東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

真っ赤な表紙に白の書名のタイポグラフィ

書籍名

Faderliga företagare i Sverige och Japan

著者名

Christer Ericsson、 Björn Horgby、 Shunji Ishihara

判型など

423ページ、171x240mm、ソフトカバー

言語

スウェーデン語

発行年月日

2015年

ISBN コード

978-9-173-31705-4

出版社

Carlsson Bokförlag

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Faderliga företagare i Sverige och Japan

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本書は、スウェーデンと日本における企業パターナリズム (patriarkalism、父権的温情主義) の歴史的展開を比較することを試みた書物である。しばしば、家父長的な社会関係は、近代以前の社会を特徴づけるものと考えられてきたが、近代化・工業化以後も、企業パターナリズムと見なしうる現象が繰り返し現れた。そこで本書は、職場に秩序をもたらし、企業の発展に協力させるため、様々な福利を提供するなどして従業員を企業に留めおき、企業に対するアイデンティティを強化しようとした経営戦略として企業パターナリズムと捉えて、長期にわたって繰り返し現れるこの現象を把握しようとした。すると、どのような問題に直面して企業がそうした戦略を選択したのかが問題となる。さらに、両国には、直面した問題に共通性があったのか、両国の社会や文化の差により、そのあり方に差が現れなかったのかも検討すべき課題として浮上する。また、企業パターナリズムとその歴史的展開に焦点を当てることにより、両国の社会・経済発展における共通性と差異が照らし出されることも期待される。

以上のような課題や目論見をもったとしても、座標軸なしに、ただ漠然と比較しては埒が明かない。そこで、企業が直面した課題の同時代的な共通性に着目し、その歴史的発展を3つの段階に区分した。すなわち、権威主義的パターナリズム、教諭的パターナリズムそして新パターナリズムである。権威主義的パターナリズムは、工業化期に、それ以前からの民衆の伝統的な規範や行動様式を色濃く残している労働者階級の第一世代を前にして、近代的企業として自己を確立していく過程で現れた。教諭的パターナリズムとは、第二次産業革命の進展を受けて大企業体制が生成・展開していく過程にあって、組織化が進んだ労働者階級に直面して企業が採用した形態である。新パターナリズムは、対する従業員が大衆消費社会化を経験し、殆ど中等教育以上の教育を受けるようになるとともに、高度経済成長が終焉し、もはや従来通りの大量生産・大量消費の体制が立ち行かなくなるようになった段階で生成した形態である。

しかし、このように企業の側からのみ捉えていては、その実態を見損なう可能性がある。従業員(労働者)の側がそれを、何故、どこまで受容したのかを見る必要があるであろう。むしろ、企業と従業員の相互関係という観点から捉えることで、企業パターナリズムの生成・展開・衰退の過程を動態的に把握できると考えられる。また、企業パターナリズムの歴史的展開を考えるのに、国家の役割も見逃せない。例えば、スウェーデンにおいては、福祉国家の成長が従業員にとっての企業の与える福利厚生の意味を減じていったことが指摘されている。本書は、以上のような観点から両国における企業パターナリズムの歴史的展開過程を比較しようとした書物である。
 

(紹介文執筆者: 経済学研究科・経済学部 准教授 石原 俊時 / 2016)

本の目次

Förord av Lars Vargö (元駐日大使による序文)
Prolog (プロローグ)
Inledning (序)

1. En japansk sonderweg (日本「特殊の道」)
2. Vägen till välfärdsstaten (福祉国家への道)
3. Teori och tidigare forskning (理論的枠組みと先行研究)
4. Auktoritär patriarkalism (権威的パターナリズム)
5a. Didaktisk patriarkalism i Japan (日本における教諭的パターナリズム)
5b. Didaktisk patriarkalism i Sverige (スウェーデンにおける教諭的パターナリズム)
6. En ny patriarkalism (新パターナリズム?)
7a. Japanska arbetarrörelsen och patriarkalism (日本の労働運動とパターナリズム)
7b. Svenska arbetarrörelsen och patriarkalism (スウェーデンの労働運動とパターナリズム)
8. Staten och patriarkalism (国家とパターナリズム)
9. Patriarkalismens förändringar (パターナリズムの諸変化)
Epilog (エピローグ)
Noter (注)
Källor (文献)

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