
書籍名
天皇の歴史04 天皇と中世の武家
判型など
390ページ、四六変型
言語
日本語
発行年月日
2011年3月11日
ISBN コード
978-4-06-280734-0
出版社
講談社
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『天皇と中世の武家』は、鎌倉時代を扱った第一部「鎌倉幕府と天皇」を河内祥輔氏、南北朝・室町時代を扱った第二部「古典としての天皇」を新田が、それぞれ担当して執筆した。中世日本の「国家」の基幹的な構造を「朝廷・幕府体制」と捉えたうえで、第一部は、「武家」の成立によって「朝廷・幕府体制」が形成の緒につき、公武間の応答を重ねて動的な均衡の模索を繰り返す過程を、第二部は、鎌倉幕府の倒壊によっていったん崩れた「朝廷・幕府体制」がモデルとして回顧的に参照され再建を希求され、そうした動きがやがて「近世」の成立へと帰結する経緯を描く。
「天皇の歴史」を時代ごとに叙述するシリーズの一巻であるとはいえ、本書は単に時系列に沿って人の事績や事件の継起を辿るのではない。とりわけ第二部は、人が生き事件が起きる場が、どのような構造を持ち人々をどのように条件づけていたのか、その構造や条件がどのように推移したのか、そうした仕掛けの中で「天皇」がどのような意味を持っていたのか、といったことがらに着目する。人々は社会の中で無前提に「自由に」振舞うのではない。一定の条件が共有されてこそ人々の関係は形を成し、世界は安定した構造を獲得する。そうした条件を充足するうえで重要な役割を果たしたのが、世界を緩やかに同期する仕掛けの軸となる、「古典」というconventionalな装置であった。
去にし世のあらまほしきさまが、文芸や儀礼などにその姿形をとどめ、理想化されたモデルを示す。これに「古典」としての規範性を持たせ、その再興を掲げることによって、世界の営みに共通の志向性が付与される。中世を通じて、古今和歌集や源氏物語などが代表的な「古典」としての地位を確立し、平安の盛時に仮託された文明世界へ憧憬の視線を導き、武家をもその構図に取り込んで、中心から周縁へと卑俗化しつつ流布していった。それが、日本を日本として同定する条件にも関わることになる。
古典をモデルとして構想された世界において、天皇は容易に代替の効かない独特な位置を占め役割を担う。いわゆる「南北朝内乱」は、家系継承をめぐる公家社会内部の競争に、公家社会にモデルを求めて「家」の形成を模索する武士たちの動向が共振して生じた、いうなれば社会の生態学的構造上のニッチをめぐる無数の競争が織り成す、複雑な過程であった。この争乱とそれに続くエピソードを経て、天皇位を特定の血統ないし系譜に沿ってリニアに継承する「直系」が形成されたことは、その担うべき役割が截然と分かたれて武家の競争相手ではなくなったことと相俟って、天皇の生態学的地位の安定に帰着する。
本書が、この主題に関する叙述として独自の価値を主張しうるものかどうか、著者としては聊か量り難いものがあるが、従来のこの種の叙述の主流をなしてきた政治史とも制度史とも異なる、構造史的把握の試み、ということはできるかもしれない。
(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 新田 一郎 / 2016)
本の目次
はじめに
第一章 平安時代の朝廷とその動揺
第二章 朝廷・幕府体制の成立
第三章 後鳥羽院政と承久の乱
第四章 鎌倉時代中・後期の朝廷・幕府体制
第二部 「古典」としての天皇 (新田一郎)
第一章 朝廷の再建と南北朝の争い
第二章 足利義満の宮廷
第三章 「天皇家」の成立
第四章 古典を鑑とした世界
終章 近世国家への展望