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記者会見「ウイルスと戦うための新たな自然免疫の仕組みを発見」研究成果

記者会見「ウイルスと戦うための新たな自然免疫の仕組みを発見」

平成26年2月7日

東京大学アイソトープ総合センター


1.会見日時: 平成26年 2月 4日(火曜日) 14:00~15:00 
 
2.会見場所: 東京大学アイソトープ総合センター 1階大講義室(別紙参照)
          (住所:東京都文京区弥生2-11-16)

3.発表者:  東京大学アイソトープ総合センター 秋光信佳 准教授

4.発表のポイント
  ◆ノンコーディングRNA(タンパク質へ翻訳されないRNA)(注1)のひとつが自然免疫(注2)応答のスイッチ分子として働くことを発見
  ◆発見したノンコーディングRNAは自然免疫応答に必須なサイトカイン分子(注3)の発現を制御
  ◆本成果は、免疫の仕組みを解明する突破口であり、インフルエンザウイルス薬などを開発するための標的分子を提供できるため、医療・医薬品開発に貢献

5.発表概要: 
私たちの体には、ウイルス感染と戦う生体防御システムが備わっている。その防御システムの中でもウイルス感染の最前線となる自然免疫応答について、これまで幅広い研究がなされてきたが、その仕組みの全貌解明には至っていない。その原因のひとつに、自然免疫応答の制御を司る生体分子にタンパク質以外にどのようなものが存在するかを解明できていない点が挙げられる。そのため、タンパク質以外の生体分子に着目した研究が必要であった。

東京大学アイソトープ総合センターの秋光信佳准教授と大学院薬学系研究科大学院生の今村亮俊らの研究グループは、ウイルス感染と戦うための自然免疫応答を制御する新たな生体分子を発見し、その分子機能を解明した。発見した生体分子は、タンパク質へ翻訳されない特殊なRNA分子(注4)の「長鎖ノンコーディングRNA(注5)」であった。ヒトでは数万種類の長鎖ノンコーディングRNAが存在すると言われているが、それらの機能はほとんど解明されてない。今回の発見は、この長鎖ノンコーディングRNAが自然免疫応答のスイッチ分子として働くことを世界に先駆けて示したものである。

本研究の成果は、は免疫の仕組みを解明する突破口になると期待される。さらに、インフルエンザウイルス薬などを開発するための標的分子を提供できることからも医薬品開発などに波及効果が期待される。

6.発表内容:
20世紀後半から21世紀初頭にかけて行われたヒトゲノムプロジェクトの成果のひとつは、それまではジャンク(機能の無い無駄なDNA配列)と考えられていたゲノムDNAの配列からも多様な機能未知の転写産物RNAが生み出されていることを明らかにした点である。これら機能未知のRNAは、メッセンジャーRNAとは異なってタンパク質のアミノ酸一次配列を指令しないことからノンコーディングRNAと呼ばれるようになった。発見からおよそ10年が経過するが、この間、世界中で熾烈な研究競争が繰り広げられてきた。しかしながら、ノンコーディングRNAの機能の大部分は未だ不明である。

一方、ウイルスなどによって引き起こされる感染症は未だ大きな社会問題となっている。最近でもノロウイルス感染が問題となったことが記憶に新しい。現在はインフルエンザウイルスの流行が始まっている。そのため、ウイルス感染と戦う生体防御システムである免疫機構、中でもウイルス感染の最前線となる自然免疫応答の解明は科学的にも社会的にも大きな意義がある。これまで、自然免疫応答について幅広い研究がなされてきたが、その仕組みの全貌解明には至っていない。その原因のひとつとして、自然免疫応答の制御を司る生体分子にどのようなものが存在するかを解明できていないことが挙げられる。すなわち、自然免疫を調節する生体分子の発見が極めて重要となっている。免疫研究のブレークスルーのため、従来のタンパク質性分子以外の生体分子に着目した研究展開が必要とされてきた。

