東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

書籍名

Effect of name change of schizophrenia on mass media between 1985 and 2013 in Japan: a text data mining analysis (Schizopherenia Bulletin, Volume 42, Issue 3)

著者名

Shinsuke Koike 、Sosei Yamaguchi、Yasutaka Ojio、Kazusa Ohta、Shuntaro Ando

判型など

8ページ (pages: 552-559)

言語

英語

発行年月日

2016年5月1日

ISSN コード

0586-7614

出版社

Oxford Journals

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この研究は、過去約30年間の新聞記事2,200万件の網羅的な調査から、統合失調症の病名に変更後、旧病名を使用する記事はほとんどなく、統合失調症の偏見・差別の減少に一定の貢献をしている可能性を示しました。その一方で、病名変更後も「統合失調症」を含む記事は、犯罪に関連づけされる傾向が続いていることも明らかにし、精神疾患についての報道のあり方を提案しました。
 
これまでの国内外の研究から、統合失調症が犯罪関連記事とともに報道されることが多いことは、偏見・差別を助長する原因の一つと指摘されてきました。日本では2002年に、統合失調症の名称を変更し、統合失調症の偏見・差別を小さくすることを世界に先駆けて示してきました。しかしこれまで、病名変更がマスメディアに与えた影響を網羅的に解析した研究はなく、実態の把握が望まれていました。
 
我々は、1985年1月1日から2013年12月31日に朝日新聞、産経新聞、毎日新聞、読売新聞で記載された29年間の新聞記事2,200万件から、旧病名、もしくは「統合失調症」を見出しもしくは本文に含む記事をテキストマイニングという手法を用いて抽出し、解析しました。そして、2002年の新聞記事では、38.9%統合失調症に関する記事が、旧病名と「統合失調症」双方の名称を含んでいる一方で、2004年以降は、3件に減少していることを明らかにしました。また、病名変更後も統合失調症に関する記事は、その見出しに用いられた単語の24.5%が犯罪関係であり、この傾向は名称変更の前後で違いはありませんでした。
 
これまでの犯罪研究により、犯罪事案は、統合失調症など精神疾患の有無よりも、貧困などの社会経済的状況、両親の離婚や虐待などの社会環境、アルコールや違法薬物の問題と関係していることが分かっています。マスメディア報道では、犯罪記事で精神疾患との関係を安易に結びつけず、他の要因も踏まえたうえで、多元的に議論する必要があります。
 
なお、この研究は、日本での反響はほとんどありませんでしたが、海外の研究者からより問い合わせがあります。その多くは、「なぜ日本のマスメディアはここまで完璧に用語を統一して使用できるのか」ということです。今回の結果のみからみると、マスメディアの報道の在り方に提案を示すものではありますが、諸外国の研究者からは、マスメディアの報道統制によって名称変更が成功した、とみる向きもあります。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 准教授 小池 進介 / 2016)

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