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火星隕石の分析から太古の火星表層に水が存在した証拠を発見 ~巨大な隕石衝突によって水が地殻を酸化し、長期間に渡る温暖気候をもたらした~ 研究成果

掲載日:2020年10月31日

1.発表者
 三河内 岳 (東京大学総合研究博物館 教授)
 
2.発表のポイント:
◆火星隕石の分析から、太古の火星表層にあった水が巨大な隕石衝突によって地殻を酸化させ、また、大気中に放出された水素が長期間の温暖気候をもたらした可能性が示された。
◆かつての火星には長期間ハビタブルな環境が続いていたことが分かっていたが、その原因が表層に存在した水と巨大な隕石衝突によるものであった可能性が初めて示された。
◆火星誕生直後に水が存在していたことは、他の太陽系天体でも同様の可能性を示しており、生命誕生の環境がこれまで考えられていた以上に多くの天体にあったかもしれない。
 
3.発表概要
 東京大学総合研究博物館の三河内 岳(みこうち たかし)教授が参加する国際研究チームは、今から約44億年前に形成された火星隕石の分析から、太古の火星で起こった巨大な隕石衝突により地殻の溶融が起こり、非常に酸化的な特徴を持ったマグマが形成されたことを示した。マグマが酸化的になった原因としては、隕石衝突によって、火星誕生直後にも関わらず、すでに火星表層に存在していた水からもたらされた酸素が地殻の溶融に関与したことが考えられる。また、水を起源とする水素も火星大気中に放出されることとなり、その温室効果によって長期間にわたり温暖な気候が続く可能性があることが分かった。
 これまで火星探査の結果から太古の火星には大量の水が存在するハビタブルな環境が長く続いたことが分かっていたが、この時代は太陽活動が弱かったために、温暖な気候がどのように維持されたかが分かっていなかった。また、水が火星誕生直後にすでに存在していたことから、同様のことが他の太陽系天体にも起こった可能性があり、生命の誕生に都合の良い環境が多くの天体に存在したかもしれない。
 
4.発表内容
 これまで行われた多くの火星探査による地形や岩石の調査によって、ノアキアン時代(37億年以前)の火星表面には大量の水が存在するハビタブルな環境が続いていたことが分かっていた。しかし、この時代は今に比べて太陽活動が弱かったと考えられているために、どのような機構により温暖な気候が長期間にわたり維持されたかについてははっきりと分かっていなかった。東京大学総合研究博物館の三河内 岳(みこうち たかし)教授が参加する国際研究チームは、今から約44.4億年前にマグマから結晶化してできた火星起源隕石NWA 7533の化学的・岩石学的研究を行い、太古の火星で起こった巨大な隕石衝突により地殻の溶融が起こり、非常に酸化的な特徴を持ったマグマが形成されたことを示した。これまでに火星隕石は100個以上見つかっているが、約44億年前の非常に古い形成年代を持つものは、このNWA 7533が唯一であり、火星誕生直後の地殻形成や表層環境進化を辿ることのできる重要な試料となっている。
 研究チームは、NWA 7533に含まれる、形成年代が約44.4億年前の火成岩質岩片を走査型電子顕微鏡(SEM)と四重極型誘導結合プラズマ質量分析(Q-ICP-MS)を用いて主要元素の化学分析を行い、さらにマルチコレクター誘導結合プラズマ質量分析法(MC-ICP-MS)によってTiの同位体分析を行った。その結果、これらの岩片を作ったマグマは元々の状態から比べて最大100万倍にも及ぶ酸素分圧の上昇が起こったことが分かった。
 また、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析(LA-HR-ICP-MS)も含めた微量元素分析の結果、これらの岩片にはNiやIrなどが濃集しているものがあり、火星外から隕石としてもたらされて、地殻が溶融した際に一緒に溶け込んだ成分である考えられた。
 これらの結果から、このような非常に酸化したマグマが作られた原因は、巨大な隕石衝突によって地殻が溶融し、その際に表層に存在していた水から酸素がもたらされたことによると解釈するのが適切である。
さらに、二次イオン質量分析法(SIMS)と同位体比質量分析計(IRMS)を用いた酸素同位体比分析によっても、岩片中に含まれる鉱物に17Oに富む特徴が見られるものがあり、17Oに富む水との反応によって、17Oに富むようになったと解釈することができる。これは、主要元素とTiの同位体分析の結果から得られた酸化的マグマを作った原因が水の存在によると言う解釈と同じであり、水の存在を補強する結果と言える。
 また、このような巨大な隕石衝突によっては、水から大量の水素ガスも火星大気中に放出されたはずである。火星大気は二酸化炭素を主成分とするが、水素が加わることにより温室効果が強まったと考えられる。例えば直径100キロメートルの天体衝突があったと仮定すると、火星大気の温度上昇は60度になり、液体の水が存在する期間は数千万年にも及んだと見積もられた。
 本研究の結果から、太古の火星に長期間ハビタブルな環境が続いていた原因が、火星誕生の直後から表層に存在していた水と巨大な隕石衝突によってもたらされた可能性が初めて示された。また、44.4億年前と言う火星誕生直後に水が存在していた証拠が発見されたのも初めてのことであり、他の太陽系天体でも同様のことが起こっていた可能性も示された。この結果は、生命誕生の環境がこれまで考えられていた以上に多くの太陽系天体に存在したことを示唆している。
研究チームは、現在、NWA 7533に含まれる含水鉱物の分析に着手しており、本研究の結果をさらに補強するデータの取得を目指しているところである。


本研究に使用したNWA 7533火星隕石。

論文情報

Zhengbin Deng, Frédéric Moynier, Johan Villeneuve, Ninna K. Jensen, Deze Liu, Pierre Cartigny,Takashi Mikouchi, Julien Siebert, Arnaud Agranier, Marc Chaussidon, Martin Bizzarro, "Early oxidation of the martian crust triggered by impacts," Science Advances: 2020年10月30日, doi:10.1126/sciadv.abc4941.
論文へのリンク (掲載誌別ウィンドウで開く)

お問い合わせ先

東京大学総合研究博物館
教授 三河内 岳(みこうち たかし)
E-mail:mikouchi(a)um.u-tokyo.ac.jp  ※(a)を@にしてください

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