東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

深緑色の表紙に横一文字に細いピンクのライン、上部の白い四角の中にタイトル

書籍名

制度はいかに進化するか 技能形成の比較政治経済学

著者名

K. セーレン (著)、 石原 俊時、 横山 悦生 (監訳)

判型など

398ページ、A5判、並製

言語

日本語

発行年月日

2022年3月

ISBN コード

978-4-86688-235-2

出版社

大空社出版

出版社URL

書籍紹介ページ

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制度はいかに進化するか

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著者K. セーレンは、マサチューセッツ工科大学に所属し、国際的にも著名な政治学者である。本書が書かれた背景には、ゲーム理論などの適用に見られる政治学における数量的アプローチの台頭といった状況が存在した。セーレンは、それらの潮流に対し、現在制度が果たしている機能から制度の成立を説明する傾向があるとして批判的であり、制度の成立・存続・変容・解体といったプロセス全体を、それに関わる諸主体間の政治的争いという観点から把握しようとした。本書は、まさにこのような観点からドイツ、イギリス、アメリカ、日本において戦後高度経済成長期を支えることとなる職業教育制度 (特に企業内職業教育制度) が如何に成立してきたのかを描いた研究であり、比較政治経済学の古典とも位置づけられている。
 
本書で注目される主体は、具体的には、手工業親方、熟練工業労働者、熟練に依存する工業 (金属機械産業) の使用者及び国家である。それらの織り成す動態の中で、前工業化期の熟練養成制度が工業化過程の中で継承されていったのかどうか、工業化期を経て安定した企業内教育システムが形成されたのかどうかが問題とされる。安定した制度が形成されたのがドイツと日本であり、されなかったのがイギリスとアメリカになる。とはいえ、諸主体の歴史的性格やそこで働いた政治力学はそれぞれの国において大きく異なっていた。詳細は、本書を読んでいただければと思う。
 
一方、本書の課題はこれらの国における制度の成立を比較するのみではない。英・米・日の三つの国については、19世紀末から戦間期までが時期的対象となっているが、ドイツについては20世紀末まで分析は及んでいる。それは長期的スパンの下に同じ国の制度の展開を辿ることにより、制度進化が如何に行われてきたのかをより明確に捉えることが目的となっている。それにより、ドイツにおいては、19世紀末より驚くほど長期にわたって同じ制度的枠組みが継続しているように見えるのであるが、それを支える主体、その戦略やそこにおける当該制度が占める位置、制度が果たす社会的機能などは、時間を通じて大きく変化してきたことが浮き彫りにされるのである。セーレンの議論の真骨頂は、誰が見ても変化する局面のみではなく、一見すると何の変化も起きていない状況の中に歴史的変化を読み取る、いわば制度の漸進的な変化を理論的射程に収めたことにあると思われる。
 
本書の背景には、経済学におけるゲーム論などの興隆の政治学へのインパクトが存在した。本書が対象としている職業教育制度は、経済学や教育学の研究対象ともなってきた。本書が様々な専攻領域に所属する学生・院生に読まれ、将来学際的な議論や研究を生み出す一つの契機となれば幸いである。
 

(紹介文執筆者: 経済学研究科・経済学部 教授 石原 俊時 / 2022)

本の目次

序文
 
第1章 比較と歴史の視点から見る技能の政治経済
第2章 ドイツにおける技能形成の進化について
第3章 イギリスでの技能形成の進化
第4章 日本とアメリカにおける技能形成の進化
第5章 ドイツにおける職業訓練システムの進化と変化
第6章 結論
 
解説 (石原俊時)
あとがき (横山悦生)

関連情報

原著:
How Institutions Evolve: The Political Economy of Skills in Germany, Britain, the United States and Japan (Cambridge University Press刊 2004年)
著者: Kathleen Thelen
https://www.cambridge.org/core/books/how-institutions-evolve/41C3108269725FA3AF2C4AE87A50685E
 
書評:
濱口桂一郎 評「四社四様の資本主義」 (労働新聞第 3375号7面 2022年11月7日)
https://www.rodo.co.jp/column/139037/

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