東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白から黄色のグラデーションの表紙

書籍名

相撲 その歴史と技法

著者名

新田 一郎

判型など

422ページ、四六判、上製

言語

日本語

発行年月日

2016年4月1日

ISBN コード

978-4583110165

出版社

日本武道館

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相撲 その歴史と技法

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大学院法学政治学研究科 (法学部) 教授の著書のタイトルに「相撲」の文字は、似つかわしくなく思われるかもしれない。しかし、「国技」と呼ばれるだけあって、相撲の歴史は「日本」という構造と密接な関係をもって推移してきたのであり、著者が専攻する「日本法制史」という分野と強ちに無縁なわけでもない。最初の著書として『相撲の歴史』(山川出版社1994→講談社学術文庫2010) を世に送って以来、なぜ相撲なのか、と問われる度ごとに、そんな自己弁護を繰り返してきたところではある。還暦が近づいた今なおマワシを締めて稽古に参加する相撲部長の言い訳を、まともに受け取ってくれる人は必ずしも多くはないが。
 
本書は、旧著『相撲の歴史』で示した相撲の歴史の全体像を踏まえつつ、まずは相撲の技法がその時々の条件の中でどのように構築され、条件の変遷に沿っていかに変容してきたかを辿り (第一部)、歴史の堆積の上に構築された現代相撲の技術分析を試み (第二部)、そして現在萌しつつある変化の先に相撲の将来像を展望する (第三部・結論)。相撲の技法についての実践的な解説書・指導書の類は世上それなりに流通しているが、本書は、相撲の技法の成り立ちを、固定された条件のもとで静態的に捉えるのではなく、環境条件の推移の中で歴史的な奥行をもって捉えた試みとして、他に類を見ない。歴史学者としての歴史的分析と、実践・指導に携わってきた立場からの技術的分析の両方を、一書に併せ具えることは、おそらく余人の能くなすところではあるまい。近時流行の「学際的」試みの独演版として、多少の自賛は許されようか。
 
いにしえの都の技芸として生まれた相撲が周縁へと流布し、長い間に大きな変化を経ながらも日本各地に同じような姿形で広く分布していることは、相撲を「相撲」として同定し条件づける力が中心から周縁へと向かって作用し、継起する変化を伝え標準化する作用を及ぼし続けてきたことを示す。そのような力のメカニズムは、「日本」という政治的・文化的な構造と不可分のものであった。各時代、標準化された相撲が流布した範囲が「日本」、といってもよい。実は本書は、相撲に材を取って日本を歴史的に語る、いわば「相撲の日本史」の試みであり、本書が示す相撲の将来像は、「日本」の将来像 (の可能性) の一断面に他ならないのである。
 
本書と関連する著作として、前述の『相撲の歴史』の他に、相撲の成り立ちを入門者向けにイラスト入りで概説した『相撲のひみつ』(朝日出版社2010) がある。触発されて相撲に関心を持ち、自分でもやってみようと思い立つ学生が、一人でもいてくれればいいのだが…。
 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 新田 一郎 / 2018)

本の目次

序論  相撲とは何か
  第一章  「公認相撲規則」の構造
  第二章  「相撲」の様々な輪郭
第一部  相撲の歴史と技法の変遷
  第三章  相撲の源流
  第四章  相撲の成立
  第五章  相撲の非「武技」化
  第六章  相撲の流布と職業的相撲人の登場
  第七章  「土俵」の成立
  第八章  紀州相撲の技術革新
  第九章  「相撲四十八手」考
  第十章  「まわし」の変遷
  第十一章  相撲故実の仕組み
  第十二章  「スポーツ」との出会い
  第十三章  「武道」と相撲 (上)
  第十四章  「武道」と相撲 (下)
  第十五章  体育としての相撲
  第十六章  「国技」としての相撲
第二部  現代相撲の技術的条件
  第十七章  現代相撲の基本的条件
  第十八章  相撲の技法の分析枠組
  第十九章  「立合い」の条件変化
  第二十章  現代相撲の基本技術 (その一)
  第二十一章  現代相撲の基本技術 (その二)
  第二十二章  現代相撲の基本技術 (その三)
  第二十三章  現代相撲の基本技術 (その四)
第三部  変化の胎動
  第二十四章  アマチュア相撲の成熟
  第二十五章  相撲の国際化と技法の複雑化
  第二十六章  「体重別制」の示す可能性
  第二十七章  普及と変革の構想
結論
  終章  相撲の将来像
 

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