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「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査 2021」分析結果報告 ―パネル調査からみる健康、意識、雇用、介護― 研究成果

掲載日:2022年2月28日

1.発表者
石田   浩(東京大学 特別教授)
石田  賢示(東京大学社会科学研究所 准教授)
大久保 将貴(東京大学社会科学研究所 特任助教)
俣野  美咲(東京大学社会科学研究所 特任助教)
 
2.発表のポイント
  • 2007年より15年間にわたりパネル調査(同一の人々への追跡調査)を行ってきた。今回は、15年分の最新の調査データを用いて、コロナ禍やライフステージにおける健康、意識、雇用、介護について分析をした。
  • 最新の調査を含むデータを分析したところ、(1)コロナ禍では主観的な健康観について悪くなっていると考えている人の比率が増えていること、(2)生活満足感がある程度高い水準で一定のまま推移している一方で、日本社会への希望は低水準ながら変動しつつ推移していること、(3)医療従事者や介護・福祉職に従事する人は勤務日数や労働時間が増加し、それにともない収入も増加していたのに対し、飲食業や製造業では勤務日数・労働時間・収入が減少していること、(4)家族介護は主に女性が担っており、家族介護は就業を中断させ健康を悪化させる可能性があること等が明らかとなった。
  • 分析結果から、コロナ禍やライフステージにおける人々の生活や意識の実態および変化が確認された。本調査のさらなる継続により、様々なライフステージにおける意識や行動を精確に把握することが可能になると期待される。
3.発表概要
 東京大学社会科学研究所の石田浩特別教授らの研究グループは、2007年から毎年実施している「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」の追跡調査(注1)と、2019年より新たに実施したリフレッシュサンプル調査(注2)の対象者に対して、2020年8月末から11月にかけて2020年ウェブ特別調査をおこなった。本調査では、コロナ禍での生活や意識について尋ねており、今回は、(1)コロナ禍における人々の不安および健康と生活意識の変化、(2)コロナ禍における社会的孤立リスクの格差の蓄積、(3)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のリスク認知と行動、という3つの視点から分析をおこなった。
 2000年代後半から現在までの、個人の行動や意識の変化を検証している研究は少ない。本調査は、同一の人々に繰り返し尋ね続ける「パネル調査」という手法を採用することで、変化を適切に捉えることができ、他の調査では明らかにすることができない信頼性の高い調査結果を提供している。急激な少子化・高齢化や経済変動が人々の生活に与える影響について関心が高まる中で、実証研究に基づく本研究の知見は、今後の政策議論を深める素材を提供しうるものと期待される。
 
4.発表内容
 本研究グループは、2007年より「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」(Japanese Life Course Panel Survey-JLPS)を毎年実施している。本調査は、急激な少子化・高齢化や経済変動が人々の生活に与える影響を解明するため、日本で生活する若年・壮年層の働き方、結婚・出産といった家族形成、ライフスタイルや意識・態度などがどのように変化しているのかを探索することを目的としている。同一の人々に繰り返し尋ね続ける「パネル調査」という手法を用いている点に特色があり、同じ個人を追跡することにより、個人の行動や意識の変化を跡付けることができる。
 今回は、最新の2021年調査を含む15年分のデータを用いて、(1)コロナ禍における健康状態の変容、(2)日本社会に対する希望の変化とその背景、(3)コロナ禍における雇用と収入、(4)家族介護の実態と影響、という4つのトピックを分析した。主な分析結果は以下の通りである。
 
