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「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査2018」分析結果報告 ―パネル調査から見る暮らしむき、社会ネットワーク、介護― 研究成果

掲載日:2019年5月31日

1.発表者
石田  浩(東京大学社会科学研究所 教授)
石田 賢示(東京大学社会科学研究所 准教授)
大久保将貴(東京大学社会科学研究所 助教)
 
2.発表のポイント
  • 2018年に行われた最新の調査データを分析した結果、主観的な暮らしむき について世代間で再生産する傾向があること、社会ネットワーク の変化には就業状態の変化と子どもの有無の変化が影響すること、介護が就業を抑制しメンタルヘルスを悪化させることが明らかとなった。
  • 11年間にわたる同一の人々への追跡調査により、上記の成果にみられるようなライフステージや生活状況の変化を具体的に明らかにした。
  • 分析結果からは、社会経済状況が変化するなかで、世代間の暮らしむき、社会ネットワーク、介護など意識や行動にも変化が生じていることが確認できる。この調査のさらなる継続によって、ライフステージにおける意識や行動を精確に把握することが可能になる。  
3.発表概要
 東京大学社会科学研究所の石田浩教授らの研究グループは、2007年から毎年実施している「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」の2018年調査結果をもとに、(1)世代間の暮らしむきの変化、(2)社会ネットワーク規模の変化、(3)介護、の3つのトピックを分析した。知見は次の通りである。
 
1. 暮らしむきが世代間で変化しているのかに着目した。親世代との比較では、暮らしむきは「より豊か」「同じ」「より貧しい」の回答がほぼ3等分している。子ども世代との比較では、「自分と同じくらい」の回答がほぼ半分を占めており、残りは「自分よりも豊か」と「自分よりも貧しい」がほぼ半々となっている。

2. 2009年から2018年にかけ、対面で会話をする人、電話・携帯で会話をする人の数や分布にはほとんど変化がなかった。一方、メールをする人の数はこの9年間で微増していた。全体的には変化が小さかったが、個人内での変化については人数が増加した人も減少した人もいる。人数の増減の背景要因を探ると、就業していなかったり子どもがいなかったりするとネットワークの縮小につながることが明らかとなった。一方、仕事以外でのインターネット利用はネットワーク規模には関連していなかった。

3. 介護をしている人の割合は調査年を経るごとに増加している。配偶者のいない男性は、配偶者のいる男性に比べて、介護をしている人の割合が高い。女性については、介護が就業を抑制し、またメンタルヘルスにも負の影響を与えている。
 
 2000年代後半から現在までの、個人の行動や意識の変化を検証している研究は少ない。本調査は、同一の人々に繰り返し尋ね続ける「パネル調査」という手法を採用することで、変化を適切に捉えることができ、他の調査では明らかにすることができない信頼性の高い調査結果を提供している。
 
4.発表内容
 本研究グループは、2007年より「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」(Japanese Life Course Panel Survey-JLPS)を毎年実施している。本調査は、急激な少子化・高齢化や経済変動が人々の生活に与える影響を解明するため、日本に生活する若年・壮年層の働き方、結婚・出産といった家族形成、ライフスタイルや意識・態度などがどのように変化しているのかを探索することを目的としている。本調査は、同一の人々に繰り返し尋ね続ける「パネル調査」という手法を用いている点に特色があり、同じ個人を追跡することにより、個人の行動や意識の変化を跡付けることができる。
今回は、2018年調査(2018年1~3月実施:回答者3,299名)に基づき、(1)世代間の暮らしむきの変化、(2)社会ネットワーク規模の変化とその背景、(3)介護の状況と影響という3つのトピックについて分析した。
 
1.  暮らしむきに関する世代間の移り変わりについて分析すると、親世代との比較では、暮らしむきは「より豊か」「同じ」「より貧しい」の回答がほぼ3等分している。子ども世代との比較では、「自分と同じくらい」の回答がほぼ半分を占めており、残りは「自分よりも豊か」と「自分よりも貧しい」がほぼ半々となっている。これらの回答は、平成世代を生きてきた若年・壮年者の感じ方として、昭和の時代を生きた親世代とこれからの令和の時代を生きる子ども世代の暮らしむきを比較したものである。暮らしむきの世代間比較に影響を与える要因としては、回答者の現在の経済環境とともに、15歳時点での出身家庭の豊かさが重要な参照基準となっているようである。

2.  社会ネットワークのうち、直接会ってあいさつや会話をする人や電話・携帯電話により会話をする人の数の分布は2009年と2018年のあいだで変化していない。一方、メールにより連絡を取り合う人の数は若干増加している。これらの社会ネットワークの規模は、無業になったり、無業が継続したりすることや、子どもがいない状態になることで縮小することが明らかになった。一方、仕事以外でのインターネット利用頻度の増減は、いずれの種類の社会ネットワーク規模の拡大・縮小とも関連していなかった。

3.  介護をしている人の割合は調査年(年齢)を経るごとに増加している。女性については、配偶者の有無によって介護をしている人の割合に大きな差はない一方で、男性の場合には、配偶者の有無によって介護をしている人の割合に約5%の差が生じていた。介護と就業の関連については、女性のみ、介護に直面すると就業を中断する傾向があることがわかった。介護と健康の関連については、介護をすることと主観的健康の間に関連はみられなかったものの、メンタルヘルスについては女性においてのみ介護とMHI-5の負の関連を確認した。
 
 本調査は、同一の人々に繰り返し尋ね続ける「パネル調査」という手法を採用することで、変化を適切に捉えることができ、他の調査では明らかにすることができない信頼性の高い調査結果を提供している。急激な少子化・高齢化や経済変動が人々の生活に与える影響について関心が高まる中で、実証研究に基づく本研究の知見は、今後の政策議論を深める素材を提供しうるものと期待される。
図表などを含む、より詳しい情報は以下のサイトで6月3日(月)より公開。
https://csrda.iss.u-tokyo.ac.jp/panel/pr/
 
 

お問い合わせ先

東京大学社会科学研究所
助教 大久保 将貴(おおくぼ しょうき)
TEL:03-5841-4977  E-mail: sokubo@iss.u-tokyo.ac.jp
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