PRESS RELEASES

印刷

「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査 2020年ウェブ特別調査」分析結果報告 ―コロナ禍にみる人々の生活と意識― 研究成果

掲載日:2021年2月18日

1.発表者
石田   浩(東京大学 特別教授)
石田  賢示(東京大学社会科学研究所 准教授)
大久保 将貴(東京大学社会科学研究所 助教)

2.発表のポイント
  • 14年間にわたりパネル調査(同一の人々への追跡調査)を行ってきた。今回は、これらの調査対象者におけるコロナ禍の人々の生活や意識をみるため2020年ウェブ特別調査を実施した。継続調査対象者にウェブ特別調査を実施したため、コロナ禍前後での生活や意識について比較ができるという利点がある。
  • コロナ禍での生活や意識について尋ねた2020年ウェブ特別調査を分析したところ、8割以上の人が「旅行・イベントへの参加」「感染の収束」「不況の長期化・深刻化」「予防物資の不足」「政府の対応」「正しい情報の欠如」について不安を抱いていたこと、コロナ禍で健康と生活に関わる状況が大きく損なわれたと結論することはできないこと、社会的孤立のリスクもコロナ禍で高まっており、もともと孤立しやすい背景を持つ人びとがより孤立リスクを高めやすいこと、COVID-19の感染リスク(実効再生産数)は人々の間で実際よりも過大に見積もられていること等が明らかとなった。
  • 分析結果から、コロナ禍の人々の生活や意識の実態および変化が確認された。本調査のさらなる継続により、様々なライフステージにおける意識や行動を精確に把握することが可能になると期待される。
3.発表概要
 東京大学社会科学研究所の石田浩特別教授らの研究グループは、2007年から毎年実施している「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」の追跡調査(注1)と、2019年より新たに実施したリフレッシュサンプル調査(注2)の対象者に対して、2020年8月末から11月にかけて2020年ウェブ特別調査をおこなった。本調査では、コロナ禍での生活や意識について尋ねており、今回は、(1)コロナ禍における人々の不安および健康と生活意識の変化、(2)コロナ禍における社会的孤立リスクの格差の蓄積、(3)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のリスク認知と行動、という3つの視点から分析をおこなった。
 2000年代後半から現在までの、個人の行動や意識の変化を検証している研究は少ない。本調査は、同一の人々に繰り返し尋ね続ける「パネル調査」という手法を採用することで、変化を適切に捉えることができ、他の調査では明らかにすることができない信頼性の高い調査結果を提供している。急激な少子化・高齢化や経済変動が人々の生活に与える影響について関心が高まる中で、実証研究に基づく本研究の知見は、今後の政策議論を深める素材を提供しうるものと期待される。
 
4.発表内容
 本研究グループは、2007年より「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」(Japanese Life Course Panel Survey-JLPS)を毎年実施している。本調査は、急激な少子化・高齢化や経済変動が人々の生活に与える影響を解明するため、日本に生活する若年・壮年層の働き方、結婚・出産といった家族形成、ライフスタイルや意識・態度などがどのように変化しているのかを探索することを目的としている。今回は例年の調査に加えて、コロナ禍での人々の生活や意識の実態を探るため、2020年ウェブ特別調査を実施した。同一の人々に繰り返し尋ね続ける「パネル調査」という手法を用いている点に特色があり、同じ個人を追跡することにより、個人の行動や意識の変化を跡付けることができる。
 今回は、主に2020年ウェブ特別調査(回収数3,740名、回収率63.9%)データを用いて、(1)コロナ禍における人々の不安および健康と生活意識の変化、(2)コロナ禍における社会的孤立リスクの格差の蓄積、(3)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のリスク認知と行動、という3つのトピックを分析した。主な分析結果は以下の通りである。
 