  1. 人々の健康状態について、日本において新型コロナウイルス感染症の拡大が起きる前の2019年初旬から2020年初旬の変化と、コロナ禍以後の2020年初旬から2021年初旬にかけての変化を比較した。メンタルヘルスと健康による活動制限については、悪化した人々の比率がとりわけコロナ禍以後に上昇したわけではなかったが、主観的な健康観については悪くなっていると考えている人の比率が有意に増えている。女性と低学歴者で主観的健康が悪化している傾向が見られた。
  2. 日本社会への希望の変化について、生活満足感と比較しながら2021年までの推移を検討した。生活満足感がある程度高い水準で一定のまま推移しているのに対し、日本社会への希望は低水準ながら時期により変動しつつ推移している。特に、2019年から2021年にかけ、他の時期と比べて希望の水準が大きく低下している。直接検証できているわけではなく解釈には留意が必要だが、コロナ禍で長期化する生活不安は社会に対する希望の低下の背景である可能性がある。また、個人内で変化する側面に着目して社会への希望の変化と関連する要因を探った。その結果、雇用形態や世帯年収などの経済的側面の変化とは関連がない一方、友人や親との関係に対する満足感やメンタルヘルス、健康状態の変化とは関連があり、これらの質の改善に伴い希望の水準も上昇していることが明らかとなった。
  3. 新型コロナウィルス感染症による、人々の雇用・収入面への影響について分析をおこなった。雇用や収入に関する影響について、男性では約4割、女性では約5割が「いずれも当てはまらない」を選択しており、コロナ禍以前と変化していない人々も少なくない。しかし、影響があった人々の中で最も選択されているのは男女ともに「収入が減った」であり、新型コロナウィルス感染症のパンデミックが人々の生活に深刻な影響を与えている様子もうかがえる。また、医療従事者や介護・福祉職に従事する人は勤務日数や労働時間が増加し、それにともない収入も増加していたのに対し、飲食業や製造業では勤務日数、労働時間、収入が減少しやすい傾向が確認された。勤務形態の変更や通勤方法の変更は、正規雇用者や事務職で起こりやすく、在宅勤務が認められている割合には正規雇用者と非正規雇用者の間で20ポイントの差があることも明らかになった。
  4. 誰が家族介護をしているのか、また家族介護は就業や健康にどのような影響を与えるのかについて分析した。2021年では、壮年調査世代女性で約16%、壮年調査世代男性で約4.8%、若年調査世代女性で約5.4%、若年調査世代男性で約3.3%が家族介護をしている(壮年および若年調査世代については注1を参照)。なおこの家族介護者の割合は2020年に比べてやや低下しており、コロナ禍において家族介護ができない状況も考えられる。家族介護が就業に与える影響については、女性のみが影響を受けている。具体的には、家族介護をすると就業確率が平均で5%低くなり、労働時間(月)が平均で5時間短くなる。さらに、家族介護は女性においてのみメンタルヘルスを悪化させる傾向があった。
図表などを含む、より詳しい情報は以下のサイトで公開している。
https://csrda.iss.u-tokyo.ac.jp/social/pr/

用語解説
(注1)「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」の追跡調査
 日本全国に居住する20-34歳(若年調査)と35-40歳(壮年調査)の男女を母集団として地域・都市規模・性別・年齢により層化し、対象者を抽出した追跡調査である。2007年1月から4月に第1回目(Wave 1)の調査を郵送配布・訪問回収の方法で行い、「若年調査」は3367、「壮年調査」は1433のケースを回収した。アタック数に対する回数率は、それぞれ34.5%と40.4%である。2007年からの「継続サンプル」は、毎年少しずつ脱落する者がいるため、アタックできる数が徐々に少なくなり、サンプルサイズが縮小していく。この点を考慮して、2011年には「追加サンプル」を補充した。同年齢の24-38歳(若年)と39-44歳(壮年)の対象者を抽出し、郵送配布・郵送回収の方法により、712(若年)、251(壮年)のケースを回収した。その後これらの対象者も毎年追跡している。
 
(注2)「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」のリフレッシュサンプル調査
2007年から実施している追跡調査と同様に、地域・都市規模・性別・年齢により層化した上で、20-31歳(2019年時点)の対象者を全国から抽出し、2019年に郵送配布・訪問回収の方法で調査を実施した。2380のケースを回収し、アタック数に対する回収率は36.1%である。「リフレッシュサンプル」調査についても、2019年以降、同一の人々を毎年追跡している。

お問い合わせ先

東京大学社会科学研究所
特任助教 大久保 将貴
E-mail:sokubo@iss.u-tokyo.ac.jp
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