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「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査 2022」分析結果報告 ―パネル調査からみるワクチン接種、スキル形成、意識、ダブルケア― 研究成果

掲載日:2023年3月29日

1.発表者
石田   浩(東京大学 特別教授)
石田  賢示(東京大学社会科学研究所 准教授)
大久保 将貴(東京大学社会科学研究所 特任助教)
俣野  美咲(東京大学社会科学研究所 特任助教)
 
2.発表のポイント
  • 2007年より16年間にわたりパネル調査(同一の人々への追跡調査)を行ってきた。今回は、16年分の最新の調査データを用いて、コロナ禍やライフステージにおけるワクチン接種、スキル形成、意識、ダブルケア(育児と介護)について分析をした。
  • 最新の調査を含むデータを分析したところ、(1)新型コロナウイルスワクチン接種の有無は学歴や職業、働き方に規定されていること、(2)「大人である」ための要件として、結婚して子どもを生み育てることについては重視されなくなった一方で、仕事を得て経済的に自立することを重視する傾向は根強いこと、(3)職業訓練・研修と自発的におこなう学習・研修(自己啓発)の経験率は、2010年と2022年の約10年間で変わらず女性の方が低いこと、(4)育児と介護の両方をしているダブルケアラーは2019年で1.36%、2021年で1.66%であり、ダブルケアラーの性別に着目すると約80%が女性であること等が明らかとなった。
3.発表概要
 東京大学の石田特別教授をはじめとする東京大学社会科学研究所の研究グループは、2007年から毎年実施している「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」の追跡調査(Japanese Life Course Panel Survey-JLPS、注1)と、2019年より新たに実施したリフレッシュサンプル調査(注2)の2022年調査結果をもとに、(1)新型コロナウイルスワクチン接種の有無とその影響、(2)「大人である」ことに対する意識の変容、(3)スキル形成機会のジェンダー差、(4)育児と介護のダブルケア、という4つの視点から分析をおこなった。
2000年代後半から現在までの、個人の行動や意識の変化を検証している研究は少ない。本調査は、同一の人々に繰り返し尋ね続ける「パネル調査」という手法を採用することで、変化を適切に捉えることができ、他の調査では明らかにすることができない信頼性の高い調査結果を提供している。急激な少子化・高齢化や経済変動が人々の生活に与える影響について関心が高まる中で、実証研究に基づく本研究の知見は、今後の政策議論を深める素材を提供しうるものと期待される。
 
4.発表内容
 本研究グループは、2007年より「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」を毎年実施している。本調査は、急激な少子化・高齢化や経済変動が人々の生活に与える影響を解明するため、日本で生活する若年・壮年層の働き方、結婚・出産といった家族形成、ライフスタイルや意識・態度などがどのように変化しているのかを探索することを目的としている。同一の人々に繰り返し尋ね続ける「パネル調査」という手法を用いている点に特色があり、同じ個人を追跡することにより、個人の行動や意識の変化を跡付けることができる。
今回は、最新の2021年調査を含む15年分のデータを用いて、(1)新型コロナウイルスワクチン接種、(2)「大人である」ことに対する意識の変容、(3)スキル形成機会のジェンダー差、(4)育児と介護のダブルケア、という4つのトピックを分析した。主な分析結果は以下の通りである。
 