  1. 2020年4月から5月にかけての緊急事態宣言下では、8割以上の人が「旅行・イベントへの参加」「感染の収束」「不況の長期化・深刻化」「予防物資の不足」「政府の対応」「正しい情報の欠如」について不安を抱いていたことがわかる。どのような人が不安傾向が高いのかを分析すると、女性の方が男性より一般的に不安を感じやすく、年齢が高くなると不安は高くなる傾向にある。高学歴層と単身者は、不安スコアが低い傾向があり、専門・管理職の場合には、ブルーカラー職と比較して不安スコアが平均的に低い。パネル調査であることの特性を活かして、健康と生活意識に関する調査項目について時点間の変化を分析した。コロナ禍が到来する前の「2019年初旬から2020年初旬」にかけての変化と「2020年初旬から2020年秋」のコロナ禍を経た時期の変化を比較すると、コロナ禍で健康と生活に関わる状況が大きく損なわれたと結論することはできない。新型コロナウイルスの感染症が拡大する以前から、健康と生活に関連して悪い方向に変化している人々が2割程度存在しており、コロナ禍を経た2020年秋頃にも、ほぼ同様の比率の人々が悪化を経験している。
  2. コロナ禍前後での人間関係や社会的孤立の発生リスクについて、対面、通話、メールやテキストメッセージそれぞれで日常的な接触のある人数(社会ネットワーク)に着目して分析した。コロナ禍で社会ネットワークの縮小が生じたのは対面だけでなく、行動制限の影響を受けにくいはずの通話、メール・テキストによるネットワークについても同様である。また、いずれの方法についても接触する相手がいない状態を社会的孤立と定義して分析した。その結果、社会的孤立のリスクもコロナ禍で高まっており、もともと孤立しやすい背景を持つ人びとがより孤立リスクを高めやすいことがわかる。今回の分析結果は、コロナ禍の前から存在していた社会的孤立の背景要因が顕在化し、強まったのだと解釈できる。
  3. 多くの人(約87%)が実効再生産数(COVID-19に対するリスク認知)を過大に見積もる傾向がある。実効再生産数の過大な認知は様々な属性に規定されている。具体的には、男性は女性に比べて、大卒は非大卒に比べて過大認知をしない傾向、年齢が高い人は低い人に比べて過大認知をしない傾向、販売・サービス職と生産現場等の職業は専門・管理・技術職に比べて実効再生産数を過大に認知する傾向がある。こうした実効再生産数を過大に見積もる人は、そうでない人に比べて、換気をしたり、外食を控える傾向がある。
図表などを含む、より詳しい情報は以下のサイトで2月19日(金)より公開予定である。
https://csrda.iss.u-tokyo.ac.jp/social/pr/

5.用語解説
(注1)「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」の追跡調査
 日本全国に居住する20-34歳(若年調査)と35-40歳(壮年調査)の男女を母集団として地域・都市規模・性別・年齢により層化し、対象者を抽出した追跡調査である。2007年1月から4月に第1回目(Wave 1)の調査を郵送配布・訪問回収の方法で行い、「若年調査」は3,367、「壮年調査」は1,433のケースを回収した。アタック数に対する回数率は、それぞれ34.5%と40.4%である。2007年からの「継続サンプル」は、毎年少しずつ脱落する者がいるため、アタックできる数が徐々に少なくなり、サンプルサイズが縮小していく。この点を考慮して、2011年には「追加サンプル」を補充した。同年齢の24-38歳(若年)と39-44歳(壮年)の対象者を抽出し、郵送配布・郵送回収の方法により、712(若年)、251(壮年)のケースを回収した。その後これらの対象者も毎年追跡している。
 

(注2)「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」のリフレッシュサンプル調査
2007年から実施している追跡調査と同様に、地域・都市規模・性別・年齢により層化した上で、20-31歳(2019年時点)の対象者を全国から抽出し、2019年に郵送配布・訪問回収の方法で調査を実施した。2,380のケースを回収し、アタック数に対する回収率は36.1%である。なお「リフレッシュサンプル」調査は、これまでの追跡調査と同様に、今後も同一の人々を追跡する。
 

お問い合わせ先

東京大学社会科学研究所
助教 大久保 将貴(おおくぼ しょうき)
E-mail:sokubo@iss.u-tokyo.ac.jp
アクセス・キャンパスマップ
閉じる
柏キャンパス
閉じる
本郷キャンパス
閉じる
駒場キャンパス
閉じる