今回、東京大学アイソトープ総合センターを中心とした研究グループは、最新の分子生物学的手法、分子イメージング技術、バイオインフォマティックスを縦横に駆使して、ノンコーディングRNAのひとつであるNEAT1が自然免疫応答に必須なサイトカイン分子の発現を制御する分子スイッチとなっていることを発見し、詳細な分子機構を明らかにした。具体的には、まず、ウイルスに感染するとそれが刺激となって、ノンコーディングRNAのNEAT1が誘導されることを明らかにした。次に、誘導されたNEAT1が転写を抑制する働きをもつタンパク質SFPQを吸着して、その働きを阻害することを示した。転写を抑制するSFPQの働きが阻害された結果、サイトカイン分子を指令するメッセンジャーRNAの転写反応が促進され、それに引き続いてサイトカイン分子の大量生産が引き起こされ、結果的に、自然免疫活性が高まることを見いだした。

今回の成果は、ヒトゲノムの謎に光を当てる発見であると同時に、免疫応答の仕組みの解明に多大な貢献をもたらすものである。さらに、今回明らかになったサイトカイン分子の発現を制御する仕組みは、抗インフルエンザ薬などの新たな抗ウイルス薬の開発を加速する成果でもあり、社会的意義と医薬品産業への波及効果が高い。

研究グループは今後、自然免疫応答に関わるノンコーディングRNAを網羅的に探索し、免疫を調節する仕組みの解明を目指す。そして、ウイルス感染防御のみならず、花粉症などアレルギーやリューマチなどの自己免疫疾患の起きる分子機構を解明し、治療法開発や治療薬開発に貢献する。

この研究は、東京大学アイソトープ総合センター、東京大学大学院薬学系研究科、東京大学先端科学技術研究センター、東京大学大学院理学系研究科化学専攻、東京大学医科学研究所、東京大学大学院新領域創成科学研究科、筑波大学大学院人間総合科学研究科、九州工業大学大学院情報工学研究院の共同研究である。

7.発表雑誌: 
雑誌名:「Molecular Cell」(オンライン版の出版日:米国東部標準時2月6日12時)

論文タイトル: LncRNA NEAT1-dependent SFPQ relocation from promoter region to paraspeckle mediates IL8 expression upon immune stimuli

著者:
今村亮俊、今町直登、秋月源、熊倉充子、川口敦史、永田恭介、加藤哲久、川口寧、佐藤宏樹、米田美佐子、甲斐 知惠子、矢田哲士、鈴木穣、山田俊理、小澤岳昌、金木清美、井上剛、小林美佳、児玉龍彦、和田洋一郎、関水和久、秋光信佳(責任著者)*

8.問い合わせ先: 
東京大学アイソトープ総合センター 准教授 秋光信佳

9.用語解説: 
(注1) RNA:20世紀後半から21世紀初頭にかけて行われたヒトゲノムプロジェクトの成果から、以前は「機能の無い無駄なDNA配列」と考えられていたゲノムDNAの配列からも多様な機能未知の転写産物RNAが生み出されていることが判明した。これら機能未知の新規のRNA群は、タンパク質のアミノ酸一次配列を指令しないことからノンコーディングRNA(あるいは非コードRNAや非翻訳RNAとも呼ばれる)と呼ばれるようになった。
(注2) 自然免疫:ヒトの免疫は「自然免疫」と「獲得免疫」の2種類から構成されている。自然免疫は、免疫の初期段階を担い、獲得免疫は免疫の後期段階を担う。自然免疫は、ウイルス感染に抵抗するため、サイトカイン分子と総称されるインターフェロンなどを賛成することでウイルスに抵抗している。
(注3) サイトカイン分子:タンパク質の一種で、細胞から放出されて細胞間の情報を伝達する分子の総称。サイトカイン分子として免疫応答や炎症に関係しているものが多く知られている。
(注4) RNA分子:核酸の一種であり、リボ核酸の英文名称(ribonucleic acid)の略称である。
(注5)長鎖ノンコーディングRNA:ノンコーディングRNAの中でも、分子サイズが大きいRNAを特に「長鎖ノンコーディングRNA」と呼称している。

11.参考: 
アイソトープ総合センターのHP
http://www.ric.u-tokyo.ac.jp/
秋光研究室のHP
http://www.ric.u-tokyo.ac.jp/akimitsu/

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