物の全合成へと応用展開可能であり、複雑天然物を基盤とした創薬研究を加速することが期待されます。
論文情報
Takahiro Watanabe, Kyohei Oga, Hiroaki Matoba, Masanori Nagatomo, and Masayuki Inoue*, "Total Synthesis of Taxol Enabled by Intermolecular Radical Coupling and Pd-Catalyzed Cyclization," Jounal of the American Chemical Society: 2023年11月16日, doi:10.1021/jacs.3c10658.
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