 
  1. 新型コロナウイルスワクチン接種の有無の規定要因を分析したところ、学歴の高い人、専門管理職に従事している人はワクチンを接種しやすく、自営業者・無職者は雇用者と比較してワクチン接種をしにくい傾向が確認された。ワクチン接種により行動変容がみられるのかについての分析では、外食の頻度、友人・恋人との会食頻度、運動の頻度の変化については、ワクチン接種を受けた人と受けなかった人の間で違いはみられなかった。
  2. 人々の「大人である」ことへの意識について、(1)世代間での意識の違いと、(2)世代内での10年間での意識の変化に着目して分析をおこなった。世代間での比較からは、この10年間で、「大人である」ための要件として、結婚して子どもを生み育てることについては重視されなくなった一方で、仕事を得て経済的に自立することを重視する傾向は根強いことが明らかになった。未婚化・晩婚化や少子化が急激に進行するなかで、家族形成による役割の移行に依拠した「大人」像は薄れてきているといえる。世代内での意識の変化については、10年間で自分自身は大人であるという認識を持った者の割合は3割程度とそれほど多くないこと、さらに、もともと自分は大人であると感じていた者の2割程度は、10年後、その認識に揺らぎが生じていたことが明らかになった。
  3. 勤め先の指示でおこなう職業訓練・研修と自発的におこなう学習・研修(自己啓発)の経験率の男女差について、2010年と2022年の2時点で比較をおこなった。約10年間でいずれの経験率も全体としては変わらず、女性の方が低い。女性における訓練、自己啓発経験率の低さは、有配偶女性や子どものいる女性がスキル形成機会を持ちにくいためであり、彼女らの多くは非正規雇用や無業など、スキル形成の機会から遠い就業状態にある。一方、20代から40代前半の男女は、学歴や職業構成、有配偶者率や子どものいる者の割合などの社会経済人口要因が2010年から2022年にかけて変化してもいる。そこでこれらの要因の影響を統制すると、2010年、2022年ともに配偶者の有無、子どもの有無による訓練、自己啓発経験率の男女差はみられなくなった。以上の結果は、約10年にわたってスキル形成機会の男女差がほとんど変わっていないこと、また男女差の主要な理由が両者で異なる就業状態にあることを意味しており、性別やライフステージにかかわらず就業継続可能な環境整備の必要性を改めて示唆している。
  4. 2021年時点で23~55歳の男女を対象とする調査から、育児と介護の両方をしているダブルケアラーは2019年で1.36%、2021年で1.66%であることが分かった。また育児のみをしている人の割合は29.91%、介護のみをしている人の割合は3.5%、育児も介護もしていない人の割合は65.09%となっている。ダブルケアラーの性別に着目すると、約80%が女性であった。この値は、介護のみをしている人に占める女性の割合、育児のみをしている人に占める女性の割合よりも高い。健康や就業に着目してみると、ダブルケアラーの就業率は2019年で85.71%、2021年で78.38%である一方、非ダブルケアラーの就業率は2019年で88.50%、2021年で88.96%であり、ダブルケアラーの就業率がやや低い。メンタルヘルスおよび主観的健康の平均スコアについては、ダブルケアラーの健康スコアは介護のみをしている人よりは高く、育児のみをしている人よりは低く、介護も育児もしていない人と同程度であった。
図表などを含む、より詳しい情報は以下のサイトで公開している。
https://csrda.iss.u-tokyo.ac.jp/social/pr/

用語解説
(注1)「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」の追跡調査
 日本全国に居住する20~34歳(若年調査)と35~40歳(壮年調査)の男女を母集団として地域・都市規模・性別・年齢により層化し、対象者を抽出した追跡調査である。2007年1月から4月に第1回目(Wave 1)の調査を郵送配布・訪問回収の方法で行い、「若年調査」は3367、「壮年調査」は1433のケースを回収した。アタック数に対する回数率は、それぞれ34.5%と40.4%である。2007年からの「継続サンプル」は、毎年少しずつ脱落する者がいるため、アタックできる数が徐々に少なくなり、サンプルサイズが縮小していく。この点を考慮して、2011年には「追加サンプル」を補充した。同年齢の24~38歳(若年)と39~44歳(壮年)の対象者を抽出し、郵送配布・郵送回収の方法により、712(若年)、251(壮年)のケースを回収した。その後これらの対象者も毎年追跡している。
 
(注2)「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」のリフレッシュサンプル調査2007年から実施している追跡調査と同様に、地域・都市規模・性別・年齢により層化した上で、20~31歳(2019年時点)の対象者を全国から抽出し、2019年に郵送配布・訪問回収の方法で調査を実施した。2380のケースを回収し、アタック数に対する回収率は36.1%である。「リフレッシュサンプル」調査についても、2019年以降、同一の人々を毎年追跡している。

お問い合わせ先

東京大学社会科学研究所
特任助教 大久保 将貴
E-mail:sokubo@iss.u-tokyo.ac.jp
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