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白い表紙にドイツの都市地図のイラスト

書籍名

ドイツ都市計画の社会経済史

著者名

馬場 哲

判型など

422ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2016年3月30日

ISBN コード

978-4-13-046117-7

出版社

東京大学出版会

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ドイツ都市計画の社会経済史

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19世紀初頭以降の工業化の進展と並行して、ドイツでも都市化が進展し、同世紀後半になると近世都市とは区別される近代都市が成立してきた。本書はこの過程を、ドイツ全体を視野に収めつつ、フランクフルト・アム・マインを主たる事例として、1870年代から1920年代の時期について考察することを課題とする。
 
本書は、4部から構成される。第I部では、研究史の検討とそれを踏まえた本書の課題が設定される。第1章では、ドイツおよび日本における近代都市史・都市化史研究の展開過程を概観する。第2章では、本書の課題の柱となる論点を、ドイツ全体の近代都市史に関わる先行研究と関連づけながら整理する。
 
第II部では、フランクフルトを事例として、ドイツ近代都市確立期の都市政策および都市化と工業化の具体的様相を検討する。第3章では、フランクフルトだけでなく第二帝政ドイツの代表的上級市長だったフランツ・アディケスに焦点を合わせて、彼の都市官僚としてのキャリア、実施した諸政策、それを背後で支えた彼の政策思想を検討する。第4章では、中世以来商業・金融都市として発展したフランクフルトが、1877~1928年に自治体合併による市域拡張を5回実施して工業の発展していた周辺地域を併呑して工業都市としての性格をも併せもつようになったことを明らかにする。
 
第III部では、広義の都市計画に関連する諸政策の社会政策的意義を、フランクフルトの事例について検討する。第5章では、19世紀末~20世紀初頭の市営化と電化を受けて都市公共交通の運賃制度が改定されたことにより「社会政策的」運賃が導入される過程を、「生存配慮」概念を念頭に置きながら明らかにする。第6章では、19世紀末~20世紀初頭のドイツの諸都市で実施された土地政策を、広い意味での都市計画の前提条件の創出を目指すものと位置づけて、その実施過程、成果、限界を、第一次世界大戦を画期とする「社会都市」が「社会国家」への移行過程と関わらせて検討する。第7章は、中世以来慈善・救貧の重要な担い手であった慈善団体が広大な土地を所有していたことから、フランクフルトでは、19世紀に入って市当局が慈善団体に対する監督を強化してその所有地が近代都市建設のために役立てられたことに着目する。
 
第IV部では、イギリスでドイツの都市行政・都市政策がどのように認識され、またどのように導入されようとしていたのかについて検討する。第8章では、T・C・ホースフォールが、ドイツの都市行政・都市政策を高く評価し、そのイギリスへの導入を主張するとともに、イギリス住宅改革運動・都市計画運動の有力な担い手となったことを明らかにする。第9章では、J・S・ネトルフォールドが、持論の市営住宅反対論をドイツの土地購入政策・都市拡張論を取り入れた都市計画論へと発展させ、全国立法を求めて都市計画運動に合流する過程を解明する。
 

(紹介文執筆者: 経済学研究科・経済学部 教授 馬場 哲 / 2016)

本の目次

序章
第1部 ドイツ近代都市史研究の展開と課題
 第1章 ドイツ近代都市史・都市化史研究の成立と展開: 研究史と前提
 第2章 ドイツ都市計画の社会経済史: 本書の基本的視角
第2部 フランクフルトの都市発展と都市政策
 第3章 アディケスの都市政策と政策思想
 第4章 工業化・都市化の進展と合併政策の展開
第3部 フランクフルトの都市計画とその社会政策的意義
 第5章 都市交通の市営化と運賃政策: 生存配慮保障の視点から
 第6章 都市土地政策の展開とその限界: 「社会都市」から「社会国家」へ
 第7章 都市当局と公共慈善財団の相補関係: 都市計画への土地提供と財政基盤の確保
第4部 イギリスにおけるドイツ都市行政・都市政策認識
 第8章 ホースフォールの活動と思想: ドイツ的都市計画・都市行政の紹介と導入の試み
 第9章 ネトルフォールドの活動と思想: 市営住宅反対論とドイツ的都市計画の融合の試み
終章

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