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グスタフ・カッセルの写真

書籍名

社会政策

著者名

グスタフ・カッセル (著)、 石原 俊時 (訳)

判型など

176ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2023年4月

ISBN コード

978-4-909560-37-7

出版社

蒼天社出版

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社会政策

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20世紀初頭のスウェーデンは、いわば危機の時代を迎えておりました。ノルウェーとの同君連合が解体し、英独露といった帝国主義列強の脅威が肌身をもって感じられるようになっているのにもかかわらず、経済や国防を担うべき青年層を中心にアメリカへの大量の移民が生じたうえに、工業化の本格的な展開に伴って労使対立が激化していたのです。一つ対応を誤れば、国が立ち行かなる状況であったと言えます。
 
こうした中で、国家がどのような道を進むべきか模索されることとなります。このグスタフ・カッセルの『社会政策』は、そうした試みの一つです。彼は、1920年代に貨幣・通貨問題の専門家として国際的に活躍し、当時世界でもっとも有名な経済学者の一人でありました。また、ケインズやストックホルム学派と敵対したため、一般的には守旧的・保守的な人物として知られています。しかし、彼が本国で社会的に注目されるようになったのは、この『社会政策』の刊行を契機としておりました。本書を見ればわかるように、刊行当時はむしろ改革派・自由主義派の論客でした。
 
カッセルは、スウェーデンが直面している状況に対し、社会政策を通じて市場の機能を健全に導くことによって経済成長を促進し、それに基づき階級融和を成し遂げていくことを主張します。限られたパイの分け前をめぐって争うより、パイを大きくして相互に協調していくことを求めたと言えましょう。そのようにして国民統合と経済成長を同時に成し遂げていくことにスウェーデンの活路を見出したわけです。いわば、経済と福祉の両立が目指されたわけです。
 
ところで彼は、眼前にある市場での競争が貧富の差を拡大し、それによって生じた貧困層の肉体的・精神的退化をもたらしていると考えていました。市場競争が望ましい形で機能するためには、その枠組を変えていく必要があります。彼が期待したのは、協同組合や労働組合といった市民社会の中で進む組織化とそれを補完する国家の直接的な介入であり、こうした組織化を促す政策とそれを補完する直接的国家介入が、彼にとっての社会政策でした。彼の具体的な構想の中には、後に実施されることとなる連帯賃金政策や積極的な労働市場政策を想起させるものも見出されます。そうした政策に見られるように、第二次大戦後のスウェーデンは、いわゆる混合経済体制の下で、経済成長と社会福祉の発展を同時に追及していきました。それゆえ、スウェーデンの社会福祉思想の一つ源流として、彼の『社会政策』は位置づけられると考えられるのです。
 
多くの人にとって、スウェーデンは馴染みのない国であると思います。ヨーロッパの辺境の貧しい小農の国から代表的な福祉国家に発展していった歩みの一齣として、本書は位置づけられます。何か関心を持たれた際には、本書を紐解いていただければ幸いです。
 

(紹介文執筆者: 経済学研究科・経済学部 教授 石原 俊時 / 2023)

本の目次



I 社会主義、自由主義および社会政策
II 協同組合政策
III 労働組合政策
IV 公的社会政策の任務
V 高賃金の経済
VI 社会的進歩の経済的可能性

【補録】我々の社会経済政策の指針 I・II・III

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